ブラックウォッシュ
それも一瞬のことだった。
これは――暗闇に吸い込まれたんじゃない。トモくんごと神様の心臓に入ってしまったんだ。
あっという間に闇は消え、今は何とも言えない模様の渦巻きが見える。どこかで聞いたことがあるような光景――。
聞いたこと? ついさっき体験したことだ。
社長の能力――顔の交換の時の光景だ。三百六十度、目に映るもの全てが、溶けて眩暈がする。
これが、心臓へ向かう血管? 大動脈とか大静脈とかいうんだっけ? 俺は医療のことは良く知らないから、なんとも言えない。
いや、心臓の医者だってこんなものに名前など付けられないだろう。
『お前らをまとめて浄化してやる。その鳥も、二度とおかしなことを考えないようにしないとな……』
「だめだ!!!!」
思わず叫んだ。
社長はまだ林の手前にいる。神様がその気になったところで、トモくんが迎えに行くはずだった。
トモくんと社長は相思相愛だ。
神様なんかに引き裂かれてたまるか。
『いい加減にしろよ、私が甘やかしていると直ぐにこうだ』
そして、今度こそ真の闇へと滝を滑るように落ちて行った。気を失いそうになる。暗すぎて、良くわからないがきっとものすごいスピードだ。トモくん、目を覚ませ! 銀色の蝶たちは、俺の仲間は大丈夫か? 羽がちぎれたりしてないか?
「あれ……?」
その時、トモくんの声がした。良かった、渦を巻き続ける嵐のような空間でも、その声ははっきり聞こえた。自分の能力に初めて感謝した。
「目が覚めて良かった!! 神様に勝手にここに投げ込まれました。傷なんてつけなくても浄化してやるって」
かき消されているのは承知で叫んだ。当たり前だ。台風の中で会話をしているような状況だ。でも、トモくんはきっと聞き取ってくれる……。
「トモくんさん、逃げて!! 一緒にいたら、あなたの記憶も洗い流されてしまう!!」
「記憶? やっくんの……」
寝ぼけてるのか、鈍い反応にイライラしてきた。
「そうですよ!! あなたの愛するやっくんのことを忘れてしまっても良いんですか」
「やっくんを……ダメだ……忘れたくない」
全く世話の焼ける。こんなのが神様の使いなんて世も末だな。
「すみません、俺のせいで世界は終わってしまうかもしれない」
そう言って、思い切り身をよじり、トモくんの爪を引きはがした。




