12
やはり、フラグという物は、認識した瞬間から回収されるべきモノに成り果てるのであって。
パッと目が覚める。
少し外が騒がしい。
リクはベッドから這い出し、窓を開ける。
どこかで火の手が上がっていたりするわけではないようだ。
しかし、北門の方が騒がしい。
「言ってみるか。」
呟くと、リクはシャツを羽織り宿屋を出ていった。
「ソラ、起きて。ソラ。」
「ん、あぁ、どうかしたんすか師匠。師匠が慌てるなんて珍しい。」
寝ぼけ眼をこすり、あくびを噛みながらソラは答える。
「マスターから呼び出しがあった。北門に来てッて。」
「こんな夜に?夜這いなら俺に構わず仕掛けに来ればいいのに。」
「マスターと私はそんな仲じゃない。」
カミナは頬を膨らます。
「わかってるっすよ。で、俺も来いと?」
「それは言ってなかったわ。」
「じゃあ、なんで起こしたんすか?」
「そんな笑顔で言われても困る。」
結局のところ、事件の予感に沸き立つソラであった。
ウェルミュレの街、北門。
深き闇に包まれているはずの時間に、北門付近は光の魔法で昼のように明るくなっていた。
だが、その光はより一層闇を引き立てる。
「どうしたんですか?」
北門に到着したリクは、北門を出たところに立っていたギルドマスターであるフリンドルに話しかけた。
「この街初めての非常事態だ。ギルドマスターの私でもこれ以上前には出させてはもらえない。」
フリンドルの言葉を示すようにフリンドルの前には、国の駐屯兵が自らの体で防壁を作っていた。
そこに、空間移動のゲートを通ってカミナとソラが到着した。
「マスター、どうかしましたか?」
カミナが首を傾げる。
フリンドルはカミナに現在わかっていることを一通り話した。
「なるほど、魔族が……」
北門前に、魔族の親子と思われる二つの影が現れたらしかった。
それを今は、ウェルミュレ駐屯兵団の団長が相手しているらしい。
「正直、もう少し情報が欲しいところだが、駐屯兵団が来てしまえば我々ギルドが出ることは出来ないからな。」
「ですね、こんなところに魔族というのも気になります。確かにこの国は一の魔王の国と隣接していますが、ウェルミュレはそちらとは反対の方向にあるはずです。」
「兄貴、もうここら辺の地理頭ン中入ってんのかよ。」
ソラは目を丸くする。
「この大陸の地理はほとんど覚えた。」
「さすが兄貴だよ。」
ソラは呆れたように笑った。
「僕も魔族は気になります。実物は未だ見たことがありませんから。」
そう言うと、リクは駐屯兵団の壁に向かって歩き出す。
その後ろにソラも付いて行く。
その様子に気付いた駐屯兵団は二人を止める。
「待て、ここから先は安全面を考慮して一般人を通すことは出来ない。」
「大丈夫だ、心配してくれてありがとう。」
そう言うと、リクは目の前の二人の肩を両手で押すように腕を出す。
それと同時に、駐屯兵は絶対に通さぬと身構える。
その瞬間、リクは二人の肩を掴み押すのではなく、引っ張ることで地面に倒してしまった。
周りの駐屯兵も仲間がそこら辺の筋肉もあまりない青年に負けるとは思わなかったのか、止まってしまっていた。
それを無視して、リクとソラは前へと進んでいく。
「おい!待て、それ以上は…」
倒された駐屯兵の一人が慌てて立ち上がりリクを止めようとする。
「いい、通せ。」
「ですが、班長…」
腕章をつけた兵士がそれを止めた。
「そこの、この先何が起きても我らは責任は取らないが、それでいいな。」
「勿論だ。」
リクが一言だけ答えると、二人は歩みを止めずに北門を出た。
少し行くと、先ほどの兵士たちよりも重装備の兵士が円状に何かを囲んでいるのが見えた。
その何かが魔族なのだろう。
さらに二人が近づいていくと、一番豪奢な鎧を着た男が気付いてこちらを振り返る。
「増援、ってわけじゃなさそうだな。」
「ただのやじ馬だ。」
「やじ馬は来させるなと言っておいたはずなんだが。」
「生の魔族が見たくてな。通してもらったよ。」
「命知らずな餓鬼どもだ。こっちに来い。俺から5メートル以上離れるな。逃げる時は俺が背を向けてる方向にしろよ。」
色々と注文が多いが、この人は絶対にいい人だ。
「了解した。」
