6話 思惑
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
「外れ……ですか?」
意識の無い少女達に回復魔法を施しながらメイは呟くようにそう言った。それを聞いたシンは振り返る事なく今回の事件の一連の犯人ーー石田祐樹の身体を持ち上げる。
「……あぁ。やっぱりそんな簡単に見つかるはずないな。メイの言う通りあの貴族に取りいって何か情報を集めた方が良さそうだ」
石田祐樹を見ると、意識はかろうじて残っているようだったが、身体は動かせないでいるようだった。
「そうですね。ですがいきなり異世界人に遭遇したのはただの偶然でしょうか?」
「……どうだろうな」
二人は誰も人がいないことを確認して大通りに出る。
「さて、大事にならない内にここから撤退しましょう。彼女達を運びたいので魔道具を貸していただけますか?主様?」
「あぁ、」
シンは自分の持つ異空間収納ボックスから一枚の絨毯を取り出す。それに触れ、魔力を流し込むとふわりと宙に浮いた。この魔道具の名は【空飛ぶ絨毯】。
市場に出回っているごく普通の魔道具で、注入する魔力の量が多ければ多いほど飛距離が長くなるという性質を持つ。市場で売られている一番大きなサイズは320cm×320cmのサイズで、本来は人ではなく討伐した大型魔獣や家具などを運ぶ用なのだが、今回は運ぶ人数が多いのでこれを使用する。
合計で14人を乗せた空飛ぶ絨毯は悠々と星々が輝く夜空を飛んでいく。大人数が乗っているということもあり、あまり速度はでないが、仕方が無い。
夜は、特に空の上ではかなり冷え込むのであまり長い時間少女達を空の上に拘禁しておくのは気が引けるな、と思ったシンは今度は異空間収納から毛布を取り出した。少女達に大きな布を数枚重ねると、少し少女達は安堵した表情を見せた。それを見てシンとメイも思わず微笑んでしまう。
「……命令の通り外部及び内部における全ての傷を完璧に治癒しました」
メイは律儀にそう報告した。
それを聞いたシンは少し考え込み、ある提案をする。
「私もそれがよろしいかと思います。しかし……」
「あぁ、大丈夫。俺の証言さえあれば、多分」
「承知いたしました。主様」
正座しているメイは夜空の星々を眺めているシンに向かってぺこりと頭を下げる。丁寧すぎるその態度はいつものことながら、それでも二人の間にはどこか緊張感が残っている。
「ふっ、もういいってば」
シンは、仰向けになって未だ固い表情のメイに笑いかけた。それを見たメイも足を崩して、楽な体勢になった。
「ならば、そうさせていただきます。ところで、今日の晩御飯はどうなさいますか?ご主人様?」
「ん〜、そうだな〜じゃあ──」
ふわふわと風に乗って飛んでいくその絨毯は月の光に照らされながらゆっくりと夜空の旅を楽しむように進んでいった。
****
時刻はちょうど20時を回った所。街灯も消え、本来なら冒険者ギルドを閉まっている時間だが今日に限ってはまだ明かりがついていた。そして、扉を開けて中に入るとそこにはギルドマスターのアグナス爺と、鉄の鎧を見に纏った憲兵数人が待ち構えていた。
「こらぁぁぁ!!シン!!」
飛んできてたのはアグナス爺の怒りの鉄拳。シンの頭に激突し、ドゴッと鈍い音がした。シンは頭を抱え、涙目になり、「す、すまん…」と一言謝った。
「すまんじゃないだろ!!バカもん!少しは説明を──」
「……ギルマス。それよりも」
アグナス爺の説教が始まろうした所で、メイが割って入る。そしてギルマスや憲兵達の前にこの一連の事件の被害者と加害者を差し出す。その瞬間、ギルド内がざわめき出した。残業していた受付嬢達もわらわらと集まってくる。
「な、なな!これは!一体どういう!?」
「ま!まさか!シン君!」
シンに依頼を見繕った受付嬢のアリーが前に出てくる。すると、唖然とした表情を見せた。
「あぁ、善は急げだと思ってな。エレンを拐おうとした犯人とそして他の被害者を保護してきた」
数秒の間、部屋に沈黙が流れる。
「「「はぁぁぁ!?!?」」」
受付嬢、憲兵を含め皆んながみんな同じ反応を見せた。そりゃ、何の説明も無しに飛び出して帰ってきたらこれじゃ、驚くか。
「ど!どうやって!?い、いや!今はそんなことどうだっていい。アリー!セリーナ!二人は少女達の身元の特定だ!行方不明者と照らし合わせろ!憲兵達はすぐにこの男を拘束してくれ!」
その場にいた受付嬢に大声で指示を出す。
一気にギルド内が騒がしくなり始めた。俺が知らなかっただけで、実はこの事件はかなり問題視されていたのかもしれない。となると、俺はかなり大手柄なのでは?
