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「そろそろ持久力の訓練はいいんじゃないか?」
リクがそう言った次の日からソラの修行はほぼ実戦形式の修行に入った。
森の中、街中、水中、あらゆるところでの実地訓練だ。
ただずっと能力を発動していればいいというわけでは無く、状況に合わせて能力を切ったり、緩急をつけたりと、応用力の育成につながる。
街中での戦闘は、基本街の人が居ない早朝にしかやれないが、街の人にはすでに有名になっている。
兄のリクはと言うと、三日ほどソラの修行に顔を出さなくなったと思ったら一言、行ってくる、とだけ言いに来てダンジョン討伐へと向かった。
「それで、ソラもどこかに行くの?」
「竜に会いに行きたいんすよ。兄貴から少し話を聞いて、本当にいるんでしょう?」
「えぇ、いる。ソラが行くなら私も行く。」
「いや、師匠は」
リュックに荷物を詰め込んでいた手を止めてソラは断ろうとする。
「お兄さんにソラを頼まれているから。」
「……はぁ。兄貴も師匠も俺を心配しすぎなんすよ。」
「それほどソラの事が大事なのよ。」
カミナは微笑むと、ソラの準備を手伝い始めた。
「それは嬉しいっすよ。」
「それはよかった。」
「皮肉っすよ。」
「私もよ。」
ソラは微笑を浮かべるとカミナから受け取った荷物をリュックに詰め込み始めた。
そして、師匠の準備などもあり二日後、俺たちはウェルミュレの街を出発となった。
ほとんどの荷物は師匠の魔法の空間にしまい込んであるから俺がリュックで少し担いでいるだけだ。
魔法のバッグとか呼ばれる、空間属性の魔法を応用して作られた見た目以上の量の物を入れておくことが出来るバッグもあるらしいのだが、もちろん師匠はいらないし、俺には兄貴が少し金をくれたとはいえ魔法のバッグはすごく高く買うことはあきらめた。
師匠に甘えるなと言われたのもあるんだけど。
馬車も自家用を買うと高いから、乗り合いをいくつも経由していくことになる。
今はウェルミュレで乗り合い馬車に乗って、途中の街のグリーウッドに向かっている途中だ。
グリーウッドまでは馬車で二日かかるらしい。
明日の夜にグリーウッドにつくということだ。
周りの人は、泊るとこどうするかな、と話し合っていたが師匠は最悪街の外で野宿すればいい、と俺に言った。
俺はいいのだが、師匠は女の人なのだし大丈夫なのだろうかと思いもしたが、この人はこんなに俺には優しくても暗部の一員だったんだと思い出し言わなかった。
その日の夜、中継所での夜の監視は師匠と俺が請け負った。
俺は正直寝たかったんだが、師匠が有無を言わさぬ無表情でこちらを見てきたから黙っておいた。
今日は黙ることが多いな。
「師匠、なんで請け負ったんすか?しかも、交代制の所を全部なんて。」
「これまで、夜の修行はしてこなかった。他人がいる状況でもね。」
「そうっすけど。」
街中で訓練をしたことはあっても、こんな近くに人がいたことは無かった。
しかし、こんなところで真夜中に実戦訓練でもするつもりなのか。
「気付いて無いかもしれないけど、滝に居た時より緊張しているはず。だから、そういう時に能力を使う訓練。」
「なるほど。了解っす。」
応えて、俺は地面に胡坐をかいて瞑想に入る。
能力を発動させると聞こえていた虫の鳴き声や、乗合馬車に一緒に乗っていた人たちの息の音も低くなる。
俺はこの時間が好きだ。
加速された、誰にも追いつく事の出来ない世界。
いつかは師匠にも、兄貴にも追いつけないほどの早さで駆け抜けてやる、そう思っている。
師匠も俺の横に座って瞑想に入る。
瞑想する時の座る位置が日に日に近くなっている気がするが、気のせいだろうか。
「いつか師匠を超えていきますからね。兄貴が待っていますから。」
師匠に対して言うが、俺の早さで喋ると師匠でも聞き取れない。
こちらを向いて首を傾げる師匠にはゆっくりと首を横に振っておいた。
「あなたなら、追いつける。」
暗部の本気の欠片を見た気がした。
次の日、いつの間にか寝てしまっていたようで、日の出の光が眩しくて起きたら師匠の膝を枕にしていた。
「あぁ、すいません。眠いんでもう少しいいですか?」
「いいけど、もう前みたいに恥ずかしがってはくれないのね。」
「師匠だからっすよ。母、いや、お姉ちゃんみたいな感覚なんすよ。」
「そう、お休み。」
「あい、少しだけ。」
結局、二度寝して30分後ぐらいには起こされた。
近くに川や湖のようなものは無いらしく、水属性の魔法が使える人に水をもらい顔を洗って口を漱いでおいた。
