虐げのご褒美
トモくんが、明らかにこちらを向いた。
忘れていたが、あのヨシカズという異能、なぜまだトモくんの脚に捕まえられているのだろう。彼は不死蝶にならないのか?
やっくんがこの世で一人きりの異能になるのが可哀想で、彼も置いていくことにしたのか?
「やっくん!」
友くんが、わたしたちの上空十メートルほどまで降りてくるのに時間はかからなかった。
「やっくん……ごめんね。キミを一人にはしないよ。ボクはキミと会ってから、一度もキミを一人にしてこなかった。今もしていないし、これからもずっとだ」
トモくんと一心同体になった異能たちは、今、何を思うのだろうか。
「トモくん……綺麗だな……。銀色で、ピカピカしてる」
やっくんが、全く関係ないことを呟いた。
完全に少年に戻っているんだ。感動したものが心をすぐいっぱいにしてしまう、人間の子ども特有の、あの状態に。
「ありがとう。やっくんに褒めてもらえてうれしい。これがキミたち異能の本当の姿だよ。ねえ、やっくん、正直に答えて」
やっくんが、こくりと頷いた。
「キミは虚空が怖くない?」
「『虚空』? 何も、ないこと?」
唐突な質問に、やっくんが戸惑いの表情を見せた。しかし、返事は早かった。
「もちろんだよ。トモくんと一緒にその場所に行きたい」
目を潤ませているが、本当に意味がわかっているのか? 虚空――そこは神の身体の外に出ること。
人間たちの言葉で言えば、宇宙の外に放り出されることだ。いっときの激情に任せて大変な決断をしていることに、やっくんは気が付いていない。思わずトモくんに鋭い視線を送ってしまう。
「大丈夫、助手さん。ちゃんと説明する。ねえ、やっくん――虚空のことはボクも全然知らないんだよ。ボクも怖い」
そう言いながら、また少し顔を地面に近づけた。
これまで自分の夫こそ世界で一番美しい鳥だと思っていたが、トモくんはまた別格の荘厳さだ。さっき一瞬見えた、ヒクイドリという鳥の姿も綺麗だったけれど、今は柔らかなメタルの鳥。降り立てないのは今、その身体が巨大になり過ぎたから。
「無に還って、やり直せなくてもそれでいい。トモくんと一緒に消えるなんて、最高のご褒美だよ。異能で良かったと初めて思える。こんなクソみたいな世界から、やっと抜け出せるんだ。キミと何でもなくなりたい」
何者かになりたい、名を残したいと願う、持たざる人間への反発だろうか。
皮肉だ――。
虐げられ、自分を殺して生きてきた異能たちが、今ここで神の使いによって救われようとしている。
虐げのご褒美をもらおうとしている。
その後は、最初から想定された儀式を見ているかのようにスムーズだった。
トモくんがゆっくりと降りてきて、くちばしの先でやっくんをさらい、宇宙へ飛び立った。
ずっとトモくんの片足に捉えられていたあの青年――ヨシカズはどうなるのだろう。そんなことを、ぼんやりと考えていた。




