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置き去り

 サギヌマさんが教えてくれた。

 社長は会社が大きくなっていくにつれ、異能者収集にも憑りつかれていったという。俺が会ったことがないだけで、別のオフィスや在宅勤務の者の中には何人も異能がいたそうだ。


 社長は異能同士の接触を意図的に避けて配属をしていた。

 自分に従順な異能かを見極めていたのだろう。


 そして異能帝国を築く――今まで自分たちを虐げていた持たざるものを従えて。そんな子どもじみた夢想をしていたんだ。

 その願いは儚く散ったが。


 社長は『これは』と思う異能を本社、つまり自分のそばに置いた。しかし、彼らはことごとく行方をくらましてしまう。サギヌマさんとオシドリラボの助手さんの策略によって。


 社長を排除しようとは思わなかったのか? という問いを、サギヌマさんは呆れたように否定した。


「トモくんが守っていたから、排除できなかったの」


 そう返ってきた時は寒気がした。この女、隙あらば社長を殺すつもりでいたのか。


「でも、トモくんはずっと離れた町にいましたよね? しかも公務員として働いていた。離れた場所にも能力を飛ばせるとか、分身できるとかですか」


 サギヌマさんの呆れ顔レベルが一段上がった。


「トモくんが、本気であの町でずっと仕事をしてたと思ってるの? 実際、顔を出していたのなんて、きっと月に一、二回でしょ」


 なるほど……。トモくんの異能は『ろくろ舌』。でも、彼は他人の望みしか現実にできなかったのでは?


「わたしも社長のことを調べるうちに知ったんだけど、トモくんの仕事は観光課でも特殊だったみたいじゃない? 外出や出張が多かったんでしょ? 兼任もしていたみたいだし。でも、人気はあった」


「みんな、トモくんにもっといて欲しいと願った――ということですか」


 会う人、会う人、トモくんが毎日職場にいればと思ったのか。その願いを叶えたのか。トモくんは幸せな異能だ。


「まあ、そんなんで、彼は仕事もそこそこに、鳥になっては社長の周りをうろついてたの。そんなことより、あなたの話を聞きたいのよ、わたしは」


「あ、すみません。というか、これ、意外と美味しいです。見かけによらないな」


 全く期待していなかったのに、トモくんパフェは甘党ではない俺の舌の上でも華麗に踊った。


「……で、あの時、トモくんは俺を爪で掴んだまま、夜空に上昇したんですが――」


♢♢


「これから不死蝶が集まってくる。僕から離れないで」


 大きな鳥の爪で捕まえられている俺からしたら、そっちが離さないでくれとお願いしたい。


「不死蝶って、あの銀の蝶のことですよね? 俺の仲間……」


 夜風が懐かしい香りを運ぶ。

 異能が能力を発揮する時の匂いが、俺は好きだった。


 スペアミントのような、胸に広がる爽やかな異臭。


「あいつらを集めてどこに行くつもりなんです?」


「虚空――ということにしてる。まあ、本当は心臓だけど」


 なにを言っているのかさっぱりわからない。


 優雅に、しかし明らかに普通とは違う羽ばたきで、無数の不死蝶が近づいてきた。妙に動きがスムーズで、人工物のようにさえ思える。


「もう少しでキミにもわかるよ」


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