20
「その子が魔人だと言うならあなたは……」
背の高い冒険者はうろたえながらリクの方を向く。
「俺は人間族だ」
「そ、……そう」
「断るなら今のうちだぞ」
リクはリリスを抱っこしながら依頼書を提示する。
「いいえ、一度受けた依頼を破棄するのは好きじゃないわ」
「そうか。で、そっちのは」
リクは、今度は背の低い方の冒険者に依頼書を見せる。
「わ、私も依頼は受けます」
「覚悟は出来ているんだな」
「も、もちろんです」
背の低い方の冒険者は少し戸惑いながらも頷いて見せる。
それに、リクは一つ頷くとリリスの頭に麦わら帽子を戻した。
「それじゃあ、自己紹介でも」
「その必要はない」
一番大事な話を終え、リクがソファに深く座るのを確認するとミミュレットが再度提案するが、リクは断る。
「背の高い方、名前はリンカ。冒険者ランクはC、初級の治癒魔法及び回復魔法が使える魔法使い。最近の悩みは、割の良い仕事が無いこと。であってるな」
「えぇ、合ってるわ。それは、誰かに調べさせたの?」
「いや、自分で調べた」
「あなたのことがよく分からなくなったわ」
「そうか、で、背の低いの。名前はフラケート。冒険者ランクはDだがバディとしてダンジョンに入った経験あり、だな」
「え、えぇ、そうです」
「そして……」
「ひぅっ」
リクが言葉を続けようとするとフラケートが小さく悲鳴のようなものを上げる。
「どうした、何か話されると厄介なことでも?」
「うそ、まさか、知ってるの」
「あぁ、Bランクパーティーのダンジョン攻略についていった際、バディの身で魔物を集めてしまい自分以外全滅。そこから付いた二つ名が殺到する魔物たち、モンスター・ラッシュ。少し調べただけですぐに出てきた。」
「そんな、じゃあ、あなたもわたしをのけ者にするのね。わたしを連れて行くと全滅するからって。」
そう言って、フラケートは手で顔を押さえて塞ぎ込む。
しかし、リクは顔色一つ変えなかった。
「フラケート、ダンジョンには付いて来い。気分が乗らないのなら後ろをついてくるだけでいい。世の中というものを教えてやる。明日朝外壁から朝日が見える頃、西門に集合だ。」
静かに言うとリクは立ち上がる。
その時、それまでは静かにリクの膝に座っていたリリスが声を上げた。
「パパ、もういい?」
「あぁ、もう大丈夫だ。帰るぞ」
「パパ、お腹すいた」
「何が食べたい」
「おにく!」
そのまま、リクは振り返らずにリリスを抱っこして応接室を出て行った。
「あの人はああいう人なんです。悪い人ではないんですけどね」
リクの居なくなった部屋でミミュレットがリンカとフラケートに話しかける。
「あなたとあの人はどんな関係なの?」
「私とリクさんの関係ですか?そうですね、一ギルド職員と冒険者です」
「そう、わかったわ。私はもう行くわ」
「はい、ありがとうございました」
リンカは小さくため息を吐きながら応接室を出て行った。
「フラケートさん、大丈夫ですか?」
リンカを見送り扉を閉めたミミュレットは次にフラケートに話しかける。
「あの人は何なんですか。もしかして、暗部の一人なんですか」
「一ギルド職員でしかない私には暗部が誰かはわかりません。ですが、あの人は暗部ではないです」
「じゃあ、なんで」
「あの人はああいう人なんです。弟さん以外には冷たいんです。でも、悪い人ではないですし、色々と知っていくと可愛い面もあるんですよ」
ミミュレットは微笑むがフラケートはその顔を見ることは出来なかった。
「職員さんは知ってたんですか?」
「はい、その事実と噂は知っていました」
「あの人には……」
「教えていませんよ。」
「そうですか……失礼します」
フラケートは暗い顔のまま応接室を出て行った。
次の日の日の出の少し前に、リクは眠ったままのリリスを抱っこして西門に来ていた。
出発の準備は万端だ。
異世界には欠かせないアイテムバッグも、少し高かったが買ってある。
だが、中身は簡易的な調理用具と食材でほとんどが埋まってしまっている。
食べ盛りのリリスのためだ。
そこに、昨日の冒険者二人が集まった。
フラケートも、まだ少し暗い顔をしているが仕事はしてくれるようだ。
二人が集まったところでリクはリリスを起こさないように少し声を押さえて声を掛けた。
「街門の外に馬車を借りてある。目的地は依頼書にあった通りここから二日ほど行ったところにあるダンジョンだ。今日は野宿になるが明日はこちらで宿を用意させてもらう。ダンジョンの中での細かい動きは今日の夜の野宿の時に伝える。以上だ。馬車まで案内する」
