林の中
「そういうことになるな。彼らはオシドリなんだ。そして、わたしたちと同じく、異能を喰う鳥、ビリオンバードを狙っていたのだと思う」
流石のトモくんも前のめりになった。
「僕の会った、あの助手さんがオシドリ? ああ……でもそう言われてみると、飛ぶように夜道を進んでいたな……」
「それで、彼――オシドリの片割れの植物学者Aと林に入った後のことだ――」
*
「おい、お前。それ以上は中に入るな」
植物学者Aの声が、水中で聞くようにくぐもって聞こえた。
それがこの不思議な火事のせいなのか、わたしの心が既にビリオンバードの領域に入ってしまったのか、判別がつかなかった。
なんだ、この鳥たちは……。無数の鳥が、わたしの行く手を阻むように、低い木の枝の間を飛びまわっている。
この子たちも早く逃げなければ、焼け死んでしまうぞ。
そして、わたしは見た。少し先の枝に、それが止まっているのを。
ビリオンバードだ――。
間違えようがない。
佇んでいるだけで人間より大きい。翼を広げたら恐竜のような巨鳥だ。スフェーンのように色を変える緑の炎に包まれている。煙も凄いことになっているが、それすらも超えて伝わる透き通った緑色だ。
わたしは間違えていなかった。この場所こそ、わたしの求めていた鳥の住む場所だ――。
「おい、お前――。もしかして、まだ気が付いていないのか?」
真後ろに植物学者Aがいた。この近さになって、やっと気が付いた。こいつ――獣の匂いがする。
「何を……?」
「それならいい……。悪いがここで死んでくれ」
そう言って、緑色に光るサバイバルナイフのようなものを振り上げた。
反射的に半歩引いた瞬間、木の根か何かにつまずいて尻もちをついた。
わたしの間抜けさが幸いして、男の刃はかすりもせずに宙を切った。
「何をするんだ……」
そう言いながらも、植物学者Aの顔を奪う体勢に入る。
物の数秒で事足りる――。
「うっ……」
男が小さく声を発して、顔を押さえた。それでも、サバイバルナイフは離さない。そんなに大切なものなのか。
この程度の衝撃で済んでいるのは、彼が異能という証拠だ。
普通の人間なら、それこそ傷口から手を入れられて掻き混ぜられたかのような声を上げる。
この男に襲われる理由に皆目見当がつかないが、自業自得ということで、許してほしい。
「おい、ちょっと……嘘だろ」
なんと男が、ふらふらと火の燃え盛る林の奥へと入っていく。
わたしは顔を奪いたいだけだ――。会ったばかりの人間に死んでほしいなんて思っていない。
待て――。
こいつ、わたしを殺すのをあきらめていないのか。
顔が渦を巻き、視界も定かでない今、わたしをナイフで刺し殺すのは難しい。だから、わたしが完全に顔を奪い取る前に、自分が死のうというのか。
そのために、自ら火に飛び込むのか――。そうしたら、わたしの顔も、この中途半端な状態で固定されてしまう。
「待て……お前も異能だろ? どんな事情なんだ。これは勘違いだ。わたしはお前と争いたいなんて思っていない。わたしが鳥を独り占めするとでも思っているのか? そんなことしない。戻って来い、協力しよう」
立ち上がり、口を袖で覆いながら、早口で話しかけた。
緑の炎の性質についてはわからないままだが、木がバチバチと音を立てて燃えている。果たして男の耳に、わたしの声は届いただろうか。
駄目だ、のっぺら顔の能力を解こう。
このまま男が死んだら、どうなるか想像もつかない。
顔を奪い損ねた経験がないのだから。
男の身体に火がついたのは、その時だった。




