始まった!バンド大会へ②
「前から言ってるだろ、俺らには優勝しかねぇって」
洋人の言葉に頷きつつも、胸の動悸はなかなか収まらない。
そこから自分たちの出番までの1時間は恐ろしく長く、落ち着かない。
少しずつ待合室の人数が減っていく。
「いよいよだな」
次が自分たちの番になり、大会のスタッフに呼ばれて、演奏会場に移る。
「行くぞ」
洋人の声で歩き出す。
心臓がバクバクして止まらない。風夏は手の汗を何度もジャージで拭く。
ピアノのコンクールでは、そこまで緊張しなかった。
1人だったからミスしても被害を被るのは自分だけだったが、今回は違う。
メンバー全員に迷惑がかかる。
全員が強い思いでここに来ていることを知っているからこそ、緊張してしまう。
会場の前に着くと、前のバンドの演奏が聞こえる。
かなりレベルが高く聞こえる。
聞けば聞くほど心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
「風夏」
洋人がこっちを見ている。
「言ったろ?いつもの演奏をすればいいって」
「う、うん、わかってるんだけど、なんだか」
手汗どころか震えてきている気がする。
(どうしよう・・)
「俺の方を見ろ」
突然、手が温かくなった。手を見ると、洋人の手が重なっている。
「落ち着け。大丈夫だ。お前がミスしても絶対俺らでカバーする」
陽樹と拓海も頷いている。
「それにお前は俺が見込んでバンドに入れたんだ。絶対間違いない。自分を信じれないなら、俺を信じろ」
真っすぐに風夏を見ている。
「わかった」
前のバンドの演奏が終わり、いよいよ風夏たちの番になった。
ステージでバンドの紹介がされ、ステージに一歩、歩みを進める。
心臓が飛び出すというのはこういう感覚かと不思議と冷静に考える自分もいる。
キーボードの前に立って、深く息を吸って吐いた。
仲間を信じればいい。
いつも通りに楽しんで演奏すればいい。
洋人がバンドを紹介して、一人ひとりを見て頷く。
全員の呼吸が合った瞬間、ギターの演奏が始まり、ベース、ドラム、キーボードの音が重なっていく。
(やっぱり楽しい)
風夏はいつものように体を揺らし、全身で曲を弾いていく。
最後の一音が鳴り終わった時、風夏は懐かしい強い爽快感を感じた。
そこから3日後には予選通過の連絡が洋人のもとにきて、本選へ出場が決まった。
練習を終えて外にでると、夜とは思えないほど蒸し暑い。
「じゃあまた明日―!」
陽樹と拓海と別れ、洋人と風夏が並んで歩く。
なんとなく手が熱い気がする。
“俺を信じろ”真っすぐ目を見る洋人を思い出すと、顔まで熱くなってくる。
「おい、聞いてるのか?」
「へ?」
「聞いてねぇのかよ」
「ごめん、何?」
「・・・お前敬語じゃなくなってるな」
「あ、ダメ・・でした?」
「タメ口の方がいいに決まってんだろ、仲間なんだから」
「うん」
肩が触れそうなほど距離が近い。
心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「次どう戦うか考えねぇと」
「いつも通りじゃダメなの?」
「本選は審査員だけじゃなく、HPで今回の演奏を流して、一般の人に票を入れてもらってそれも得点に加算される。Winter soulと違って、俺らは知名度が全くないからな」
「え?それって問題なの?」
風夏が聞き返すと、呆れた顔で洋人がこちらを見ている。
「だって、いつも通り最高の演奏をすればいいだけじゃないの?」
洋人の足が止まる。
風夏は少し前から振り返ると「知名度がなくても、いつも通りやればちゃんと伝わるよ」と微笑んだ。
すっと風が吹いた。
「お前、ほんとに・・・」
「ん?」
「・・・お前は本当に能天気だな」
「はぁ?」
洋人が「じゃあな」と走って去っていく。
「なんなのよ」
風夏はこの後自分が本当に能天気だったことを知ることになった。
☀☀☀
「ふぁあああ」
大きな欠伸をして時計を見ると、8時だ。
夏休みは好きなだけ寝れるからいい。
ブンブンとどこかでスマホが鳴っている。
普段は何の通知も来ないのに珍しいことだ。