小銭を要求されたが、兄貴から教えられていたから慌てることなく少し多めに渡しておいた。
「冒険者か?」
「そうっすよ。」
「出先でも身だしなみに気を付ける冒険者なんて初めて見たぜ。」
「男でって事すか?」
「いや、女でもあまり見ないな。まぁ、俺は普通に街の中で仕事してる身だから戦場の事はわからないが、戦場だったらなおさら身だしなみを気にしてる暇なんてないんじゃないか。」
「なるほど、俺は少し離れた離れたところから最近こっちに来たんでわからないっすけど。あっ、でも記憶がなくってどこから来たか覚えてないんすけどね。」
困ったように笑ってみせる。
危ない、記憶喪失だってことを忘れるところだった。
「記憶喪失なのか、お前。大変だろう。」
「いえ、優しい人が多い街にたどり着けたんで楽でしたよ。ここにはいませんが、兄貴もいますし。」
「そうか、兄弟がいるのか。それなら心強いな。兄貴も冒険者か。」
「えぇ、たしかもうランクDになったんだったかな。」
「中級の冒険者か。お前もか?」
「俺は一つもクエスト受けて無いんでFのまんまっす。」
そう言うと、男は笑うから併せて俺も笑っておいた。
することのない俺は幌の後ろを開けて外を覗いていた。
街道を通っているんだが、舗装は基本されていない。
街の近くだけだ。
場所によっては、街から一歩出ると舗装されていないところもあるとか。
領主ごとに違うということだろう、と兄貴が言っていた。
何もせずボーっとしていると、道が舗装され始めた。
それに気づき、前を向くと、大きな街壁が近くまで来ていた。
馬車が列に並び、順番が来ると馬車の業者が何かのカードを見せ、門番が中の人を一通り見てすぐに通された。
師匠を見た瞬間に門番二人は緊張した顔になっていたが、暗部なのに有名なのだろうか。
後で聞いてみようか。
グリーウッドの街はウェルミュレの街とあまり変わらなかった。
明らかに違う町というのはわかるし、雰囲気も少し違うのだが、のんびりとした雰囲気がとてもよく似ている。
夜でも魔法を使った街灯で道はある程度見えるようにはなっている。
「で、師匠。一応宿屋探します?」
「そうね、少し探しましょう。」
結局、宿屋を探そうと言って探し始めて二軒目で、同部屋でいいなら空いてるよと言われそこにした。
次の日は、乗り合い馬車が少し遅れているらしく、一日暇になった。
一日中師匠の買い物に付き合わされてしまった。
荷物持ちをしなくていいだけまだましと考えるべきか。
俺は兄貴の様に怪力キャラじゃないから荷物持ちは遠慮したいところだ。
「ありがとう。」
「え?」
「宿屋で寝ていたいんでしょ?」
「まぁ、そうっすね。」
「だから感謝の言葉は言っておかないと割に合わないんじゃないかと思って。」
「大丈夫っすよ。」
正直、宿屋で待っていても暇なことに変わりは無いから連れ出してもらえてよかったかもしれないしな。
そのまた次の日、遅れてきた乗り合い馬車に乗って、竜が住むと言われる山の麓にある村まで向かった。
遅れた理由は魔物の集団に襲われ、車輪が破損したかららしい。
運良く予備が車体の下に取り付けられていたからそれに応急的に変えて街まで来たんだとか。
そのまま次の街に行くわけにもいかず、一日整備の時間を設けて今日の出発になった。
急いでいないからどうでもいいが。
昼休憩を挟んで太陽が最大射角に到達するころに目当ての村に着くことが出来た。
そこでは俺と師匠しか下りなかった。
水をもらった男とはグリーウッドの街ですでに別れている。
「ソラ、ここら辺に出る魔物の情報は……知らないのね。」
そんなん必要なのかと思っていたら顔に出ていたのか師匠に呆れた顔をされてしまった。
それはなんとかなるだろう。
俺らは村に入っていく。
頑丈そうだが、木でできた柵で村は囲まれているようだ。
こういう場合、どうするのがいいんだろうか。
兄貴に聞いておくんだった。
とりあえず、村長宅でも訪問しておけばいいだろう。
入り口からまっすぐ一番奥まで行ったところにある周りより少し大きい家が村長宅だろう。
いや、あれがそうじゃなかったら住んでる奴を殴ってやりたい。
「とりあえず、あの村長宅っぽいところ行ってみます?」
「そうね、後ろにいるから頑張って。」
指さして師匠に提案すると、自由にやりなさいと言ってもらえた。
実際には言ってないが、後ろにいると言ってくれたということはやってみなさいという意味が込められているんだと思えたんだ。
俺は村長宅に向けて歩き出した。