しかし、リクは一言だけ応えるとその男の近くへと行く。
無論、ソラはその後ろに笑顔で付いてきている。
「俺はウェルミュレ駐屯兵団団長のアルクラッドだ。俺から離れるなよ。」
「リクだ。」
「ソラ。」
リクは、相変わらず一言で答え、ソラに至っては魔族を早く見たいのかもはやアルクラッドの方向を見ていない。
「見えるか?あれが魔族だ。」
アルクラッドが指差して示す。
二人はそろって目を凝らす。
そこには、体の黒いわかりやすい魔族が兵士に囲まれている。
「もう少し近くで見られないか?」
「あぁ?しょうがねえな。ただし、俺から3メートル以上離れんなよ。」
距離がさらに縮まった。
少し近づいてよく見ると、情報通り魔族の親子らしかった。
しかし、親の方がだいぶひどい傷を負っている様に見える。
「あの傷は兵士がつけたのか?」
「そんな怖い顔すんなよ。確かに半分はそうだが、元々ここに現れた時からだいぶ消耗していたと聞いている。」
「そうか。」
親の方は、兵士たちの事をかなり警戒しているらしく、ずっと威嚇をしている。
その足に隠れる少女は怯えて、遠目にもわかるほどに震えていた。
…………。
待て。
少女。
何故、魔族と人間族が一緒に居る。
その瞬間、リクの頭にはその日図書館で読んだ一冊の本のある一節が流れる。
「なぜ、人間のお前に角が生えている?」
「あぁ、言ってなかったか?俺、魔族と人間族の間の子供なんだ。」
英雄ガンタの冒険に出てくる、ガンタの親友となる男。
彼は自分をいわゆる魔人族だと名乗った。
魔物大全の魔族の備考欄にも魔人について少しばかり書かれていた。
大抵は穢れているからと殺処分されるとも。
もう、殺処分という表現が気に入らない。
「アルクラッドと言ったか、あの子、魔人のあの子はこの後どうなる。」
リクの何かに反応するようにソラの足に力が入る。
「あぁ、俺も魔人は初めて見た。十中八九殺処分だろうな。」
その言葉にリクの何かが切れた。
「ソラ、殺すなよ。」
その言葉と同時に、あたりに甲高い破裂音が響き渡る。
その一瞬後、魔族の親子を囲んでいた兵士たちは一人残らず地に伏した。
「お前ら、何をやった!」
アルクラッドが目の前で起きたことのわけが分からず吠える。
魔人の少女はそれにさえ怯えて身をすくませていた。
「静かにしていろ、人間。」
リクはアルクラッドの肩を掴むと、能力を使った膝蹴りで意識を刈り取った。
そして、親子の元へと歩いていく。
途中でリクに気付いた魔人の少女が親の足に隠れようとしたところでリクは歩みを止めてその場に座る。
それを見て、今度は親の方が少女の手を取って一歩前に出るとそこに座った。
『Danke,Wir konnten dank Sie. um uberleben Allerdings werde ich bald sterben Also, ich will dich dieses Kind anvertraut.』
その親は、唐突に話し始めた。
リクよりも3歩程後ろでしゃがんで観察していたソラにもかろうじて聞こえる音量ではあったが、ソラには内容が理解できなかった。
「ドイツ語か。『Warum nicht wir tun es nicht?』」
『魔族語が話せるのか?駄目元であったが、幸運だった。いきなりで悪いが、この子を預かって……いや、もらってほしい。』
親であろうなんでかかなり慌てているようだ。
『何故?私も人間族だ。信用できるのか?』
内容のわからないソラは魔人の少女をボーっと眺めているだけだ。
『魔族の伝承には、魔力の無い人間族は信用できる、と言われている。』
『その子は、貴方の子どもか?』
『そうだ、私と人間族である妻との間に生まれた子だ。私はもうすぐ力尽きる。その前にこの子だけでもどうにかしてあげたかった。』
「フラグは重なるもんだな。あまりフラグばかり抱えすぎるのも嫌だが、『分かった。その子をもらう。』」
数秒考えたリクは、結局ほかっておく選択肢は元から無いのだからとそれを受けた。
と、その時、
「兄貴、この子、どうするんだ?」
ソラに呼ばれて、弟は当たり前だがドイツ語は分からないんだったと少女を受け取ることを伝えようと後ろを向いたところで止まってしまった。