手をグッと伸ばして、スマホを開ける。
「何これ・・・」
メッセージアプリの通知件数が40件にもなっている。
真海や昔仲良くもないのに強制的にLINE交換した人までたくさんの人あらメッセージが来ている。
何事かと思ってメッセージを見ようとしたら、ちょうど真海から電話がかかってきた。
「もしもし・・?」
「風夏!どういうことよ!聞いてないし、松崎とは関わらない方がいいって言ったのに!」
「えっと、あのどういう・・・?」
「いいから、一回説明してもらうわよ」
真海に有無を言わさず、近くのカフェに来るように言われてしまった。
何が起きているのだろう。
とりあえず、状況を確認するため、近くのカフェで会うことにした。
カフェに向かうと、真海はすでに座っていて、口をとがらせむすっとした顔で座っている。
これは相当に怒っている。
「ごめん、・・・バンドのこと言ってなくて」
「別にいいよ、風夏が何したって自由だしさ。私に報告する義務はないし」
そう言いつつ、真海の態度で絶対別にいいと思ってはないのがわかる。
「いやーなんていうか、松崎君にバンドに入らないかって言われて演奏しているうちに流れでこうなったっていうか・・・」
「・・・松崎は危ない奴だっていったのに」
「でも、でもね、松崎君の頭の中99%音楽で、残り1%でご飯とか最低限の生活に必要なしているような人だよ。だから悪いこととかしてない、というかできないと思う」
アイスコーヒーの氷がからんと音を立てる。
「信用できると思う」
「・・・はぁ」そういうと真海はにこっと笑った。
「もう、ちゃんと教えてよ。応援したのに」
「・・・真海」
「応援するに決まってんじゃん。風夏はいつも私を応援してくれたから、今度は私に応援させてよね。早速、票入れちゃった」
真海は、バンド大会のHPを見せながら、にかっといたずらっぽく笑った。
「そういえば、真海はなんでそのバンド大会のこと知ったの?」
「それは・・・」
☀☀☀
「ちょっとどういうこと!」
「どうしたの?風夏ちゃん」
「これ見て!」
メッセージアプリでsummerblueを応援しようとHPのURLを貼ったメッセージが様々な人に送られており、一番下には最低でも3人にはこれを送ることと書かれている。
その他のSNSアプリでもどうやら拡散されているようだ。
それを見た人たちが一斉にメッセージを風夏に送ってきたので、今朝あんなにメッセージが来ていたのだ。
もちろん、優勝に必要なことだとはわかっている。
「なんで勝手に写真まであげるのよ!!」
HPに貼られた映像にはジャージ姿の風夏も映っている。
どうみてもダサい。
「松崎くんでしょ!こんな最低でも3人に送ることとか不幸の手紙みたいなやり方して」
「別に俺らに票をいれないと不幸になるとか書いてねぇだろ。まずは見てもらわないと話しにならねぇから拡散しただけだ。なんか困ることでもあるのか?」
「このジャージ姿を世界に配信しなくてもいいじゃない!」
「うるせぇな。お前がそんな恰好で演奏するのが悪い。それに人に見られて恥ずかしい演奏を俺らはしてねぇだろ」
「演奏のことはそうだけど・・・」
「そんなことより、これ見てくれ」
Winter soulの票数は、投票開始して4時間ほどですでに300を超えている圧倒的1位だ。
洋人がWinter soulの映像を流す。
今まで演奏に影響がでないように見てこなかったので、ここで初めて見た。
「すご・・・」
その一言しか出なかった。
演奏のレベルが高いのはもちろんのこと、ボーカルのハイトーンボイスに圧倒的な声量、曲も一度聴いたら忘れないようなキャッチ―な歌詞、音楽だ。
「この人たちと勝負するの?」
風夏がそういうと、さすがの洋人も黙っている。
圧倒的な実力の差だ。
「とりあえず、練習しようよ。ね?」
陽樹の声で練習を始めるが、明らかに全員身が入っていない。
(これが才能の差なのだろうか)
ここまで圧倒的に力の差を見せつけられると、どうやっても勝てる気がしない。
どれだけ努力してもどうにもならないことがある。
それでも―
風夏は唇を小さくかみしめた。




