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青い夏  作者: 月丘 翠
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4/9

俺のバンドに入ってくれ③


そこからはあっという間に日々は過ぎ、見たくもないテストが返却されると、明日から夏休みだ。

風夏の成績は中の下といったところだ。

弟に間違いなく、夏は勉強するように言われるだろう。

私が大学に行くには国公立しかない。

弟は私を国公立へ入れることを目標にしているので、高3となった今年は特に厳しい。

今から憂鬱だ。

でも風夏が憂鬱に感じるのは、それだけが原因じゃなかった。


一学期最後の音楽室に入ると、スマホにイヤホンを接続して、洋人から送られてきたデータを再生する。


「この曲を楽譜に起こしてくれ」


LINEを交換して、一発目に送られてきたのがこれだ。


(曲っていうかもう鼻歌じゃない)


音を記憶すると、ピアノで弾いてみる。

音を探りながら弾くも、しっくりこない。


(バンドってのがなぁ)


風夏は一人で弾いてきたので、バンドとしての曲作りの経験はない。

ベースやギターの音を思い出し、音に乗せて想像するが難しい。

しっくりくるまで繰り返すしかないか、とその辺の輪ゴムで髪を束ねると、鍵盤に手を重ねる。

面倒なことは苦手なはずなのに、今は楽しさが勝っている。

これをメンバーで演奏したらどうなるのか、想像しただけでわくわくする。


「あー、やっぱりいた!」


音楽室の扉が開かれ、そっちをみると真海が立っている。

外を見ると真っ暗で、時計は19時を指している。


「ピアノの音がしたから風夏いるのかなって思ってさ。こんな時間まで珍しいね」

「まぁね」

「なんか楽しそうだね。すごくいい顔してる」

「そうかな・・」


風夏は窓に映った自分の顔を見てみる。

前と変わらない。髪の毛はただだらっと伸ばしただけで、ぴょこっと毛先は跳ねている。

眉毛を整えたり、もちろんメイクもしていない。

眼鏡をはずしてみる。


“ほら、こっちの方がいいじゃん”といった洋人の顔が思い浮かぶ。


「帰るよー!」という真海の声で我に返る。


(何やってるんだ、私)


風夏は慌てて眼鏡をかけると、真海の後を追いかけた。

ほんの少し熱い気がするが、これもきっと夏のせいだ。


☀︎☀︎☀︎


「風夏ちゃん、コンタクトにしたんだね。すごく似合ってて、かわいい」

陽樹は風夏を見るなり、大げさなくらい褒めてくれる。

女性の扱いになれているのがわかる。

それに対して拓海も小さな声で「いいと思う」と言ってくれた。

まだ数回しか会っていないが、これが拓海の精一杯なのはわかる。

「ありがとうございます」

コンタクトに変えて良かったか不安だったが、似合っているなら良かったとホッと胸を撫で下ろした。

そこにバタバタと足音がして、バンっと扉が開く。

「すまん。遅れた」

洋人は遅れてスタジオに来ると、風夏をちらりとみて「ふーん」といっただけで、ギターを広げる。

「で、今日もジャージなんだな」

「こ、これが一番楽で弾きやすいんだもの」

風夏がそういうと、洋人は「ま、別にいいけど。練習するぞ」そう言って、練習を始める。

(折角コンタクトに変えたのに…)

不服に思いつつも、洋人に頼まれた鼻歌を曲に書き換えてきた。

それぞれに楽譜を渡して、演奏を始める。

手に付けてた輪ゴムで髪をくくると、深呼吸をして鍵盤に手を重ねる。

鍵盤を弾けば不機嫌な気持ちも全て吹き飛んでいく。

バンドではピアノじゃなくキーボードだが、この軽い感じもピアノと違って新鮮でいい。


「こんな感じであってます?」


弾き終えて風夏が聞くと、ぼーっとこっちを洋人が見ている。

「おい、洋人」

我に返って「まぁそんな感じだな」というとそれぞれのパートで少し練習すると、どのような曲にしていくか話し合いながら演奏を繰り返して作り上げていく。

しばらく練習して、ある程度形ができた段階で録音して拓海にデータを送る。

「拓海、歌詞頼むな」洋人がそういうと、拓海はこくりと頷く。

拓海は早速考えたいからと、そそくさと帰って行った。

「歌詞は拓海君に一任するんですね」

風夏はなんだか意外に感じていた。洋人はこだわりをもって音楽を作っている。

なので、歌詞にもこだわりを持ってそうだと思っていたが、「あいつに任せるのが一番だから」とあっさりしたものだ。


「元々は洋人と拓海の二人でバンドやってたんだよ」


陽樹から聞いたところによると、summer blueは中学3年の時に洋人が拓海を誘って組んだバンドらしい。当時2人は仲が良かったわけではなく、ドラムができると聞いて声をかけたそうだ。その後拓海の幼馴染である陽樹がベースを弾けるということで参加することになった。

結成当時から曲は洋人、歌詞は拓海と分担していた。

「信頼してるんだと思うよ、拓海を」

洋人と拓海ではタイプは違うし、普段も会話が多いわけではないが、男同士とはそういうものなのだろうか。

帰り道、洋人はバイトに行ってしまい、陽樹と風夏で歩いて帰っていると、「陽樹じゃん」と女の子たちが寄ってくる。

「この子誰―?」女の子たちが品定めをするようにじろじろ見てくる。

風夏はジャージですっぴん、髪も整えていない。

(やばい・・バカにされるかも)

「この子はバンドに最近入ってきた子。キーボード担当でめちゃくちゃ上手いんだよ」

「ふーん」と女の子は納得していない感じだ。

「まぁいいや、この後一緒にカラオケいこ」と言って陽樹をさらっていった。

“ごめん”と手で謝りながら陽樹が去っていく。


(モテる男は大変だねぇ・・)


周りの可愛らしい女の子たちはみんな可愛らしい髪形をしている。

手につけたままの輪ゴムで、少し高い位置でポニーテールをしてみる。

(たまにはいいか・・・)

この後、この輪ゴムと髪が絡まってえらいことになるとは風夏は知る由もなかった。


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