一通り言うとリクは街の西門を出ていく。
冒険者二人はその後に黙ってついていく。
西門を出ると、一台の馬車が置いてあり門兵が馬を撫でていた。
「ありがとう、そろそろ出る」
「おぉ、そうか、頑張ってきな」
「行ってくる」
リクは門兵と少しだけ声を交わし馬車を受け取り、リンカとフラケートの手を取って馬車に乗せる。
そして、自分は業者台に座ると馬車を走らせ始めた。
それから数十分ほど三人とも何も喋らずにただ流れゆく景色を眺めていた。
しかし、しびれを切らしたリンカはリクに話しかけていく。
「リク、だっけ、呼び捨てでいい?」
「あぁ、構わない」
リクは相変わらず、膝の上で眠るリリスの事を考えてか少し小声でゆっくりと返す。
「リクって意外に優しいのね。馬車に乗る時に手を取ってくれたりとか。もしかして、リクって貴族かなんかの出だったり?」
「生憎、記憶を喪失していてな。弟がいること以外は何も覚えていない」
「あ、そうなの、ごめんなさい、変なこと聞いちゃったわね」
「初対面相手にはそんなものだ。気にしていない」
「そう、あなたってちょっと不思議な人ね」
「魔力の無い俺からすれば回復魔法や治癒魔法が使えるリンカの方が不思議に思えるが」
「リ、リンカって……」
「嫌だったか?お前やら、君と呼んでいてはどちらかわからないだろう」
「それもそうね」
「フラケート、お前もそれでいいな」
リクはここで黙って話を聞いていたフラケートに振り向かずに声を掛ける。
「は、はい、大丈夫です」
声を掛けられると思っていなかったフラケートは体をビクつかせながら答える。
「そんなに怯えるな。取って食ったりはしない」
「リクさんは喰人鬼なんですか!?」
さっきまで暗い顔をしていたフラケートはしかし、表情を一転させて驚いた。
「そうではない。言葉の綾というやつだ」
「そ、そうですよね」
否定されたフラケートは少し頬を赤くし恥ずかしそうに膝を抱える。
「フラケート、喰人鬼の話が好きか?」
「知ってるんですか!」
フラケートは今度は身を乗り出してリクに問いかける。
「そう乗り出すな、落ちるぞ」
リクは身を乗り出したフラケートを押し返し座らせる。
「街の図書館で読んだ。一時期あそこに籠っていたからな」
「そうなんですね。私は喰人鬼のお話を読んで、会ってみたくなったんです。山奥のお城に一人で住んでいるのになんで人喰いって呼ばれてるのかとか、本当に人間族のお肉しか食べないのかとか聞いてみたいんです」
「怖いもの知らずだな」
喰人鬼。
または、吸血鬼とも呼ばれる存在。
名前は、ブラド、ブラド四世だ。
元の世界のドラキュラの愛称で知られるブラドは三世だが、何らかで死んだか世界が違うから少し違って出来たのだろう。
「それで、本当に人を喰っていたらどうするつもりだ?フラケートのような好奇心旺盛な者を喰らって生きているのだとしたら」
「そ、その場合は、……リ、リクさんに助けてもらいます!」
「俺も一緒に行くことが確定しているのか」
「私と一緒は、嫌ですか?」
「そうだな、弟が見てみたいと言ったらその時には呼んでやろう」
「ギルド職員のミミュレットさんが言っていた通りですね」
フラケートはさっきまでの落ち込みは嘘だったかのようにクスリと笑う。
「ミィが何か?」
「弟さんが大事で、何でも弟が弟がって自分の事は見ていないって言ってました」
「……そうか」
リクはフラケートに肩をすくめて見せた。
「わたしも連れて行ってほしいなー」
リンカも行くと言い出した。
「その時があったらな」
これはフラグが建ったなと思いながらもリクは頷く。
その時、リクの膝で眠るリリスがもぞもぞとし始めた。
「んぅ、パパ?」
「おはよう、リリス」
「おはよ、パパ!」
「元気がいいな」
「うん!」
寝起きでも元気なリリスに励まされ、ちょくちょく現れる魔物たちを追い払いながら日が沈む少し前までのんびりと進み街道脇にテントを張って野宿となった。
「おやすみ、見張りお願いね」
「お願いします、お休みなさい」
「あぁ、リリスを頼む」
そう言ってリクはテントを出ると外で瞑想を始める。
そして、次の日の朝早く起きた一行はテントをたたんで目的のダンジョンに一番近い街、ボーンネイドに向かった。
それから馬車に揺られること数時間。
一行は太陽が見えなくなり始めたころにボーンネイドの街に到着し宿を探し始めた。
だいぶ遅くなってしまいすいませんでした。




