5話 チート能力
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
「お、発見」
「……やりすぎです。少女達を怪我させたらどうするんですか」
屋根が吹き飛び、夜空にキラキラ輝く月と星々が露わになる。支柱も折れてもはや家の原型は留めていないが、器用に人のいる所には瓦礫の破片すらも飛んでいなかった。
「ちゃんと考えてやったさ」
「なら、良かったです」
緊張感の無い二人の会話はその場の雰囲気を和ませるものでは無かった。むしろ逆に圧倒的余裕の態度を見せる二人のその不気味さが、一人の青年を恐怖のどん底に突き落としていた。
「え、な、なん……で」
青年、つまり、異世界人の石田祐樹の顔は真っ青に染まる。彼は彼の天敵に再開してしまったからである。
未知ほど恐ろしいものは無い。自分の力をものさしで測ることができなくなるからだ。不安、恐怖の感情が一気に押し寄せてくる。
「メイ、少女達の救出を。俺はこいつをやる」
「……了解いたしました。主様」
石田祐樹が混乱している間にシンとメイは地上へ降り立っていた。
「お、お前ら!一体どういうつもりだ!」
石田祐樹の額から油汗が地面に溢れ落ちる。顔は引き攣り、脚は震えている。
自分のしてきた所業がついにバレてしまった、という焦りと一撃で家を壊す少年への恐怖からだった。
「えっと……その言葉そっくりそのまま返すよ」
「ひどい臭い……最低ですね」
メイは鼻を抑えて顔を歪ませる。遠くにいても漂ってくる異臭からどれだけ家の中でむごいことが起きていたのかはすぐに分かった。
「くっ!くっそ!スキル!《不可視化》!!」
石田祐樹がそう叫ぶと一瞬にして全身が透明になった。不可視化能力はその名の通り自分の姿が見えなくなるという単純明快なものだか、異世界人の持つチートスキルは汎用性が高い。
普通なら想像もできないような使い方をすることだってできる。だからこそチートスキルのほとんどは初見殺しでもある。
しかし、シン自身はそのことを良く理解していた。
だからこそ、シンは相手に何か行動を起こす隙を与えぬよう石田祐樹との距離を一瞬で詰めた。
シンが地面を蹴った瞬間、周りにつむじ風が巻き起こる。石田祐樹がそれに驚き、瞬きをしたその瞬間、既にシンは文字通り目と鼻の先にいた。
「うわぁっ!」
石田祐樹は情けない声をあげて腰を抜かす。
そして確信した。やはりこいつは普通じゃない。と。
人間離れした動き。殺気。そしてやはり、自分の不可視化能力が効いていない。
「ふざけんなよぉ!どんなチートなんだよぉ!」
さきほどの獣人と同じように石田祐樹は背を向けて無様を晒しながら走り出す。周りがスローモーションになっていくのを感じながら。
****
「早く死ね!くそ豚!」
「まじきしょい!学校来ないでくれない!?」
「え?やめてほしい?なんで?おもろいじゃん」
石田祐樹は元いじめられっ子だった。あちらの世界で自殺してこの世界に転移するまでの中高合わせて5年間。彼はいじめられていた。彼は典型的な根暗だった。
それは自分に自信が無いからだ。周りにいじられるくらい立派に育った大きなお腹。ニキビだらけの顔。誰にも言えない性癖。そして反抗できない臆病さ。
高校3年の夏にエスカレートするいじめに耐えかねて学校の屋上から飛び降りた。
それが彼のできる最大の反抗だった。
「……はえ?」
そして、辿り着いたのは理想の世界。
全くの別世界。
中世風の街並み。見たこともない食べ物や生き物。全てが新鮮でわくわくする環境。
そして、手に入れたチート能力。
漫画やアニメで見た光景を想像して胸が高まる。
そう、ここにはどこにもいじめっ子はいない。自分の悪口や暴力は飛び交わない。
自分は自由なんだ。
最初は容姿や服装が全く変わっていないことに激怒したが、それを差し引いても彼にとってここは天国だった。
チート能力で最高の人生を送ってやる。
彼はそう決めたのだ。
だが、その夢や希望はすぐに崩壊する。
「……え?冒険者?そんなひょろひょろじゃあスライムに溶かされて終わりさ。辞めときな」
「パ、パーティーに入れてほしい?えっと今は…人数は…足りてる…かも…」
「お前みたいな若造に作る剣などありゃせん。帰れ」
──なんだ。異世界もあっちと何も変わらないじゃないか。その青年は絶望した。異世界に来れば自分は最強になれると勘違いしていた。新しい仲間や可愛い恋人ができると思っていた。
そこからは、もう早かった。
