心臓破壊
なんてことだ――。ボクがついていながら。いや、全部ボクのせいか。
ヨシカズくんを探さなきゃ。
「ねえ、キミたち、ヨシカズくんを探して」
不死蝶たちに呼びかけた。ボクの声に応えて、色とりどりの銀が揺れる。
そのともしびを頼りに、神様の心臓の内部をゆっくりと進む。
完全に黒銀の世界。鉄隕石の心臓で、ボクから離れて何をしようというんだ――。ふと不安になった。
ヨシカズくんは、ボクに全てを話していたのだろうか?
真実の声を聞いて、耳をちぎり取るだけが、彼の能力なのだろうか。
それは間違いない。ボクが今震えているのは、ボク自身の力だ。ボクのろくろ舌の力――。
他人の強い願いを感じた時に叶えられる。
ヨシカズくんの願いなら、叶えられるかもしれない!
……何の願いだか知らないけど、きっと彼なら素敵なことだ。
追え、追え。彼の願いを感じ取れる場所まで。銀色の蝶よ、ボクを導いてくれ。
カンッという音と共に、金属特有の冷たい感触がした。
ボクのくちばしが、心臓の壁に触れたんだ。
未だにこれが拍動しているなんて信じられない。ボクすら信じられないのだから、人間なんて尚更だろう。
その時、目の前の鉄の面に波型の線が現れた。
ヨシカズくんだ――。少し首を横に向けて、よく観察する。
実はボクは、真正面の解像度が少々弱い。
しかし、よく見ても間違えない。神様の心臓にあるのとは、明らかに違う、生きている曲線。
壁に接触するほど顔を寄せた。全身の蝶が騒めく。
聞こえる――。目の前の壁からじゃない。
ボクの身体に纏わりついた、たくさんの蝶の羽が、その振動で声を作る。
(ここを……破れ……)
そう言っている。ここ、とは、ここか?
これ、神様の肺動脈だよな? 突き破ったら神様は死なないか?
たぶん死なない。きっと瞬時に修復をするはずだ。
でも、そんなことをしたら、ヨシカズくんは、異能たちはどうする?
ここをぶち破って、ボクだけ逃がそうという魂胆なのは想像がついた。ここは文字通り神様の心臓部。神様は修復に全力を使うはずだ。異能の浄化など絶対に後回しにされる。
その間に、やっくんを迎えに行けということか……。
でも、もし異能が取り除かれないまま、また心臓から排出されたらどうなる?
わからない――。これだけの数の異能が同時に集結したことなど、過去に一度もないからだ。
どうしよう……。でも、やっくんを記憶から洗い流されるのはもっと嫌だし……。
(おい! いつまで考えてるんだ!!)
「ひぃ! ごめんなさい!」
考えをめぐらしていたら、怒られてしまった。
これが、ヨシカズくんの望みなら叶えられる。
誰かの強い望みならば、ボクは神様にだって勝てる。
「蝶たち、ボクが動いた瞬間に、壁の中に突進しろ」
身体中の蝶が、ピタリと止まった。
一瞬の静寂。
しゅる――。
ボクの舌が、神様の心臓に触れた。
長く、長く伸びた舌が。
傍から見れば、物凄くシュールな絵だ。ヒクイドリのような鳥から、ろくろ舌が伸び、ギベオンハートを切り裂こうとしている。
そう、ボクの舌は今、鋭い刃物に変化していた。
ギベオンを切り裂くレッドダイヤモンドの舌。
舌先で凝固した言葉が、深紅の結晶となって脈打つ。
スフェーンの林より荒々しく燃え、ギベオンの心臓より強固なボクの舌。
巨大な血管に切れ目が入った瞬間、銀色の蝶が一斉に、ボクの身体から離れた。ギベオンに隠れていたヨシカズくんと、ほんの少し目が合った。
ボクを見て、驚愕の表情を浮かべ、「マレーグマ……」と言ったような気がした。




