教祖
思ったより長く、そして重い話だった。
「それが、この島――この森……」
社長の闇に浮くお面のような顔を見つめて、そうつぶやいた。
いや、事実、お面だ。
そんな俺の視線の意味に気が付いたのか、社長がふいっと視線を逸らせた。
「鳥は何でも喰う。それなら異能のわたし達ではなく、能力を持たない者だって喰えるはずだ。わたし達が世界を治めることに、異論を唱える者を排除してもらうにはうってつけだ」
「え……? ちょっと待ってください」
思わず割って入った。いつも論理的な社長にしては根拠がなさすぎる。だいたい、俺はこの島で異能を強化することで、今までの鬱憤を晴らすくらいのつもりだった。
「なんだい」
そう言って、俺に視線だけを向けた社長の表情は、すでに俺の知るものではなくなっていた。
教祖――とかそういう類の得体の知れないものに見えた。
声の震えを悟られないよう、早口で尋ねる。
「鳥が俺たちの味方をするメリットは何です? 鳥は異能が生まれる前に排除しようとしている、いわば敵じゃないんですか?」
「切り札がある」
間髪を入れずに社長が言った。
「それは――」
そう口にしかけた瞬間、友くんさんの鋭い声がした。
「逃げよう」
意味がわからない。
「なぜ?」
「オシドリラボの助手がいた。とにかく、いったん小屋に戻ろう」
どこだ? 林の方か? そう思った時、パキッと小枝を踏む音が異常に大きく聞こえた。俺たちにその存在を知らせるように。
振り向くと、女性と思われる小柄な人影が見えた。
顔は闇でよくわからない。懐中電灯を持つ手が、なぜか彼女の姿を完全に捉えることを拒絶していた。
友くんさんが彼女の胸元あたりまでを照らす。きっと彼も怖くて顔を見ることができないんだ。顔を奪われた人間の、その後の姿――。
「どうせ、元の顔に戻っているんじゃないか。異能なのだから」
社長だけは淡々としている。そして、何事もないように、自分が顔を奪った人物に近づいて行った。
「ヨルナ!!」
女性の声が耳から脳に伝わった瞬間、悪寒が走った。
頭を抱えて、座り込んでしまう。
「ちょっと、やっくん! やめなよ!」
トモくんさんが社長の腕を掴み、同時に心配そうに俺に視線を向けた。
「ヨシカズくん、大丈夫かい?」
どうしてだ? さっぱり理解できない。
「違うんです……」
「え? 何が?」
トモくんさんは困惑するばかりだ。
「電話の声……その人じゃないんです!」
女性と向かい合っていた社長が、振り返った。




