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不定期更新ですいません。
それからしばらくして、カンナは落ち着き自分がリクに抱きついてることを思い出して慌てて離れた。
「すいません。」
「俺は一向に構わないが。」
リクはすでに冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。
その間にカンナは耳栓を付け直したようだ。
「それで、風呂には一緒に入るのか?」
リクとて女の人に興味が無いわけでは無い。
しかし、据え膳食わぬはなんとやら。
一緒に入ろうというのならどこかの主人公のようにあわあわしながら断ったりなどしない。
「はい、いっぱいお話ししましょう。」
「分かった。では、入ろうか。」
「はい。」
ということでリクとカンナは一緒に入ることになった。
丁度いくつか聞きたいこともあったし都合がいいだろう。
「さ、先に入ってますね。」
そう言って、カンナは先ほど進んだキッチンがあるのであろう方向とは別の扉へと入っていった。
さすがに脱ぐのは見られたくなかったのだろう。
中では何かしらで隠せばいいのだからな。
ただ、この世界にタオルがあるかどうか不明だが。
いや、そこは異世界だから心配はいらないと思うが。
そろそろ行くか。
部屋の真ん中に立ってボーっと考え事をしていた足を動かす。
カンナが入っていった扉に入るとそこは脱衣所だった。
しかし、やけに広い。
小さめの銭湯の脱衣所レベルだ。
これはフラグの匂いがするが、危険なものでなければいいだろう。
リクは服を脱いで置いてあったタオルを腰に巻いて奥へと入っていく。
そこは、銭湯であった。
「広いな。」
思わず、独り言が漏れる。
「そうなんですか?」
湯煙の奥から返答が返ってくる。
リクはそちらへと歩きながらさらに返答する。
「一般的な家にある風呂よりは幾分も広いな。」
近くに積み上げられていた桶を取り一度体を流してからカンナの横に入る。
「カンナ、さっき話がしたいと言っていたな。」
「あ、はい。」
「いくつか俺の質問に答えてくれないか?」
「ええ、もちろんです。私の知ってることなら答えますよ!」
元気になったようでよかった。
「では、さっき言っていた学校という物について聞きたい。この町には無いと思うが。」
「学校は今のところ王都にしかなく、文学学校と武術学校の二つがあります。内容は、だいたいわかりますよね?」
「あぁ、そこはいい。学校には何歳から通えるんだ?」
「12歳から四年間です。」
「それは19や17でも通えるのか?」
「リクさん、通うつもりなんですか?」
カンナは首を傾げる。
なんとなくわかるのだが、湯煙が濃くやんわりと輪郭しか見えない。
「機会があれば通いたいと思ってな。」
「やっぱりリクさんはお勉強が大好きなんですね。」
「嫌いだったさ。最近この世界の面白さを再認識したんだ。」
リクが言っているのは、リクにとってここが異世界だからなのだがカンナにはそんなことわからないのだろう。
「それで、都と言っていたのは王都の事でいいんだな。」
「そうです、王都に住んでいた人か、現在住んでいる人は王都の事を都と言ったりもしますね。」
「そうか、次に、奴隷と言っていたんだが、やはり黙認されたような組織なのか?」
「たぶん想像している通りだと思います。人をお金で売買する極秘団体です。」
「やはりあるのか。」
リクは縁にもたれ掛かり深く息を吐く。
「まぁ、そんなことは関わり合わなければ気にすることは無いんだ。一番聞きたいことを聞こう。」
そう言って、リクは顔を上げる。
「能力を消すようなものは無いのか?」
そこでカンナは少し俯く。
「聞いたことならあります。帝国のお偉いさんはそういった物を持っているとか。」
「そう言えば、帝国なんて素晴らしい名前を持った国もあるのだったな。」
「でも、かなり偉くないと貰えないとか、皇帝に力を認められないと貰えないと聞きますので、私には無理なんですけどね。」
カンナは淡く笑ってみせる。
「そうか、帝国か。俺が機会があれば貰ってこよう。」
「え?でも、」
「過度な期待はせずに待っているといい。その内、その薬か、何かわからないが持ってこよう。」
「いくらリクさんでもそれは流石に無理でしょう。帝国は外国に対してかなり警戒が強いと聞きます。」
「大丈夫だ、俺に任せろ。フラグは建ったんだ。」
「フラグ?」
カンナは難しい顔で首を傾げる。
「口癖みたいなものだ、気にするな。」
「ふふっ、わかりました。」
「どうした、突然笑って。」
「いえ、リクさんが本当に楽しそうに無邪気に笑うものですから、可愛いなぁって。」
「そうか。」
事実、リクは期待していた。
ゴブリンキングと戦ったが、意外に弱く能力を持って異世界に来るのも考え物だななどと思っていたからだ。
国が相手なら申し分ない。
これからは楽しくなりそうだと。
「そうだな、最後に、後で読めばいいのだが、トラメネスの反転定理が教えてもらいたい。」
「さっきの本の事ですね。あれはトラメネスさんが唱えた反転定理を記した文書ですね。それで、反転定理は、堕天定理とも言いまして、簡単に言うと、この世界の人間族はみな心の奥に絶対に譲れない部分があって、それが否定、破壊、崩壊すると、精神の堕天を起こし魔力に囚われるという定理です。因みにこの作者は、第一号というわけではありませんが、自らの反転定理を自らの体で体現してお亡くなりになっています。」
「壮大だな。後で持ってきて読んでみよう。」