犯人の石田祐樹の持つ特殊能力は不可視化。俺じゃなかったら見つけられなかったかもしれないし、被害も増えていったかもしれない。早めに動いて正解だったな。
「はぁ〜〜…」
そういえば運動したのはかなり久しぶりかもしれない。ずっと本を漁っていたせいでかなり運動不足だ。今日一日でどっと疲労が溜まった気がする。
「……しょっ」
シンがぐでぇ〜っと座る席の隣の席にちょこんとメイが座る。シンの働きを労うかのようにメイはシンの頭を撫でる。白く小さな手がサラサラの黒髪をまるで小動物を愛でるかのように優しく、丁寧に撫でていく。
「ご主人様の割には頑張りました。感心です」
「なんだよそれ……煽ってんの?」
「いえ、久しぶりにご主人様が戦っている姿を見れて純粋に嬉しかったのです」
(それにしても……思わぬ発見だった。異世界人とこんなにも早く接近できるなんて。単純に運が良かったのか、それとも…)
「──おい!離せ!誰だお前ら!」
どうやら石田祐樹の意識が元に戻ったらしい。かなり暴れているみたいだ。
「こ、こいつ!暴れるな!」
「誰か!縄を持ってこい!」
憲兵達も暴れる石田祐樹にかなり苦労しているみたいだった。いくらチート能力が無いとはいえ、異世界人は元々のステータスが高いことが多い。逃げられても面倒だな。
「おいおい、元気だな」
シンは暴れる石田祐樹の耳元へと近づく。
すると、彼はひっ!と情けない声を上げると恐怖で顔が真っ青になった。
「……力が使えない!俺に何をしたんだ!?」
「お前の持っていた力はお前の力じゃない。人の理から外れた力なんだ。だから回収させてらったよ」
周りに聞こえないように静かに囁いた。
「…ど、どういう意味だ!」
さっきから何度も不可視化能力を使おうとしているが、何度叫んでも彼の身体は透明になる事はもう二度と無かった。チート能力を失った今の彼はただの一般人とさほど変わらないだろう。
「あんたなら俺を理解してくれたと思ったのに……」
「同情はするよ。でもそれとこれとは別だ。これからは自分の力で必死に生きろ。一生かけて罪を贖うんだ。そうすればいつかお前の欲しかった答えを手に入れられるかもしれない」
そうして、石田祐樹は抵抗するのを諦めて大人しく連行された。恐らくは死ぬまで労働させられるか、良くても奴隷落ちになるだろう。どれほど彼が後悔し、泣き叫ぶかは分からない。
だけど、せめて元の世界にはいなかった友と呼べる存在を見つけて欲しい。
「……何も気にする必要はありません。あれが彼の運命なのですから」
「分かってるよ。だけど彼の運命に関与した責任は持たなくちゃいけない」
運命ーーそれはどんな些細な事で変わるかも分からない繊細なもの。しかしそれと同時に一本の大木のようにどれだけ年月が経とうと変わらない不変でもある。
シンはほんの少しため息をつくと、腕を組み自嘲的な笑みを浮かべた。
その後、被害を受けた計12人の少女達の事情聴取が始まったが、少女達は事件に関する一切の記憶が失われていた。これはシンがメイにお願いして少女達に施した魔法の影響であるが、憲兵達には黙っておくことにした。
少女達にとっては忘れたい最悪な記憶。消しておいて正解だろう。代わりに俺とメイが知っている限りの情報を話し、事なきを得た。そして少女達はそれぞれ彼女達を待つ家族の元に無事送り届けられた。少女達にとっては数時間振りの再会だが、家族にとっては1ヶ月ぶりの再会。涙無しでは語れない正に感動の再会だ。
「これを見ていると、仕事って悪くないように思えますよね」
「あぁ、悪くないな」
「これから毎日働きたいぐらいですよね」
「あぁ、毎日……ってええぇ!?」
シンの頓狂な叫び声がギルド内に響き渡る。
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