第三章 雪製の愛 世界の覇者
「それはやっくんのせいじゃない!!」
トモくんさんが突然、大きな声を出した。
「トモくん……君は相変わらず優しいな」
そんな二人の甘いやり取りに気まずくなり、窓の外に目を向けた。陽は落ちて、静かで優しい闇の時間になっていた。
「そろそろ、偽ミリオンバンブー林に行ってみませんか。お二人の話を聞いていたら、早くこの目で実物を見たくなった」
「うん。でも、話した通り、偽ミリオンバンブー林は火事で焼け落ちてしまったから、跡地を見に行くに過ぎないけどね」
そう言ってトモくんさんが立ち上がる。
「社長」
考え込むような表情で動かない社長に声を掛けた。
「ああ……」
乾いた、形の良い唇が微かに動いた。この顔、元は女性のものだったのか――。今は中性的ではあるが、完全に中年男性の顔だ。顔は持ち主に馴染むものらしい。
社長らしからぬ、ゆっくりした動作で立ち上がる。
そして、俺の顔をじっと見てこう言った。
「君は、わたしを許してくれるか」
「許すもなにも――社長は悪くないじゃないですか」
そう言ってから、ふと不安になった。
俺にはこの人が真実を言っている確証がない。
俺を――トモくんさんも、嵌められている可能性はないか? そこまででなかったとしても、利用されているのではないか。
「どうしたの? 行くの? 行かないの?」
トモくんさんが、玄関のドアに手を掛けて、俺たちに声をかける。
「今行きます」
社長を怪しんでいることがバレないように、できるだけ自然に答えた。
夏と秋の間の夜道は、幻想的というよりホラー映画に近い雰囲気を醸していた。
今にも、暗闇からナイフを持った殺人鬼が飛び出してきそうだ。
丁度良い。この雰囲気にピッタリのことを聞いてやる。
「社長は、植物学者Aさんは死んで、助手さんが復讐をしていると思っているんですよね? 顔を奪われた側の人間は実際どうなるんですか? 植物学者Aさんにしたって、死ぬ瞬間を見た訳でもないでしょう」
社長が――トモくんさんも、一瞬黙った。
「……確かに、わたしは植物学者Aが死んだのを確認していない。助手に関しては、のっぺら顔のまま、生き続けている可能性が高い」
やっと話し出した社長の口は重い。
「だからこそ――ああやって、録音した音源でわたしをおびき寄せたのだと思う」
なるほど、直接話もできないし、人前にも出られない状態というわけか。でも、それなら――
「声を出せないのなら、俺が聞き分けることもできないですよ」
「だから、この場所なんだ。この場所では異能が増強する」
なんてことだ――話が違う。
異能を取り除いてもらえると思って社長に協力したのに。
でも、心のどこかではワクワクする気持ちを押さえられないでいた。
虐げられてきた俺たちが、この世界を支配する――。
だっておかしいじゃないか、持たざる者が人数だけで圧倒する世界なんて。
待っていろ。
俺たち異能が世界の常識になってやる。




