鳥に会う
ガソリンでもかぶっていたのかと疑うほど、炎は男の身体を包み、勢いを増した。
それとも、発火しやすい性質の服でも着ていたのか?
夏用の薄手のジャンパーを羽織っていただけのように見えたが。
そういえば、確か胸元に『オシドリラボ』とかプリントされていたっけ。
どうしたら良いんだ。
わたしは顔を奪う以外、無能の異能だ。
その時のわたしの行動は、蔑まれて当然のものだ。
そのまま踵を返して、見なかったことを決め込むことにしたのだ――。
鳥を探さなければという気持ちは、急速に冷え上がっていた。
この場を立ち去らなければ、という焦りが腹の底から身体中に広がっていた。
汗がダラダラ出て、皮膚を伝った。
暑いのは、炎のせいだけじゃない。わたしは卑怯者だ。もう、トモくんに合わせる顔がない。
気が付くと林を出ていた。
背後で爆発音がして、身震いしたが、振り返ることはできなかった。
なぜか、あの植物学者Aが爆発するという、グロテスクな映像が脳裏に浮かんだからだ。
火の届かない場所まで来て、ようやく林の方へ顔を向けることができた。
その時だ。煙の向こうに、鳥が見えた――。
緑色の翼。光の角度によって色を変えるスフェーンの鳥、別名ビリオンバード。
空高くから舞い降りると信じていたその鳥は、すっとそこに立ちすくんでいた。ツルのような優雅な立ち姿だ。
「あ……」
感嘆の吐息を漏らし、縋るような気持ちで半歩近づいて、硬直した。
鳥がわたしを射るような目で見ていた。
金色の瞳――。離れていてもわかるのはどうしたことか。
わたしは夢を見ているんだろうか。その視線は、植物学者Aを見殺しにしたわたしの心を深く抉った。
「もう……願いは叶えてくれないの……」
少年時代に戻ったような声を出していた。
鳥は微動だにしないまま、その影はゆっくりと薄くなる。
ああ、消えてしまう。
わたしの願いが、わたしの希望が、わたしの――
「やっくん!!」
遠くから懐かしい声がした。わたしは死んだのかな?
まだ、逃げ出したつもりの林にいて、幻覚を見ているのかもしれない。
「やっくん!!」
その声はどんどん近づいてくる。
ああ、トモくんだ――。
わたしのたった一人の友人、トモくん。
彼の声が確かにわたしを呼んでいる。
踏みとどまらないと、この世界に。彼のためにも。
そう心に誓った瞬間だった。
「シネ!!」
トモくんの背後から、突然見知らぬ女がナイフを持って飛び掛かって来た。
このナイフ――さっき植物学者Aが持っていたのと似てる……。
そう思った時には、異能を発動させていた。




