愛を知れ
恥を知れという言葉は、人間がたまに使う。日常的ではないけど、物凄く怒ってる時とかに。
しかし、ここに来て、まさか人間に「愛を知れ」と言われるとは思わなかった。
それをボクに言ったのは、やっくんのおじいさん。初代「のっぺら顔」の母親だ。
彼が産まれた時から、ボクはその周辺の木々に止まって監視をしていた。
両親によって小部屋に閉じ込められてしまった時は、少々焦ったが、ここから出て来ないなら丁度良いくらいに思っていた。たった数十年じゃないか――人間の寿命なんて。そんな風に思っていたボクは、すっかり愛を失っていたんだ。
ボクは当時、状況に合わせて適当に、身体を鳥から人間に変えたり、戻したりしながら過ごしていた。
何となく、顔を失くした子の年齢に合わせた姿になった時、意外にも心地が良かった。それから何度か、その姿で村を歩いてみたりした。
おせっかいな人間から、どこから来たのかとか聞かれるのが面倒なので、見つかると直ぐに鳥の姿になって逃げていた。
「ザシキワラシの友くん」というあだ名で噂になっていると、仲間から聞いて、自重しなければと思っていた時だった。
のっぺら顔の子が家に一人になった。彼は異能の中の異質。好奇心が止められなかった。
子どもの姿になって、その子のいる部屋の前に降り立った。ボクの唯一の取柄である歌声で、少しでもその顔を癒してあげたい、なんて思っていた。
心を込めて歌っていた時、急に家の中から物音がした。
まさか、外に出てくるのか? 思わず身構える。
その瞬間、家の角を曲がってきた少年と鉢合わせた。
ボクらの顔が合った――。
正確には、彼に顔はなかったのだが、確かにボクを見ているとわかった。それ自体は不思議ではない。
真・ビリオンバードが奪い損ねた命には、ボクたちの力が伝授するから、と最初は考えた。
でも、違う……。なんだ? この身体の中に海が生まれたような感覚は。
心を奪われて、声が出ない。
その時、彼の母親――謎の女が突然現れた。
「あなたは――」
女も言葉を失っている。その目は、ボクの正体を知っている。
「ボクを恨んでる……?」
何故そんなことを聞いたのかわからない。
きっと、嫌われるのが怖かったんだと思う。その時、女が言った言葉だ。
「愛を――愛を知りなさい」
それだけ言って、のっぺらの少年の肩を掴むと、家の中に入ってしまった。
あれからボクはずっと考えていた。もしかしたら『アイ』と読む他の字と勘違いしたのではないか……とかね。
でも、違う。彼女はボクの目を見て、はっきりと伝えたんだ。
「愛を知れ」と。
何故人間なんかに、そんな根源的な命令をされなきゃいけないんだ。
ん? 待てよ……愛ってなんだっけ?




