トモくん
もう死んでいるのか、生きているのかどうでも良い。
そんな恍惚の中に、俺はいた。
「これはマントルです」
あ……これはあの鳥の声——。
そっと目を開く。まず飛び込んで来たのは、うごめくオリーブグリーンの深海だ。
そう、本当に海の中みたいだ……。どういうことだ?
「俺は、死んだのか……」
姿の見えない鳥に尋ねる。
「『死』など存在しませんよ」
鳥の声が直ぐ近くで聞こえる。どういう意味だろう。そう言えばさっき、異能は鳥に喰われて『消える』と言っていた気がする。
「喰ってくれ——できるだけ痛くないように。社長に見えるようにやってくれ」
「全くあなたは……」
鳥が溜息をついて続けた。
「さすが、わたしの弟が信頼しただけのことはある」
弟だって? だめだ——気になる。それを聞くまで死ねない。
「あなたの弟とは? 誰です?」
ほんのわずかの沈黙のあと、澄んだ声がささやいた。
「弟のことを——あなたがたは『トモくん』と呼んでいましたね」
*
「ボク、ヨシカズくんを助けに行くよ! やっくんと助手さんは絶対にここから動かないで!」
ああ、もうなんてことをしてくれるんだ。僕が何とかこの場を治めようとしているのに、アイツ、やっぱりサイコパスだな。
ヨシカズくんを追って走りだそうとしたその時、腕を強く掴まれた。もちろんやっくんだ。
「え……?」
泣いている——。あの、やっくんが。
どうして? 聡明な目の表面にかろうじて張り付いていた涙が、最後の感情に押し出されるように頬をつたった。
「ちょっと、やっくん、しっかりしてよ」
初めて見るやっくんの弱さに、動揺が隠せない。
「どうして……?」
そう言ってボクを真っ直ぐ見る。
バレてしまったか——。
「信じていたのに……。トモくんのこと、本当の友だちだって……」
そう言って声を震わせる彼を見ていられず、思わず抱き寄せた。
「ごめん。本当にごめんね、やっくん。ボク、ずっと君のことを監視していた」
もう全部が言い訳に聞こえても良い。でも、ボクのやっくんへの気持ちは本物だ。
「ずっと、ずっとやっくんのことを見ていた。初めてキミと会った日から」
「母さんのおじいちゃんが、キミの歌に誘われて外に出てしまった日のことを言っているの?」
ああ、彼にはそこからしか知らないんだ。
「いや、それよりもずっと前だ——。ボクは……キミが好きだから……君たち異能が好きだから、守りたかった。聞いてくれるかい? きっと、ビリオンバードも急にヨシカズくんを喰ったりしない。今は縮小させて、やっくんがどう出るか、様子見といったところだろう」
そう、あいつはいつも相手の弱みを利用する。
「うん……教えて」
そう言うやっくんの声は、もうすっかり子どもに戻っていた。




