マンダリン
サギヌマさんがじっと俺を見ている。
というより、顔が真っ白だ。
今、何時だろう。
途中、マンダリン・ティーという紅茶に似た飲み物を追加で注文したが、始業時間がとっくに過ぎているのは間違いない。
ここはもう、時間なんて気にする世界ではないけれど。
「あなた……誰?」
サギヌマさんの音階が下がった。
喫茶店にミリオンバンブー島の風が吹いた気がした。
「どっちだと思います? ヨシカズ? それとも社長?」
遊び心を出してクイズ感覚で聞いてみたが、サギヌマさんは全く笑っていなかった。俺も真剣に向き合おう。
「俺は――ヨシカズの顔を奪ったやっくんです」
ガタン!!
サギヌマさんが大きな音を立てて席を立とうとした。
「座ってください」
そう静かに言ったのは俺ではなかった。
「誰……でしたっけ?」
サギヌマさんの声に警戒の色が滲んだ。
「人事のアグリさんです。中途やアルバイトを担当しているから、サギヌマさんはあまり面識がないかもしれませんね」
「そういうことじゃないわよ」
混乱を隠しきれない様子で椅子に座り直すサギヌマさんの隣に、彼は腰を下ろした。
「ここはしょっちゅう来ていますけど、新作の造血紅茶は絶品ですね」
意味深に笑って、自分のトレイをテーブルに置いた。
「名前だけ聞くと吸血鬼みたいな名前の紅茶だ」
無視されたように感じたのだろう。サギヌマさんが再度、わざとはっきりと言った。
「あんたが、どうして、社長と、つながって、いたのよ」
その疑問はもっともだ。
アグリさんも神様側の人間なのだから。
やっぱりサギヌマさんにはすぐにわかったか。
「そんな怖い顔しないでください。わたしだって、妻のためだったんですから」
「それってもしかして――」
アグリさんが笑って頷いた。馬鹿にしたような笑いじゃない。
とても健康的で正義感溢れる笑顔。
植物学者Aの顔。助手さんの夫の顔。
「お察しの通り、わたしがオシドリラボの夫であり、この二年間、社長の異能探しの手伝いをしてきた者です」
持っていた紅茶で唇を湿らせ、彼は話し出した。
「訳がわからないでしょう? 説明させてください」




