神の声を聞け
「うっ」
頭の中に直接響いてくる声――これまでの人生で聞き慣れているものとは明らかに違う。
「ヨシカズくん、どうしたの? 大丈夫かい?」
トモくんが戸惑っている。この声が聞こえていないのか?
トモくんは、彼の言葉を借りれば『特別な細胞』じゃないか。それなのに俺にしか聞こえないということは――。
『お前に言ってるんだ』
電子がまとまって意味をなす声になった。
これが、神様? 機械だろ? もしくは会ったことなんてないが、宇宙人だ。
『聞いてるのか』
「なんだその声は……。最近のAIの方がずっと自然だぞ」
神様という概念でしかなかった人物との最初の会話がこれ。情けない話だが、現実とはそんなものだ。
『失礼だな。そんなことより、私の心臓を傷つけるのはやめておけ』
「怖気づいたか。お前、へっぴり腰だと聞いてるぞ」
『……』
神様が黙り込んでしまった。なんだ? こんなことでしょげるのか? やっぱり小さいやつだ。
『そんなことを言われていたなんて……薄々気が付いていたけど、やっぱり傷つくよ。お前、ますます私の心臓に傷をつける必要はないぞ。今ので十分傷ついた』
「お前、そんなこと言って逃げようって魂胆だろ。そんな訳にいくか! よし、トモくん!! 飛び込め!!!!」
声に出して言ったはずなのに、トモくんは全く動こうとしない。
『馬鹿だな。ここは私の身体の中心、心臓だ。私の力が一番届く』
トモくんの動きを封じたのか。どこまでも卑怯なやつだ。
「てめえ!! ふざけるな!!」
人生で初めて本気で怒鳴った。もう後戻りはできないなら、好きにしてやる。
『落ち着け、この腐れ耳』
それこそ耳を疑った。神様ってこんなに口が悪いのか? 人のコンプレックスをネタにするなんて。威厳もなにもないじゃないか。
「腐れ耳とはなんだ! 俺一人でもお前と戦ってやるよ!」
その瞬間、爆風が吹いた。幸い、トモくんの爪にしっかりと支えられている俺と、接着剤でくっついているような銀の蝶たちが飛ばされることはなかったが。
『あ、悪いな。つい、溜息をついてしまった』
溜息? これが? 台風みたいな風だったが?
『とにかく、少し話を聞けよ。お前たち、異能は私に浄化して欲しいのだろ? まさしくわたしの望むところだ。わたしもお前たちを浄化したいと思っていたが、今まで叶わなかった。何故だかわかるか?』
溜息であの風圧だったんだ。泣かれたり、怒鳴ったりされたらどうなるかわからない。鈍い俺もやっと理解した。
「俺たち異能が――息を潜めて世界中に散っていたからだろ」
『なんだ、わかっているじゃないか。わたしの特別な細胞たちにも、身体中に散らばっている異能を全て見つけ出すことは不可能だ。更に、もし異能を見つけたとしても、即座に攻撃するわけじゃない。仮にも私の細胞の一部だ。重点的に見回りをし、他の細胞……人間たちに影響を及ぼし始めた時に初めて、排除の対象になる』
神様の説明の方がトモくんよりわかりやすい。直接神様に質問できる機会なんてないし、色々聞いておこうか。自分でもこんな度胸があったとは意外だ。追い詰められて、新たな能力に目覚めたのかも知れない。
「排除というのは? トモくんが言っていた『虚空』に送るのとは違うんだよな?」
『全然違う。排除は、本当に無になることだ。最終手段だな。細胞が減るのは私自身の身体を削ることにもつながるから。それより、私の計画はお前をここまで連れてきた鳥より現実的だ。なにせ、自分の身体のことだから、文字通り必死だ』
やっと神様の言うことを聞く気にはなったが、鳥の剥製のように動かなくなったトモくんが心配だ。本当に神様の言うことを信じて良いのだろうか? もし、今、この静止した状態で『騙されるな』と俺に訴えていたらどうだろう。
いや、俺の耳に届かないということは、今、意識はないはずだ。
『その鳥を信じるか? もう遅い』
神様がそう言ったのと同時に、俺は暗闇に吸い込まれた。




