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少し短めですが。
「私の家は貴族家ではありませんでしたが、豊かなほうでした。能力も、体が成長するにつれて強くなっていったので、小さい頃は何もありませんでした。今ではSランクの冒険者さんより耳がいいです。」
「なるほど。それを気持ち悪がられてしまったと。」
「えぇ、そういうことです。それは、学校に入って半年ほどしたころでした。私はその頃から本が好きだったので、その日も教室で本を読んでいました。その時、女の子の声のようなものが聞こえたんです。」
「ん?それは別に…」
おかしくないんじゃないか。
リクはそう続けようとしたが、カンナがゆっくりと首を振っていたため黙る。
「言いたいことはわかりますが、その時教室には私以外には男の子の集団がいるだけでした。その日の事はしっかりと覚えています。」
「トラウマというのは怖いものだな。」
「えぇ、今でも時々夢に見ますから。それで、声が聞こえた私は最初何かわからずキョロキョロしていました。その時に男の子の中でも一番人気で優しいアレス君がどうかしたのかと声を掛けてくれたのを覚えています。」
「どこにでも優しい奴はいるんだな。」
「リクさんも優しいですよ?」
カンナは微笑む。
「そうか?優しくあろうとか意識しているわけでは無いんだがな。」
リクは微笑み返した。
「優しい人はほとんど自覚は無いものですよ。アレス君も仲間内にいじられてましたが、自覚は無く首を傾げていましたよ。今のリクさんみたいに。」
「そういうものか。」
「えぇ、そういうものです。えっと、話を戻しますと、私はアレス君に声を掛けられて我に返って気のせいだったんだろうと思って大丈夫です、と言おうと思ったんです。その時、さらに声が聞こえてきたんです。さっきよりもはっきりと。」
『カンナちゃんってなんか嫌い。どうせ、アレス君に構ってほしいだけでしょ?』
「その瞬間、私は声が出なくなって逃げてしまったんです。声の主は同じクラスのマリーナちゃんだとその時点で気づきました。その日は、その後の授業は受けずに体調不良ということにして帰らせてもらいました。でもそれがいけなかったんですよね。次の日、登校して自分の机で本を読んでいたら、アレス君が近寄ってきて昨日は大丈夫だったかと聞いて来ました。その時は前日の事は忘れていました。でも、舌打ちが聞こえたんです。アレス君ではありませんでした。それで前日の事を思い出して、アレス君の腕の隙間からマリーナちゃんの方を窺いました。睨んでいたんです。私とアレス君の方向を。」
「なるほど。」
リクは色々と聞きたいことはあったがとりあえず相槌を打つだけにとどめる。
「それで、怖くなってまた逃げてしまいました。」
「帰ってしまったのか。」
「えぇ、そうです。」
カンナは俯く。
「辛いなら無理はしなくていいんだぞ。」
「いえ、大丈夫です。それから、帰ったのが朝でしたから驚いた母からどうしたのか聞かれた時に遠くの声が聞こえたことを言いました。今考えればそれが一番間違っていたんだと思います。母は、訝し気な顔をしていました。夜、父が帰ってきて話し合って次の日に病院に行くことにしました。次の日、病院に行きました。そこで、精密検査で私に魔力が無いことがわかりました。小さい頃にも一度量ったことはあるのですが、何かの間違いだったようです。」
「魔力がないだけではそれほど珍しいことでもないのだろう?」
「いえ、十分珍しいです。でも、ありえない話ではありませんでした。問題は、母に話した、遠くの音が聞こえる能力です。」
「なるほどな。」
「リクさんは知らないようなので教えてあげます。能力を持った人が何と呼ばれるのか。」
『悪魔の落とし子』
「それほどか。」
「私が能力者だとわかった両親は、世間体を考えたのか私を孤児院に少しの寄付金とともに預けました。」
「それは…」
「奴隷商に売られなかっただけマシだと思いますが、私が能力者だという噂は都中に広まっていました。」
都、王都の事だろうか。
「その後、両親がどうなったのかはわかりません。死んでしまったとか、聞いたことがあるような気がしますが、孤児院に預けられて三か月は心を閉ざしてしまっていましたから、あまり記憶がありません。」
「いじめはそれからというわけか。」
「はい、学校でもいじめられて、孤児院でもいじめられて、毎日布団の中で泣いていた覚えがあります。学校はその後三か月でやめてしまいました。」
「心を閉ざしていた時期か。」
「はい、孤児院の中にも二人だけ優しい人がいたんです。」
「そうか、それはよかった。」
リクは、自然に微笑みかけていた。
「ほら、やっぱりリクさんは優しいです。」
「いや、普通の反応だと思うが。」
「それでも嬉しいんです。」
カンナも笑顔を見せる。
「その二人、今はここで働いているんですよ。受付の子、あの子がその一人です。」
なるほど、それでリクに向かって笑みを向けていたわけだ。
カンナが彼氏でも連れてきたとでも思ったのだろう。
俺が心を許すのはミィだけだ。
いや、ミィにさえ本当の俺を見せられていないが。
そんなことは今はどうでもいい。
「そうだな、そろそろ風呂に入ろうか。しかし、その前に一つ。」
「?」
リクの言葉にカンナはなんでしょう、と首を傾げてみせる。
リクでなければ落とせるほどの可愛さなのだろう。
「一つ、耳の良さで勝負をしよう。」
カンナはさらに首を傾げる。
この人は何を言っているのか。
筋肉の音まで聞き分けられる人物に「聴力」で勝負を仕掛けるとは。
「大丈夫だ、その耳栓は外してもらっていい。」
さらに意味が分からない。
いや、この人は勝負というより純粋にカンナの能力を知りたいだけかもしれない。
一日中本を読んでも居眠りしてしまわないほど本が好きなのだから。
「わかりました。私の本気を聞かせてあげます。」
カンナは耳栓を外して机に置く。
それと同時に、カンナの耳にはリクの筋肉の音までが入ってくる。
「いいね、じゃあ、俺が今から手をたたくから、この図書館の南東の一番端にある本の題名を答えてくれ。」
「え?」
一連の会話の中で今の言葉が一番意味が分からない。
「じゃあ、行くぜ。耳には気を付けてくれよ。」
リクが笑って言うので、カンナは何か訳があるのだろうと勝負に集中することにした。
リクは立ち上がり、腕を広げる。
その瞬間、カンナの耳に痛いほどの、軋む骨と筋肉の音が入ってきた。
次の瞬間には、建物全体を震わせるほど音が鳴り響く。
なるほど、この音の反響で本の題名の凹凸を読み取れというのか。
少し耳が痛い。
耳の奥のキーンという音はしばらく消えなかった。
「で、わかったか?」
「いえ、一文字目しか。」
「いや、一文字でも十分凄いだろう。それで、一文字目は?」
「ト、だと思います。」
「そうだな、トラメネスの反転定理が正解だ。」
「え?」
「わかるか?君が悪魔の落とし子なら俺ら兄弟は魔王か邪神の落とし子だ。」
「そんな…」
「自分の能力が負けて悔しいか?」
「いえ、そういうわけではないんです。」
カンナの目からは涙が流れ始める。
「リクさん、励ますの下手すぎですよ。」
カンナは立ち上がってリクに抱きつく。
「すまないな、友人なんて居なかったものだから。」
リクは淡く微笑む。
カンナは、リクの心臓が少し早まるのを聞いた。




