表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/78

顔を得る

 同じ年の冬、わたしは顔を得ることになる。

 雪の降り積もった明け方だった。わたしの家が火事で全焼した。


 火元はわたしの家の居間。父のタバコの不始末が原因とされたが、わたしは信じていない。

 というより、確証がある。

 他ならぬ父の言葉だ。


「俺の顔もってけ」


 そう、言ったのだ。


 その背景は燃え盛っていたというより、煙でくすんでいた。

 両親は——特に『件の鳥』の伝説を知る父は知っていたのだ。

 わたしに顔を奪う能力があることを。


 だから、自分で家に火を放った。

 遺体に顔がなくても不自然でないように、火事を選んだ。


 火事の前、父と母が珍しく言い争いをしていたのを覚えている。

 その後、わたしの部屋に入ってきた母は、息ができないほどの強さで——仮に鼻と口があったとしたらだが——わたしを抱きしめた。


 ついにわたしを殺すことに決めたのかと覚悟したくらいだ。

 だが、母はただ、苦しそうに——泣くのを必死で堪えて荒く呼吸をするだけだった。


 あの時、父と母はもう打ち合わせを済ませていた。

 火が回りきる前に、わたしに顔を奪わせて、父はそのまま家に留まり、母はわたしを連れて裏手の浜辺まで逃げる。


 いきなり顔を奪えと言われて戸惑うわたしを、父は励ますように言った。


「顔が欲しい——そう強く念じてみろ」


 聞いたこともない、優しい父の声に従った。


 初めての顔奪いの直後、意識を失ったのは、能力の使い方に慣れていなかったせいなのか、煙のせいなのかわからない。

 気が付いた時、最初に目に入ったのは母の顔だ。


 脳内にイメージとして映っていた顔……。『目』を通して見るのは初めてだった。

 感動の対面——と呼ぶには、状況があまりにも複雑すぎた。


 遠目に映る小さな家はメラメラと燃え、父がその中で燃えている。

 そして、母の腕の中には少年時代の父の顔をしたわたし。顔は持ち主に馴染むということも、この時に知った。


 刺すような冷気は、冬のせいか、朝のせいか、海のせいか。

 あるいは——その全部が別々の刃物になって、わたしに襲い掛かってきている気がした。


 父が死んで間もなく、春になる前に、わたし達母子はその地を去った。


 近所は母を慰めると同時に、わたしのことを尋ねた。

 彼らにとっては初めて見る子どもなのだから当然だ。


「姉の子を預かっていたの」


 言葉少なく母は答えた。


 わたしと父の顔が似ていると思った人も少なくはなかったろうが、憔悴している母にそれ以上質問してくる者はいなかった。


 わたしはと言えば、たくさんの人に会うこと、食事をすること、そのすべてが初めての体験で、不謹慎ながら興奮すら覚えていた。


「きょろきょろしないで……。珍しいのはわかるけど、この町を出るまでは辛抱して……」


 そう母がわたしの耳元で言ったが、少々勘違いをしていたと思う。わたしはユウくんを——あの日の子を探していたのだ。


 結局、ユウくんは見つけられないまま、わたしはこの町に引っ越してきた。


 大人になってから『件の鳥』の伝承を詳しく調べた。

 その中にこんなものがあったんだ。


『件の鳥の呪いは隔世遺伝する——』と。


 だから、産まれたお前の姿を見た時は胸を撫で下ろしたよ。


 わたしの背負ったものは、わたしと一緒にこの世から消える——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