たった1ヶ月で10人以上の少女を誘拐した。
不可視化というチート能力で自分の好みの少女を気づかれずに拐うことに成功したのだ。
「俺はやればできるんだよ」
暗闇の中、青年は一人で笑う。自分を嘲笑った同級生達、大人達を思い浮かべながらどこまでも深く汚い欲望を少女達にぶつける。恥辱の限りを尽くし、自分の所有物になる少女を見て楽しんでいた。
それが、彼のこちらの世界での最大の反抗だった。
****
「……ぐっ!」
振り返った石田祐樹は剣を抜き、シンの首向かって突き刺す。スラム街で拾った錆び付いた剣は殺傷能力は低いがそれでも首の薄い肉に刺さるぐらいの貫通力はある。
しかし、残念ながらその剣を振る速度はあまりにも遅すぎた。シンにとっては止まっているように見えたことだろう。
シンはその剣を手刀で真っ二つに折ると、顔面に蹴りを入れ込む。もちろん、殺さないように手加減はしているが、石田祐樹は宙に高く浮き上がり、何回転もしながら地面に落ちた。
「なんっで!なんでだよっ!」
既に不可視化が解けた状態で石田祐樹は怒りのままに叫んだ。鼻は横に折れ、そこから血がダラダラと流れ出る。
「なんでって?なにが」
ゆっくりとシンが近づいてくる。
その表情はあちらの世界やこちらの世界のどのいじめっ子よりも冷淡なものだった。
その目を見て、さらに怒りが込み上げてくる
「なんで!お前みたいないじめっ子が成功して僕みたいないじめられっ子がこんな惨めな思いをしなきゃいけないんだっ!!」
その目には涙が溜まっている。
「みんな俺を容姿でしか見ないんだ!異世界に来ても変わらない!冒険者になろうとしてもこのお腹を見て笑う!パーティーに入ろうとしても僕の顔を見て拒否される!たった一本の剣すらも作ってもらえない!」
シンは黙ってそれを聞いていた。
「みんなして俺をいじめるんだ!こんな惨めな気持ちお前みたいな強くてイケメンの奴には分からないんだろうな!全て上手くいってる奴になんて!」
もはやそれは叫び声になっていた。みっともなく鼻水と涙を垂れ流し、感情任せに今までの気持ちを全て吐き出した。
しかし、心からの叫びは誰にも響かない。
「……それで?罪のない少女を拉致監禁したと?」
シンの表情はぴくりとも動かない。
「少しくらい僕にもご褒美があってもいいだろ!今まで惨めな思いをしてきたんだから!」
「……は?ご褒美?」
「こ、このチートスキルはそのためにあるんだ!僕の実力なんだ!」
心の内を全てを吐き出した男はぜぇぜぇと息を乱しながら、シンを睨みつける。
「違います。それは絶対に違います」
遠くから声がした。少女達を保護したメイが戻ってきたのだ。その表情はどれだけ少女達の状態が悲惨なものだったかを表している。
メイは片手に握った剣をもう一度強く握り直し、剣先を石田祐樹に向ける。
「ふざけるな!何が違うっていうんだ!」
「少女達は何の罪も無い。あなたはただ逃げているだけです」
銀色のショートカットの髪を揺らしながら凛と通る声で力強くそう言った。感情が表情に現れることが少ないメイの瞳には憤怒の炎が宿っている。
「お前、自分を容姿でしか見てくれないと言ったな?じゃあ、聞くが、お前容姿以外で褒められる要素持ってんのか?」
「ふ、ふざけるな!俺は!俺は…」
「結局、自分が一番お前を容姿でしか見て無かったんだな。容姿がダメだから全部ダメだと決めつけたんだ」
「やめろ……」
「容姿を磨くことも怠り、性格を磨くことも怠った」
「やめろ……」
「そんな奴がご褒美を貰える?甘えたこと考えてんじゃねぇぞ。お前はただの犯罪者だ」
「やめろぉぉ!!」
石田祐樹は立ち上がるとシンの顔面目掛けて渾身の拳を放った。その拳のスピードはとても遅い。腰が引けた不恰好なパンチだった。
──しかし、
ドゴッと鈍い音が鳴る。
「!?」
その右拳はシンの右頬をしっかりと捉えていた。
「……なんだよ。できんじゃん」
シンは初めて石田祐樹に笑顔を見せた。
無邪気に笑うその姿はまるでさっきとは別人のただの無垢な少年だと勘違いするほどだった。
「……え?」
「いじめっ子にも自分の力で立ち向かえたじゃねぇか。お前はもういじめられっ子じゃねぇよ」
それは石田祐樹が欲しくてたまらなかった優しく、暖かい言葉だった。
「……だからもう。おしまいにしよう」
シンは静かに目を閉じた。
そしてその瞬間、辺り一帯は神々しい金色の光に包まれた。
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