ミリオンとビリオン
カフェの入り口で、思わず足を止めてしまった。
ネイル女が、意味深に振り返る。
「よっしーは初めて来るんだっけ?」
このカフェ、外装がミリオンバンブー島にそっくりだ。
「ああ……ちょっと、まだ記憶が生々しくて」
いつまでも立ちすくんでいるわけにもいかず、中に入った。
内装も、あの島をそのまま再現したようだ。
このテーブルの木、飾られている花、照明の緑――。
「大丈夫?」
「ああ、ちょっとまだ疲れているだけです。色々あったので」
そう言いながら座った、壁際の席の温もりも、あの東屋のようだ。
「ねえ、よっしー。本当に大丈夫? 泣きそうじゃない」
メニュー表を俺から隠すように、サギヌマさんが言った。
「隠してもわかります。あの島に関連したメニューばかりなんでしょ? 俺は、そうだな……何かトモくんをモチーフにしたものはありますか?」
そう、俺を連れて行こうとして止めた、あのトモくん――。
あの日から、あの鳥の姿を何度も夢に見る。
「あるけど……」
サギヌマさんが言い淀む。俄然、気になる。
「どうしました?」
「いや、パフェだよ? しかもかなりボリューミー」
そう言って、通常のメニュー表とは別の『Monthly Special』と書かれた大判のカードを見せた。
てんこ盛りだ。下層のゼリーとドリンクは青りんごだろうか。
スフェーンの林をイメージしていることはわかる。あの燃えるようなオリーブグリーンが、写真の中ではクールにグラスに収まっている。
上に載っているのはゴールデンマンゴーか? 青りんごに合うのだろうか?
そして――鳥……たぶんアラザンとかいう銀色の粒々を、これでもかと施して作っている。
「なんだか――豪華ですけど、味は微妙そうですね。でも、これにします。カオスが逆にトモくんっぽい。ちょうど朝ごはんも食べてなかったから、お腹が空いてますし」
サギヌマさんはオシドリラテというのをオーダーし、一呼吸すると、改めて俺をじっと見つめた。
「なんか――よっしー、表情が柔らかくなったね」
「そうですか?」
「うん、何か憑き物が落ちたような。あ、実際落ちたのか、耳の能力が」
そう言って、空いた店で声を潜めて笑った。
まあ、サギヌマさんの言う通りなのだ。もう俺に異能はない。
「はい。異能がないって、こんなにすっきりした気分だとは思わなかった。いや、思っていた以上に軽い気持ちです――ただ……」
俺を置いて、虚空へ消えたトモくん。本当にこれで良かったのか?
世界は――神様は、これで満足なのか?
「何となくわかるよ。わたしは変わらず、シナプス? だけど。やることなくなっちゃったし」
俺とは全然違う理由だが、なぜだか肩の力が抜けた。
ちょうど注文のパフェも運ばれてきた。
頃合いか――。
「それで、俺の話を聞きたかったんですよね? 島での話。どこまで知っているんですか?」