いつの間にか、ソラの膝の上にその少女がお座りしていたのだ。
『良かった、気に入ってくれたようだな。これで安心して任せられる。』
安堵の表情を見せる魔族の親。
「ソラ、その子を譲り受けることになった。」
「なんで?」
「なんでも、この人はもうすぐ死ぬらしい。」
「傷だらけだけどそんな風には見えないな。」
「確かにそうだな。詳しく聞いてみよう。」
そう思い、リクは魔族の親の方へと振り返る。
しかし、振り返って気付いた。
この質問はフラグだったなと。
魔族の親の腹から剣が生えていたのだ。
なのにも関わらず、娘に向かって笑顔を向け続けていた。
『すまない、人間族の。後は任せたぞ。』
「あぁ、娘と仇は任せろ。」
倒れかかってきた魔族の親をリクが抱き止めると、光の粒子となって消えていった。
『ふん、人間族に任せるとはな。』
『パパ?パパは?』
親の後ろに立っていたのは親と同じく、わかりやすい典型的な魔族の戦士。
その戦士がリクを見て鼻で笑うと同時に、少女はソラに抱かれたまま父親の粒子を見て今にも泣きそうな声を上げた。
リクは、魔族の戦士を無視して少女の方へと振り返る。
『すまない、君のお父さんを守ってやれなかった。』
『ふん、私に気付けたところで守ることは無理だったがな。』
魔族の戦士が何かを言うが、リクはなおも無視を続ける。
『パパは?』
『……、お父さんは、永い眠りについてしまった。もう、会えない。』
『なんで?な、なんで?いや、いや、いやあぁぁぁぁぁうあぁぁぁぁ。』
少女がついに泣き出してしまう。
『すまなかった。』
『案ずるな、すぐにまとめて…』
魔族の戦士は、最後まで言うことが出来なかった。
なぜなら、リクに顎を思い切り掴まれたからだった。
『貴様…』
『少女よ、これはただの悲しみの連鎖だ。真似せず、よいこに育て。』
言い終わると同時に、その場には気持ちの悪い音が鳴った。
リクは魔族の戦士の顎を握り砕いたのだ。
『どこかで聞いた。殺す者は、殺される覚悟を持ってないといけないのだと。覚悟は、出来ているのであろう?』
いつも薄目の眼は最大まで開かれ、魔族の戦士を睨みつける。
それは、魔族を以ってしても恐怖を抱くほどの眼であった。
ソラでさえ、周りの闇が一層濃くなったと錯覚を覚えるほどに。
『あが、がぁ。』
「訳など聞かない。どうせテンプレだろう?人間族との間に生まれた子どもなど汚らわしい、と。」
魔族の戦士は、自分の顎を押さえながら立ち上がるとリクといまだ泣いている少女を抱いたソラを睨みつける。
「ソラ、ここは俺がやる。その娘は頼むぞ。」
「ただ抱いてるだけだろ?」
「そうだ。」
『私に攻撃を加える人間族がいたとは。』
『お前の遺言はそれか。』
喉から直接音を出すという意味不明なことをする魔族の戦士のその技を無視して、リクはいつも通りに戻った薄目で戦士を見る。
「フラグは建った。これより死刑を執行する。『覚悟はいいな。』」
『ずっと聞いていればぬかしおって。貴様もまとめてあの世に送ってくれるわ!』
戦士は剣を振り上げる。
しかし、リクにはそれさえも予測出来ていた。
「だから、テンプレはいらないんだよ。」
いつも通りの口調でつぶやくと、一歩前へと出る。
そこへ、戦士の剣が振り下ろされる。
リクは、それの柄を叩き外側へと流し、180度前向きから後ろ向きへと回転しながらもう一歩懐へと入る。
そこから、一度流した腕を無理やり引き寄せ、自分の背を丸め、そこに相手を乗せるように腕を下方向に引っ張る。
その瞬間に、能力を発動し思い切り地面へと叩きつけた。
そう、背負い投げの要領だ。
魔族の戦士が叩きつけられた衝撃で轟音と衝撃波が発生し周りの木々が踊りだす。
それは、魔族の戦士の敗戦を嘲笑うかのようだった。
「お疲れ、顔が怖いぞ。」
「生まれつきだ。」
魔族の戦士が光の粒子になって消える中、ソラはリクに声を掛けた。
「柔道の技か?」
「そんなところだ。『少女よ、落ち着いたか?』」
『うん、パパ。』
「ん?」
「ん?」
突然の少女の言葉に疑問符を浮かべるリク。
その様子にどうしたのかとさらにソラは疑問符を浮かべた。
※話の展開が遅いのは作者の仕様です。




