声を聞かせて
青く光る人がいた。
儚いエンジェライトのパウダーブルーに、ほんのり発光している美しい人。
天使、いや聖母で戦士。
間違いない、やっくんのお母さんだ。彼女は鳥の姿じゃないんだな、と敗北を感じた。
「母さん……」
振り返ったやっくんが呟いた。近い――けど、手は届かない微妙な位置で彼女は呼吸している。
やっくんがゆっくりと近づく。その動きに迷いはない。
当たり前か。やっくんはのっぺら顔だ。見た目ではなく、心に浮かぶ色で人を識別していると教えてくれたことがある。
「声を聞かせて――」
やっくんのその言葉に、堪えていた涙がこぼれ落ちた。
異能を守る母性抗体は、神様の身体の外から来たに違いない。虚空人だ。やっくんのことも虚空に連れ去ろうと現れたの?
「あなたはここに残りなさい」
やっぱり。この世のものではない優しい声が響いた。
「母さんの声……。僕、覚えてる、覚えてるよ」
褒めて欲しいとでも言いたげなやっくんの声。わかる、やっくんの気持ちが痛いほど。
「あなたはここに残らないといけない」
また彼女が繰り返した。
「母さん、どうして? せっかく僕、顔があるのに」
「あなたは『愛を知っている』から」
彼女が微笑むたび、淡い青が飛び散る。もう笑わないで欲しい。だって、青が散るたび、自分自身の身体を削っているような献身の音がする。
「僕はそんなの知らない――」
いや、やっくんは知っている。そう断言できる。だって――
「あなたが愛なのです。水は海を知らない。熱は太陽を知らない。そして人間には神様が見えない。あなたは愛の欠片。大きな愛の正体をあなたは知らない。あなたが認識していないのは仕方ありません。あなたは『答え』の側なのですから」
ボクが伝えたかった言葉を全部取られてしまった。でも、彼女になら諦めがつく。
「母さん……」
ついにやっくんが動いた。彼女に勢い良く抱きついた。怖くて、触れたら消えそうで、ずっと我慢していたんだよね。
思い切り抱き合った、次の瞬間だった。
パウダーブルーが草原に散った。
ベビーパウダーのようでいて、アイシーな香りが火照った僕の翼にまで降り注いだ。
「あ……」
自分自身を両腕で抱いて、立ちすくむやっくんがいた。
そのまま柔らかい地面に座り込む。その体は雪のように優しいお母さんの『愛』で包まれていた。
「ねえ、トモくん……。母さんは死んでない。あの時と――僕に顔をくれた時と同じだ。僕と一緒になって消えた」
そう言って目を濡らすやっくんを後ろから抱いた。
愛の香りに包まれて、ボクらは幸せだった。
すっかり忘れていた助手さんが目の端に入る。絶望しているかと思ったが、夜明けを待つ者の希望の目をしていた。
助手さんは心を決めている――。
あとはヨシカズくんの問題だ。




