俺のバンドに入ってくれ④
「風夏ちゃん、どうしたの?!」
陽樹は風夏を見るなり、驚きの声を上げた。
「実は…」
あの日家やついてからポニーテールを外そうとしたところ、なかなか輪ゴムがとれず、困っているところに母がはさみを持ってきて、輪ゴムではなく、髪をばっさり切った。
その結果、風夏はボブヘアとなり、美容師さんがこっちの方が似合うと、ゆるふわなパーマまでかけられたのだ。
「すごくいいよ!」
陽樹はいつもストレートに褒めてくれるので、照れる。
でも褒めてくれるのは素直に嬉しい。
今まで胸まであった髪がなくて寂しさを感じてたが、悪くない気がしてくる。
「・・・松崎くん?」
風夏が洋人の方をみると、こちらをみてぼんやりしている。
風夏に見られていることに気づいて、我に返ると「何でまたジャージなんだよ。髪型とあってねぇ」と言って背を向けるとギターを準備し始めた。
「ジャージも似合ってるよ」
コッソリと耳元でそういって陽樹はにこっと笑ってくれる。
そういえば、いつも後ろに隠れている拓海がいない。
「拓海君は?」
「あぁ、今日は多分来ねぇよ」
歌詞を考えるといつも引きこもってしまうらしく、いつものことらしい。
「じゃあ今日は休みにしようよ」
陽樹はそう言うと、ベースを背負いなおした。
「なんでだよ、拓海いなくても練習できるだろ?」
「楽器と向き合うのも大事だけど、感性を磨くには外に出ることも大事だよ。外に出て色んな刺激を受けて、心も成長させなきゃ。しかも今回の曲は夏のさわやかな青春って感じだから、僕たちも青春しておいた方がよりいい演奏ができると思うな」
陽樹ににこにこと言われて、珍しく洋人が言葉に詰まった。
「ってことで、一緒にでかけよっか」
陽樹に連れられて向かったのは、地元の遊園地だった。
最近リニューアルされて、インフルエンサーがSNSで楽しかったと発信したことで、若者が少しずつ来るようになってきているらしい。
実際行ってみると、子供の頃来た時はガラガラだったが、それなりに人がいる。
「なんで、青春で遊園地なんだよ」
「まぁいいじゃん。折角だから楽しもうよ。チケットは買ったから」と陽樹がスマホをゆらゆらさせる。
「ありがとうございます」と風夏が言うと、
「前から気になってたんだけど、敬語やめようよ。もうバンドのメンバーなんだし。ね?」
陽樹にににこっと笑われたら、頷くしかない。
「さー、全部のアトラクションまわるぞ」
「全部!?」洋人と風夏の声が重なった。
「よし!まずはジェットコースターだな」
そこからは陽樹の独壇場だった。
ジェットコースターに、お化け屋敷、バイキングなど休む暇もなく、次々とアトラクションに乗っていった。
最初はこの3人で遊園地なんてと風夏は緊張していたが、叫んだり、びっくりしたりしているうちに、緊張も解け、タメ口で話すのにも慣れてきた。
楽しみすぎて、あっという間に夕暮れになり、少し薄暗くなってきた。
「俺ちょっと休むわ」
洋人がぐったりした表情で、ベンチに座り込むと、残りは2人で行って来いというので、風夏と陽樹は最後のアトラクションである観覧車に向かった。
観覧車に乗り込むとゆっくりと空に向かって上がっていく。
たくさんのアトラクションが少しずつ小さくなって、園内の全体が見えてくる。
あれだけのアトラクションを制覇したと思うと達成感を感じる。
「陽樹くん、今日はありがとうね」
「いやいや、俺が楽しみたかっただけだよ」
「本当は私が打ち解けやすいようにしてくれたんでしょ?」
風夏が思っていたことを口にすると、陽樹は少しびっくり顔をして、「僕が風夏ちゃんと仲良くなりたかっただけ」と言って、誤魔化すように外の景色を眺めた。
夕暮れの町が見える。
ビルや家が少しずつ小さくなっていく。
「陽樹くんは本当に優しいよね」
「いや、僕は金持ちのボンボンで適当なチャラい男だよ」
「そう見せてるだけでしょ?」
「そんなこと・・」
「陽樹くんはいつも人のことよく見てる。その人が今何を求めているか考えて、その人が一番温かい気持ちになる言葉をくれる。だから陽樹くんは人気者なんだね」
風夏の笑った顔の後ろから夕暮れがさして、輝いてみえる。
「・・・風夏ちゃんの方がすごいよ」
風夏は驚いて「そ、そんなことないよ」と慌てて立ち上がって壁にバンと頭をぶつける。
「いたぁ」と涙目になる風夏をみて、陽樹が声を上げて笑った。
いつもニコニコしている陽樹の心から楽しそうに笑った顔を初めてみた気がした。
遊園地を出ると、洋人は「しんどいから」とさっさと帰って行った。
陽樹と風夏が話しながら、歩いていると、昨日の女の子たちにばったり会った。
「あー陽樹!」
またじろじろと風夏をみている。なんでお前が一緒にいるんだという顔をしている。
「ねぇ、カラオケいこうよ。あなたは・・・別にいいよね?」一人の女の子が陽樹の腕にからまりながら、勝ち誇った目で風夏を見ている。
「ジャージがお似合いだね」といってクスっと笑っている。
「私はいいよ、帰るね」と帰ろうとする風夏の腕をつかむと、女の子から腕を抜く。
「大事な人を家まで送らなきゃいけないから、ごめんね」
今まで見たことないような冷たい笑顔で、女の子たちを見ると、風夏を優しく引っ張っていく。
「いや、私本当に大丈夫だよ?あの人たち怒ってるんじゃ?」
「風夏ちゃんを夜に一人歩かせるなんて、俺が気になるから」
そういって陽樹は優しい笑みを浮かべた。
恥ずかしくなって、風夏が上を見ると、星がきらりと光っていた。




