22
だいぶ空いてしまいました。
穴から覗き込んだ場所は大きめの広場になっていた。
ただ、壁はほぼ全面溶岩が滝の様に流れており天井は空が見えている。
そのど真ん中にそいつは寝転んでいた。
「師匠、あれは?」
自然と小さい声で師匠に聞く。
「あれは、溶岩竜。名前の通り、溶岩の中に生息する。」
「火竜がいるって聞いてたのに来てみりゃ実は溶岩竜か。火竜より強そうだな。」
「火竜は討伐ランクCなのに対して溶岩竜はB、気を付けて。私は、この部屋にはさすがに入れない。」
「了解。」
いくら暗部の一人とは言え、周りが溶岩流で囲まれた部屋にはさすがに入れないだろう。
ただ、俺なら大丈夫だ。
熱さは全く感じない。
部屋を覗いていた穴の周りの岩を引き抜き、人が何とか通れる程度の大きさに広げる。
すると、肌に感じる風が少し強くなった。
師匠の方を一度振り返るとよほど熱いのか、数歩下がって水分補給をしていた。
「いっちょ、殺してくるぜ。」
「頑張って。」
師匠に親指を立てると俺は穴から溶岩竜のいる部屋に突入する。
そして、土埃を上げながらヒーロー着地。
高いところからの着地はヒーロー着地に限る。
しかし、溶岩竜はその音に気が付いたのか首を上げる。
そのまま俺を見つけると、ゆっくりとした動作で体を起こす。
まだこのマグマに囲まれた部屋に人間がいるのを十分に理解できてないんだろう。
「じゃあまずは、寝起きドッキリと行きますか。」
溶岩の流れは遅延し、溶岩竜の動きはさらに遅くなる。
その状態で溶岩竜の前まで歩いていく。
溶岩竜はまだ完全に体を起こしきれていない。
だが、そんなことは、あれだ、些細な事ってやつだ。
今から地面に這いつくばることになるんだからな。
俺は少しの笑みを浮かべると飛び上がる。
加速世界の中であれば、ざっと5mは飛べる。
その状態で俺は力いっぱい溶岩竜の横顔を殴りつけた。
その瞬間に能力を解除すると、溶岩竜は轟音と共に顔の一部を欠けさせて地面に叩きつけられた。
しかし、竜とはいうが案外弱いな。
いや、これはフラグか?
ともあれ、俺は倒れた竜を観察する。
何というか、竜というよりただの黒い岩の塊にしか見えない。
溶岩竜はさっきよりも早い動作で立ち上がる。
「ドッキリ大成功だな。」
そう溶岩竜に笑いかける。
しかし、溶岩竜はそれが気に入らなかったようで口から煙を出して俺を睨みつけていた。
少し遠目に見ようと俺は数歩下がる。
それに合わせて溶岩竜も数歩下がる。
その時だった。
溶岩竜の喉から爆音が発せられたのは。
いわゆる威嚇のための咆哮か何かだったのだろう。
しかし、異世界を侮ることなかれ。
その勢いに俺の体は吹き飛ばされていた。
その瞬間、俺は死を悟った。
なぜなら、後ろは、マグマしかないからだ。
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
熱い。熱い。熱い。熱い。
熱い。熱い。熱い。熱い。
熱い。熱い。熱い。熱い。
熱い。熱い………………。
いや、待て、熱くない。
服は一瞬で溶けたが俺の体は大丈夫だ。
俺の耐熱性は溶岩でさえも防ぐらしい。
驚かせやがって。
後は、ぶちのめすだけだな。
俺は能力を発動してマグマを泳いで出る。
上がった所の地面が溶け出していた。
溶岩竜は勝ちを確信してか空に向かって吠えようとしているところだった。
俺は普通に歩いて溶岩竜の前まで行く。
そして、殴る。
しかし、今回は一発殴ってすぐに能力を解除するのではなくひたすら殴り続けた。
200発以上打ち込んだところで数歩下がり能力を解除する。
その瞬間、溶岩竜は全身の岩らしきものを弾き飛ばしながら溶岩に突っ込んでいった。
「師匠ー、倒したぜー」
俺が振り返って手を振ると師匠が穴から顔を出して小さく手を振り返してくれた。
