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心臓決戦2

 しばらく気を失っていたようだ。


 あの後、大木にトモくんが突進して行って……それから……。


「目を開いてごらん」


 トモくんの声がエコーした。


 血液がドロドロ流れている様子を思い浮かべながら、ゆっくり目を開いた。


「なんだ……これ」


「思ってたのと違うだろ? 神様の血管の中には鉱物が流れている」


 鉱物……というか、疎い俺にとっては無数の宝石だ。


 スフェーンの林から、宝石の大河へ落ちた気分だ。


 宝石とは普通、種類――というか、色ごとに分けられて飾られているイメージだが、ここは俺の常識をことごとく覆してきた。


 視界には緑、青、赤、紫、黄色、白――輝きも大きさも形も濃淡も違う宝石が一方向に流れていた。


 その間をぬって、滑るように飛ぶトモくん。姿は鳥でも、宝石の川の中では魚のように感じる。


「これが――血管の中?」


「そう、美しいだろ? 宝と呼ぶにふさわしいと思わないかい、神様の血球は。大きいものはキミの身体くらいあるし、小さいものは小指の爪ほどもない。さあ、数分で心臓に到着するから、準備しておいてくれ」


 一体、何の準備をすればいいのだ。トモくんには生まれ故郷のようなものでも、俺には全て初めての場所で、初めての経験だ。


 帰りたい――。


 急に涙が出てきた。この血管の川がいくら綺麗でも——いや、こんなに美しいからこそ、俺は元の猥雑な場所に戻りたい。石ころに紛れて、石ころとして生きて、そして死にたい。


「キミには神様の心臓に傷をつけて、やる気を出させて欲しいんだ。あとは、ただ、心臓を見ていて」


「それは……どういう?」


 顔の横を俺の唯一名前を知っているオパールが流れ去った。


「ブラックオパールみたいだったろ? キミの心に魅かれてきたのかな?」


「俺は乳白色のやつの方が好きだ」


 こんな状況でも、好きなものは譲れない。


「ヨシカズくんは頑固だね。神様にもきっと好かれる」


 諦めてしばらく宝石の流れる川に身を任せていた。


 正確にはトモくんの爪に引っかかっていたので、完全に流されていたわけではないけれど。


 そのうち、文字通り色の洪水だった川の様子が変化してきた。


 銀というか黒というか……とにかく鉄のようなものが見え隠れしている。俺たち異能のガラスのような銀色より、ずっと人工的な何かだ。


「神様の心臓は鉄板で出来てるのか?」


 だとしたら羨ましい。鉄の心臓なんて、人類の夢じゃないか。


「鉄板とか――味気ない言い方はやめてよ。神様が傷つく。ほら、アレに似てるだろ? キミたちがギベオンと呼ぶ隕石。あれを地上で見た時は焦ったよ。心臓が弾けてしまったのかと思った。さあ、ついたよ」


 トモくんの謎の解説も耳に入ってこなかった。


 心臓とは巨大な鉱山だった――。


「なんだ……あれ……?」


「さっきから、心臓って言ってるじゃないか」


 そうだけど……。なんだ、あの形、あの模様……。


「だから言ってるじゃないか、ギベオンみたいだって。美しいだろ? あの幾何学模様。ここからじゃわからないけど、全体は正十二角形をしているんだ」


「でかい……」


 アホみたいな感想が漏れた。人間は圧倒的なものを見た時、IQがマイナスになる。


 銀板の表面は、計算されたコードのような直線や円に彩られ、自らの叡智を見せつけているようだ。


「人工物だろ――?」


 思わず本音が口をつく。


「違うよ、よく見て。血管と筋肉で出来てる。人間たちの方が、記憶の片隅にある神様の心臓を求めて人工物に組み込んでいるんだよ」


 当たり前のように、いや、少し誇らしげにトモくんは言った。


 確かに、銀色の鉄の板に刻まれた線は規則的に白く発光する。それは電子のようだし、僅かに遅れて動く円の模様も歯車のようで、ますます機械感が増す。


「これからボクはあの心臓内に侵入する。キミの感覚では一秒に満たないはずだ。そして、ボクにもそれが限界だ。ボクはやっくんのところへ帰らなきゃいけないけど、それ以上とどまったら血流に呑まれてしまう」


 呑まれる? あの白く光る電子に捕まるとかだろうか。


「で? 俺は流れに任せていても良いんだよな? この蝶たちと一緒に」


「駄目だ」


 いつも優柔不断なしゃべり方をするくせに、この時はやけにきっぱりとトモくんが言った。


「じゃあ、どうすれば……」


「心臓の入り口に傷をつけたら、そこで踏ん張っていてくれ。ぼくは神様が諦めて浄化を始めた頃合いを見て、やっくんを連れて――」


 その時、物凄い電子音が響いた。


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