「はい、おすすめですよ。」
そんなことを話している時だった。
入り口の方から声がかかる。
「カンナ―、私も入っていい―?」
「うーん、いいよー。」
カンナが了承する。
声からして恐らく受付に居た司書だろう。
しかし、リクがいるのにいいのだろうか。
「俺がいることは言わなくていいのか。」
「あっ。」
カンナはリクに言われて気付くもすでに遅しというやつだ。
カンナの同僚はもうそこまで来ている。
そこでリクは少し俯いて目をつむって黙っていることにした。
こんなときどうすればいいかなどわからないし、もうどうにもならないからな。
「待って、マリンちゃん!」
「ん?どうしたのよカンナ……キャアァァァ」
誰もが予想するいい反応だ。
「な、なんで男の人がいるの!?」
「リクさんは私が誘ったの。いい人だから大丈夫よ。」
「そういう問題じゃないと思うんだけど!?でも、この人がカンナが言ってたリクさんかぁ。目つむってるけど、寝てるの?」
「起きている。初対面の男にいきなり裸を見られるのは嫌だろうと思い目をつむっていたのだが、必要ないか?」
「いやぁ、そのままでいられるならそのままでお願いしたいかなぁ。」
マリンと呼ばれた人物が少し下がり、アンナの横に座った音が聞こえた。
「了解した。」
「で、何の話してたの?」
「神経が意外と太いのだな。」
つい本音が出てしまった。
「女の子にその言葉はあまりよくないと思うけど、我慢強くないと司書なんてやっていられないわよ。カンナみたいに無類の本好きでもなければね。」
「司書は楽しい仕事だよ?」
「カンナ、俺にもその口調で良い。」
「いえ、リクさんには敬語の方が楽なんです。」
「そうか。」
「え、何々?私が見てない間にかなり仲良くなっちゃった感じ?」
マリンがカンナに体を寄せる。
「うん、リクさん、優しくて本が大好きなの。」
「はぁ、そういうことじゃないんだけどなぁ。」
マリンは頭を抱えるしぐさをしてみせる。
「俺はこの娘の将来が心配だ。」
「私もよ。」
二人して溜息を吐いた。
それから少し世間話をして風呂を出ることとなった。
その間、リクはずっと目を閉じていたのは言うまでもない。
「さて、私はそろそろ帰ろうかな。」
「俺もそろそろ宿に戻ろう。女将に心配を掛けるのは悪いからな。」
地下のここからは見えないが、太陽はとっくに寝床につき、月が顔を出すような時間。
風呂を出た三人は、仲良く紅茶を飲みながら世間話をしていたのだが、ちょうど話題もなくなってきた辺りでマリンが立ち上がった。
「二人とも、泊っていってはどうですか?」
それをカンナが呼び止めた。
しかし、先日会ったばかりの男女が同じ屋根の下で寝ることがあまり好ましくないことはリクもわかっている。
マリンとは、先日どころかほんの数時間前に会ったばかりである。
さすがにこの誘いを受けるわけにはいくまい。
「カンナ、その誘いは嬉しいが、会って間もない男女が一緒に寝るのはあまり良くない。それは君もわかっているだろう。」
「わかってはいますが、リクさんは大丈夫でしょう?」
「俺も、男なんだがな。とにかく、今日は駄目だ。また明日、本を読みに来る。その時にでも話をしてくれ。」
「はい、わかりました。」
カンナがうなずくのを尻目に、リクはマリンと共に図書館を出ていった。
図書館を出てすぐ、マリンがリクに話しかける。
「それで、リク君はカンナの事はどう思っているのぉ?」
少し下種な笑顔をしている。
それに、リクはマリンの言いたいことを理解しながら、しかし正直に答えた。
「良い友人だと思っている。」
「そういうことじゃないんだけどなぁ。」
マリンは不満を言いながらも、そのような答えが出てくることがわかっていたのか満足そうな顔でリクの一歩前を歩いていく。
「あの娘の事、どこまで聞いた?」
少し歩いてから満足気だった顔を少し真顔に戻して質問をした。
「能力者だということ。その能力の内容。」
「あの娘の事、嫌いになった?」
「能力者だからか?」
「そうだけど……」
「それなら、無い。第一、俺も能力者だ。」
「えっ、そうだったの!?」
マリンは心底驚いたというような顔になる。
忙しい娘だ。
「本当だ。俺も弟も魔力は無いが、そこら辺の冒険者には負けないと自負できるほどの能力がある。」
「そうだったんだ。じゃあ、これからもあの娘をお願いね?」
マリンが少し上目遣いになってリクを見上げる。
それにリクは頷いて答えた。
「君に言われなくともそうするつもりでいた。大丈夫だ、あの娘は俺に任せろ。君は今まで通りあの娘のよき友であればいい。」
「うん、わかった。」
その後、何でもない世間話をしている間に、リクの泊る宿屋についてしまっていた。
「俺は当分ここに泊まっている。何かあればここに来てもらえれば俺に出来ることであれば、力を貸そう。」
「うん、ありがとう。じゃあ、また明日、図書館で。」
「また。」
そう言いあってマリンとリクは別れた。
リクは人のいない暗い部屋へと入り、電気をつける。
この電灯は雷属性の魔石で動いているらしい。
リクは靴を適当に放り、シャツを脱いで椅子の背に掛けるとベッドに寝転がる。
「何か着る物も買わないとな。ミミュレットでも誘ったら来てくれるだろうか。」
虚空に向かって返ってこない質問を投げかける。
「××××はしっかりとやっているだろうか。」
弟の本名を呟いて寝返りを打つ。
「また、か。」
数年ぶりに自分から言った言葉を噛みしめる。
「次の日が来ないフラグは回収したくないな。」
やがて、気付くと、もとい、知らぬ間に、リクは眠りについていた。