本当は竜の鱗とか肉とかを持ち帰ると高く売れたりするんだが、マグマに落ちちまった物はわざわざ取りに行くのもめんどくさいしいいだろう。
金は兄貴に任せておけば大丈夫ってのもあるが。
そんなことを思いながら師匠の所に戻ろうとしているとき、師匠が慌てたような顔で穴から身を乗り出すのが視界の端に見えた。
「ソラ、後ろ!」
その瞬間、能力をフルパワーで発動し振り向いた。
後ろには大きな口がすぐそこまで迫っていた。
あと一瞬でも能力の発動が遅れたら体を引き裂かれていただろう。
兄貴なら常に最悪の事態を考えろとか言ってこんな事態にすら陥らないだろう。
そんなことを思いながら、俺は溶岩竜を殴り飛ばした。
吹き飛ぶ溶岩竜を追いかけさらに一発入れて地面に落とす。
横から殴るのがいけなかったんだ。
「今度は、死ぬまで、ぶん殴ってやるぜ。」
溶岩竜には見えないだろうがニヤリと笑みを向けると、飛び上がり拳を打ち込む。
飛び上がったそのまま100発、200発と殴り続ける。
もう何発打ったかわからないぐらい時間が経ったころ、ついに加速世界の中でも地面がへこみ始めて殴るのをやめて地面に着地すると能力を解除した。
その瞬間、溶岩竜が地面にめり込み地面全体が崩壊した。
それのせいで俺も体勢を崩す。
師匠は大丈夫なのかと思い崩壊しだしている地面に手をつきながらも上を向くと、師匠のいた洞窟も崩壊を始めているようだった。
これはまずい。
俺はマグマに落ちても大丈夫だが、さすがの師匠でもマグマに落ちちまったら確実に死ぬ。
「師匠!」
俺は何とか立ち上がると師匠の元まで飛びあがる。
しかし、師匠も同時に飛び降りたため空中で抱き合う形になってしまった。
その瞬間、周りが真っ暗になり次の瞬間には俺らは水の中に居た。
とっさに俺は師匠の腕を引っ張り水面に上がる。
水面から顔を出し息を大きく吸い込み周りを見渡そうとするが濃い霧のようなもので視界が塞がれていた。
「ゲホッ、ゲホッ、ソラ大丈夫?」
水を飲みこんでしまったのか師匠は咳き込みながら俺の心配をする。
自分の心配をしてほしい。
「師匠こそ大丈夫なのかよ。」
「私は大丈夫。」
「そうか、よかった。で、ここはどこなんだ?」
「いつもの湖。」
「え?」
「ソラが熱すぎて水蒸気爆発するところだった。」
じゃあなんでこんなところに飛んで来たんだとも思うが、とっさに思いついたのがここだったんだろう。
俺は恐る恐る師匠の腕をとって聞く。
「もう、熱くないか?」
「えぇ。」
「そっか、じゃあもういいな。」
答えると俺は師匠を背負って岸があるだろう方向に向けて泳いだ。
すぐに岸に着く。
岸に着いた頃には霧、というか水蒸気の集まりもほとんど晴れていた。
岸に上がったそのまま師匠に肩を貸しテントが張ってあるいつもの広場に戻る。
いつもいる拠点なだけあってテントとテーブルとたき火の跡しかないのに実家に帰って来たような安心感がする。
師匠をたき火横のイスに座らせると、木材を集めてある場所から木を数本持ってきて火をつける。
そういえば、部分的なスピードの加速によって指パッチンだけで火がつけられるようになった。
それに、この世界の木材は燃えやすい。
俺の出す指パッチンの摩擦の温度が高すぎるのかもしれないが、それだけではないだろう。
異世界ってだけで納得できてしまうから異世界は楽しい。
「師匠、ごめんなさい。やりすぎちゃって。」
「ソラ。」
「はい。」
「口調。」
「え?あ、そっか。ごめん。巻き込んじまった。」
「………」
師匠は何も言わない。
その時俺の頭に何かが触れた。
俺はいつの間にか俯いていたようで、顔を上げると師匠が優しい微笑みで俺の頭を撫でていた。
「やめてくれよ、師匠。」
「私は暗部、大丈夫。」
「そっか。じゃあこれからも迷惑かけても大丈夫そうだな。」
「む。それは困る。」
「はっはっはっ。冗談だ、師匠。」
俺の冗談に困ったような顔をする師匠に俺は笑う。
たき火の火が温かい。




