4話 歪んだ心
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
(しまった!しくじった!しくじった!!)
とある住宅街の暗い路地裏を一人の青年は息を乱しながら全力で走り抜けていた。
彼が身につけているのはこの世界には存在しない服。通称ブレザーと呼ばれる制服である。
そして珍しいのは黒色の髪と瞳。黄色の肌。
この青年、名をキングと自称しているが異世界からの転移者で、本名は石田祐樹という。
石田祐樹は非常に注意深い男である。何事も計画して、決して失敗しないように努めて来た。
しかし、異世界に来てわずかひと月と少し。こんな序盤でつまづくとは思いもしなかった。
「……なんなんだよ!クソッ!」
そう、初めてだ。見つかってしまったのは。
端的に言えば彼は異世界で誘拐をしている。自分より年下の小さな女の子ばかりを狙って。
ロリータ・コンプレックス。よくロリコンと略されるこの異常性癖はこの異世界で彼を犯罪者へと変えた。
彼の元々の内気な性格は異世界に来ては変わらなかったが、所謂チート能力を手に入れたことで思考や行動は大きく変わった。
チート能力とは、別の世界から来た者だけに与えられる特殊な能力のことだ。
彼の場合は『不可視化能力』。自分が直接触れている相手以外の生物の視界から完全に一定時間消えるというものだ。
「だけど……あいつは」
そんな絶対的能力を持つ彼は焦っていた。よもや、この世界に来て自分の能力が通じない相手に出会うとは思っていなかったのだ。
その人物には、昼頃に遭遇した。好みの貴族風の少女を拐おうとした所、その現場を見られたのだ。もちろん、そういう場合はすぐ逃げれば不可視化をしているので問題無いのだが、駆けつけた少年は完全に自分のことを目視していたのだ。
あり得ないことだ。チート能力が通じないなどあってはならないことなのだ。
彼は一軒の家の前で立ち止まると、鍵穴に鍵を差し込み、ガチャリと木製の扉を開ける。
扉を開けた瞬間、ムワッと鼻をつく異臭が飛び込んだ来た。しかし、異常性癖保持者は嬉しそうにニヤリと笑う。
「ぐへへ…だめじゃないか〜」
扉を閉めてろうそくに火を灯す。左右に細かく揺れ動く炎に照らされたのは、合計10人を超える裸の少女達。動けないように手足は縄で縛られ、口には声が出せないように猿轡が付けられている。
床には所々に水溜りができており、これが何かは言う必要はないだろう。
「一日ぼ、僕と会えなくて寂しかったよね?」
ゆっくりと少女達に近づいていく。
もちろん、少女達から返事などない。
「……今日は嫌なことがあったんだ。僕を慰めてよ。ね?」
少女達はもはや顔色一つ変えない。いや、感情を失い、変えることができなくなったという方が正しい。
今日も、始まる。
いつもみたいに屈辱を受ける。
少女達は絶望の中で目を閉じた。
しかし、その絶望は希望へと変わる。
「……!?」
ドンッ!!!!!!と突然の轟音。屋根が真っ二つに割れ、家が一瞬で崩壊する。
一筋の眩い光が差し込んだ。
「お、発見」
「……やりすぎです。少女達を怪我させたらどうするんですか」
それはまさしく希望。
少女達は空に浮かぶ希望の光を見た。
月光に照らされた少年と少女はキラキラと光輝いていて、まるで天使が舞い降りてきたかのように見えたという。
****
──時は二時間前に遡る。
「……てことで、ギリギリ俺が助けに入れたって訳」
シンはギルドマスターだけでなく、エレンの父親にも何が起きたのかを詳しく説明していた。その間、エレンが少し怯えた表情をしていたので、やはり彼女にとってかなり怖い出来事だったのだろう。
しかし、裏を返せばそれでも家に帰りたくないというのだから、家出の理由はかなり複雑で難解な物だということだ。
「本当に…本当にシン殿には感謝の言葉も無い。我が屋敷に帰ったらすぐ褒美を用意させよう」
エレンの父は深々と頭を下げた。マントが微かに揺れてマントに縫い込まれている金糸がキランと光った。
「あはは…それは…ありがたいですけど…」
(でも目立つのは困るよな…)
シンは苦笑いを浮かべた。
「気になるのはその謎の犯人だ。気配を消す魔法やスキルなんて聞いたことがない」
アグナス爺は顔をしかめる。正確には気配を消していたのではなく、存在自体を消していたのだが、ここでその説明は不要だろう。言った所で信じてもらえないことは目に見えている。それに、なぜシンには感知できたのか、なんて突っ込まれたら面倒だ。
「それよりもアグナス爺、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ん?どうした、シン」
シンはいつになく真剣な顔で少し俯きがちに考え込んでから、質問した。
「もしかして、最近人攫いが多くなってるとかそういう類の報告来たりしてない?」
朝に見た大量の人探しの依頼。ここまで人探しの依頼が溜まっているのは珍しい。それに記憶が正しければ失踪している人物には共通点がある。
「え、あ、ああ…。確かに今月に入ってもう何人もの子供が行方不明になっている」
