宙に浮く
もうダメだ。
これ以上は耐えられない。
トモくんが社長を連れて戻ってくるのを待っていたけれど、もう限界だ。
間もなく神様は心臓の修復を終える。急に血流が回復してきたこともあるが、何を隠そう、神様本人がそう言ったのだ。
『全く、なんてことをしてくれたんだ。わたしを殺す気か? そんなにわたしが憎いのか』
心臓に傷をつけられたというのに、むしろ傷つけられる前より人間味――という言葉が適切かわからないが、電子音に温かみが加わっている。
「憎いわけでは……あなたがトモくんまで浄化しようとするから必死で……あと、トモくんは社長を連れて来ないといけなくて……」
『何をわけのわからないことを。誰だよ、社長って。それより、お前に教えてやる。いくら待ってもあの鳥は戻ってこないぞ』
衝撃――。俺は一体なんなのだろう。持たざる者には虐げられ、異能にも裏切られるとは。
俺を囲んで小さな羽を震わせていた蝶たちが、慰めるように交互に頬を撫でてくれる。
「俺はどうすれば……とにかく、この蝶だけは浄化してやってくれ。でも俺は――あなたの心臓に残ることはできないか」
こうなったら直談判しかない。どうせバレているなら同じことだ。
『わたしの心臓で何をするつもりだ』
「…………」
それはそうだ。きっとここでは何もすることがなく、俺は流れる宝石を永遠に見守るだけの暇な時間が流れるんだ。
『すごく忙しいぞ』
「へ?」
意外すぎる。こんな所まで来て仕事に追われるなんて。前言撤回。
浄化して生まれ変わらせてもらおう。
『もう遅いぞ』
くそ、読まれていたか。
「忙しいとは、どういう風に」
俺の顔――社長の顔もバリバリにひきつっているはずだ。もう、地獄で永久労働の刑を受ける気分だ。
『お前、心臓を知らないのか? ずっと動き続けてないと、わたしは死ぬんだぞ。わたしの死は世界の死だ』
そうか……俺はなんて浅はかだったんだ。神様の重要な器官になることはそれだけ責任重大で、休みなどないのは当たり前だったんだ。
『お前、かわいそうだな。信じた仲間にも見捨てられて』
怒りや悔しさではない。本当に悲しみで心が割れそうだ。もう議論する気にもなれず、一言だけ言った。
「好きに……してくれ」
『宙ぶらりんな答えだな。一つ、提案してやる。わたしからの慈悲だ』
静かに神様が言ったが、返事をする気にもなれない。
『お前、復讐しろ』




