始まった!バンド大会へ①
「おはよう」
いつものスタジオに入ると、すでに陽樹と拓海も来ていた。
早めに来たつもりだったのに、どうやら考えていることは同じらしい。
「おはよ、風夏ちゃん」
陽樹はいつももの爽やかな笑顔を浮かべ、横で拓海は小さくペコっと頭を下げた。
いつもなら色々話したりするのだが、今日は言葉が少ない。
とりあえずと演奏の準備をしてみるが、なんとなく落ち着かない。
陽樹や拓海も同じよようで、チラチラ扉の方を見て心ここに在らずといった感じだ。
落ち着かないのも当然だ。
今日はバンド大会の予選の結果が出る日なのだ。
「まだかな…」
結果は洋人の家に郵便で届くことになっている。
ドキドキしながら待っているとバンとドアが開いて、洋人が入ってきた。
手には封筒を持っている。
「待たせたな」
ドキっと胸が跳ねる。
「お前ら結果が気になってんだろ?」
そう言って、洋人は封筒を差し出した。
「・・・開けるぞ」
洋人が封筒の上をびりびりと開けていく。
息を吸うのも忘れて、取り出された用紙に目をやった。
「第一次予選のお知らせ・・・」
「次の予選日が書いてあるってことは・・・」
「通過した!」
「っしゃああああ!」
洋人と陽樹が喜びを爆発させる中、私と拓海は緊張からの緩和でへたり込んだ。
「お前達、俺らが目指すのは優勝だ!こんなので満足するなよ!」
喜びを爆発させて飛び跳ねたくせに偉そうに洋人が言って、手を出した。
「もちろん、優勝しかありえないよ」
陽樹もそれに手を重ねた。
「僕も・・・頑張る」
拓海がさらに手を重ねる。
風夏がそれをぼんやり見ていると、「お前も」と洋人に促される。
「私も・・・優勝したい」
そっと手を重ねた。
「絶対優勝するぞ!!」
「オー!」
☀☀☀
第一次予選は、関東近郊のライブハウスで行われる。
演奏は一回のみ。15組が演奏し、その中の8組が決勝戦に出ることが出来る。
予選会場の前に行くと、ギターやキーボードを持った若者たちがたくさんいる。
「風夏ちゃん、キーボード持つよ」
陽樹がひょいとキーボードを持つ。
「ありがとう。そういや松崎君はどこだろ?」
拓海が無言で指さす方を見ると、洋人が歩いている。
白のTシャツの上から黒の半袖ジャケット、黒のパンツ姿で、いつも以上に気合の入った服装に髪形で、みんなの視線を集めている。
毎日にように会っているから忘れていたが、洋人はイケメンだ。
今日はある程度、服装を統一させるために白と黒をメインにと言われている。
陽樹は白のシャツに細いネクタイをつけ、黒のパンツ、拓海は白の半袖パーカーに黒のパンツだ。
「おい、お前なんで今日もジャージなんだよ」
風夏は白のTシャツに黒のジャージだ。
「白と黒だったらなんでもいいわけじゃねぇよ」
「まぁいいじゃない。いつもの服装の方がいつも通りの演奏ができるだろうし、風夏ちゃんはジャージでも可愛さは変わらないしね」
陽樹がにこっと笑いかけてくれる。
だが、この後会場に入っていくときに気づいた。
洋人と陽樹の顔立ちの良さでかなり目立つ。
みんながこちらを見ている。
拓海も可愛らしい顔立ちに身長が180㎝を超えてスタイルがいい。
毎日のように会っているうちにイケメンなのを忘れていた。
(それに比べて、私は―)
3人の後ろをジャージとTシャツで歩くマネージャーにしか見えない。
女子の視線が痛い。
風夏は憂鬱な気持ちになりつつ、予選会場の待合室に入った。
そこではそれぞれのバンドが最終打ち合わせをしている。
風夏たちのバンドの出番は9番目だ。
「今までの練習成果を出せれば、予選は絶対通る。で、風夏」
「はい?」
突然呼ばれてびっくりする。
「先に言っておくけど、他のバンドの演奏聞いて、例えすげぇと思ってもそれを超える演奏をしようなんて思うなよ。いつものままで演奏することを心掛けろ」
「あ、うん、わかった」
洋人はそういうと自分のギターの調整に入った。
「彼らは13番目か、ラッキーだね。彼らより後だと絶対緊張するから」
陽樹がそういうと拓海も頷いている。
「彼らって?」
「今回の優勝候補。Winter soulっていうバンドなんだけど、とにかく曲も歌も楽器も全部うまくてすごいんだよ。もうデビュー目前って聞いてる」
陽樹の視線の先には男性4人のバンドグループがいる。あれがWinter soulらしい。
「僕たちと同じ高校生バンドだけど、自分たちでYouTubeをやっていて、結構再生回数もいってるんだよね。今回の大会のポスターにもHPにも彼らが載ってて、知名度はそれなりにあるんだよ」
拓海もコクコクと頷いている。
「そんな人と戦って勝てるのかな」
「勝つ」
洋人の力強い声が待合室に響いた。