ギルドという組織はいわば便利屋みたいな物で、さまざまな依頼がくる。今話題にしている行方不明者の捜索だって本当は国や自治体の憲兵が務めるべき仕事なのだ。手に負えない、または面倒くさい仕事が回ってくることは珍しくない。
だがその分、飛び交う情報も豊富なので一概に悪いこととは言えないが。
「……行方不明者の共通の特徴は?」
「…そ、そんなことを聞いてどうするんだ…」
「いいから」
「た、確か…行方不明者は少女ばかりだったような…」
そうか、とシンは呟くと徐に立ち上がった。シンの目がキリッと細長くなり獲物を見つけた狩人のような面構えになっていた。その表情には影が落ちている。
「……主様。行くのですか?」
「……あぁ」
それにつられてメイも立ち上がる。
「シン!どこ行くの!?置いてかないでよ!」
「あー、急用だよ。大丈夫。エレンは今日は先に帰っててくれ。明日ちゃんと会いにいくから」
「…やだ」
「…大丈夫。絶対戻ってくる。一人にしないから。な?」
シンはそう言って笑うと、エレンの赤髪をガシガシと雑に撫でた。手慣れてはおらず、雑であるが、それ故に愛が篭っているように感じられた。エレンは頭を押さえ、少し頬を赤らめると「うん…」と一言返事をする。
「アグナス爺。憲兵をここに呼んどいてくれ」
「お、おい!本当に一体どういうことだ!」
****
二つの素早く動く黒い影が屋根伝いに進んでいく。
既に日は沈みかけており、その姿は誰にも目に入らない。
「……主様。見つけたのですか?」
「分からん。だけど、なにか情報は持ってるかもだろ?」
「確かに。それにこのまま放っておくのも危険ですしね」
シンが先行しながら進んでいく先はスラム街だ。スラム街は建物は少なく、あったとしても屋根が無いことが多いので地上に降りて走って進んでいく。
スラム街はかなり入り組んでいる上に治安が悪いので、なるべく素早く迷わず進んでいきたい。
「あー、しまった。ここで途切れてる」
「能力をここで解除したんですね」
二人の目標はエレンを連れ去ろうとした犯人を見つけること。恐らく、ここ最近の少女誘拐事件の犯人も同じ人物だと踏んでいる。
そして、シンの能力でその犯人の痕跡を追ってきたのだが、どうやらここの複雑に入り組んだスラム街の入り口で能力を解除したようで、手がかりが無くなってしまった。
「まあ、当たり前と言えば当たり前だけどな」
「そうですね、でもかなり用心深い人物のようです」
「そのお陰でここまでこれたんだけどな」
キョロキョロと辺りを見渡しながら進んでいく。スラム街では身なりの綺麗な人間などほとんどいない。見つかりでもしたらすぐ襲われると考えていて良いだろう。警戒して進んでいくべきだ。
暫く歩くと建物の影からぬっと二人の獣人が現れた。
灰色の耳にふさふさの尻尾。そして、長い爪。
現れた二人組は牙狼族の獣人だ。
「あんたら、こんな所で何をしているんだ?」
二人のうち背の高い方が睨みを効かせながらそう質問する。
「人を探している。黄色の肌に黒髪の人物だ。見たことあるか?」
シンは素直に答えるが、獣人はにやりと笑う。
「けっけ!あぁ、知ってるぜ。ここでは有名人さ」
「だったら、教えてほしい。今奴はどこだ」
「はっは!それは言えねぇなあ?」
今度は背の小さい方が睨みを効かせてそう答える。ぐるりとシンとメイの周りを周りながら、品定めをするように見つめてくる
「けっけ!にいちゃん!取引だ!」
「……取引?」
バッ!と獣人はメイを指差す。
「情報を教える代わりにそのメイドちゃんを俺達によこしな!」
「大丈夫だぜ?優しくするからよ!はっは!」
シンの顔が一気に暗くなる。分かっていたことだが、こんな所にいる連中との取引なんて成立するわけが無い。
「はぁっ、もういいよ。時間が惜しい」
シンの顔つきがまた一段階変わった。氷のように冷たい目。心臓まで氷漬けにされているような感覚に陥るほどの冷酷な目であった。
獣人達は鳥肌が立ち、全身の毛が逆立つ。獣人の類は危険に対する本能が優れているという。
彼らが今感じているのは生殺与奪の権利を相手に握られているという恐怖だった。それは正に命の危機。自然と獣人達の足は後ろへと運ばれた。
「「…う、うわぁぁ!!」」
死の感覚に触れた二人の獣人は一心不乱に逃げ出す。もはや、獣人としてではなく、獣として。4足歩行で逃げるその姿は滑稽そのものだったが、シンは表情一つ動かさず、落ち着いた声でメイに命令する。
「一人は殺せ。一人は生け捕りだ」
「了解いたしました。主様」
命令を受け取ってから獣人に到達するまで、ほんのコンマ数秒。そして、そのまたコンマ数秒後、ぶしゃりと血の吹き出る音と絶叫が聞こえてきた。
「…た、たすけ」
地面には首の無い死体が一つ。
そして、両足の無い獣が一匹。
シンはそれに向かってゆっくりと歩いていく。そして、目を見て静かに問う。
「知ってる情報を全て吐くか、死ぬか。どっちが良い?」
もはや、選択の余地など与えられていなかった。
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