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3話 公爵家のご令嬢

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

 冒険者ギルドがあるのはこの国【サラリン王国】の心臓部分、つまりは首都である。首都【シュンナ】は商業都市シュンナとも呼ばれており、文字通り商業が発達した都市である。人や物が絶え間なく行き来しており、日中の市場などは特に人や物が溢れかえっている


「本当にここにいるのかよ……」


 シンは気怠気な声でそう言った。


 首都シュンナで最も大きな市場、【シュンナ朝市場】は数多くある市場の中でも人通りや物流の多さは別格である。まだ午前の9時であるというのに、人でごった返している。人混みが嫌いなシンからしたら最悪の場所だ。


「……家出したのは昨夜。お腹が空いてる頃でしょうし、市場を訪れると考えるのが妥当かと」

「うぅ、人に酔いそう……」


 二人は人の波に呑まれるように市場の中へと入っていった。まずは食料店を中心に回っていく。財布は持っているらしいから、どこかで買い物している可能性が高い。


「それより、公爵家の娘が家出なんてかなりの問題なんじゃないのか?」


 公爵家は王家の次に位の高い家だ。自らの領地を治めるだけでなく、王様の相談役としても活躍するエリート中のエリートだ。そんな家を脱走する娘も娘だが、そんな御転婆娘を夜中にまんまと逃し、未だに見つけられずにいる公爵家も公爵家だ。


「確かに少し妙ですね。いくら便利屋な冒険者ギルドと言えどここまでの依頼は中々来ません」

「貴族の娘さんはよほど逃げるのが上手なんだろうな」

「さぁ、それはどうでしょう」


 暫く歩いていると騎士風の者達が忙しなくあちこちを行き来しているのが見えた。鎧の右胸の部分に四つの薔薇が描かれた紋章が付いている。恐らくカッバーディー家に仕える兵士達なのだろう、血眼になって家出少女を探している。だが俺達同様、まだ見つけられないでいるらしい。ちらりと兵士達を見るがそこまで優秀だとは感じなかった。


「まぁ…その方が俺的には嬉しいけど」


 先に見つけられれば、つまりは依頼失敗。せっかくの大金を逃してしまう。


 とりあえずは聞き込み調査だ。いろんな店に回っていかにも貴族風な少女が来なかったか聞いていこう。



「…ん〜貴族のお嬢さんね〜。俺は見てないね」



「そんな子うちの店には来てないよ。それよりさ、どう?一杯どうだい」



「貴族?そんなの店どころか街でも滅多に見かけないよ。一体どうしたんだい」



 結果は惨敗。どうやら家出少女はここら辺には来ていないらしい。


「おかしいですね。少女は食べ物なんて持ってるはずありませんし…」

「まさかもう隣町なんてことは…」

「いえ、それは無いでしょう。通行証がなければ関門を潜れません」


「そうだよな……??」


 シンは何かに気づいたかのように左に視線を向けた。


 じっと見つめたあと、何かを確信したように走り出した。シンは人の少ない脇道に逸れて走っていく。スラム街に近い、暗くて細い路地だ。


 メイも人の波に抗いながらシンの後を追う。


「な!なに!?どうなってるの!?は、離しなさい!誰か!誰か!」


 シンが辿り着いた先にはドレスを着た少女とその少女の手を引っ張る男の姿があった。


「…あれは……」


(…黄色の肌に黒い目と黒い髪…そして見慣れない洋服…)


 シンは腰の剣を抜き、男に全速力で近づいていく。


「何をしてる!!」


 シンが大声で叫ぶ。


 男はしまったという表情を見せると一目散に逃げていった。


「おい……大丈夫か?」


 シンは地面にへたれこむ少女を抱き抱え、優しく問いかけた。上等な布を使ったドレスと彼女が身につけている家紋入りのペンダント。


 この少女こそがシン達が探していた家出少女に違いない。


間一髪で助けることができたが、もし間に合っていなかったらどうなっていたことやら。 


 もう、家出なんてしようとは考えなくなるだろう。


「…あ、ありが…とう…」


 少女は少し顔を赤らめてお礼を言った。


 情報では15歳と聞いていたが、もっと幼く感じられる。安心した少女は緊張の糸が解け、シンの胸の中で泣き崩れてしまった。


 暫くはシンは動けそうにないだろう。


 シンはその間、ずっと少女の頭を撫で続けた。



****



 後に合流したメイに事情を話したシンは一旦、報告をしに冒険者ギルドに戻っていた。もちろん、少女を連れて。


「……て、手!まだ繋いでなさい!」

「え、えぇ…う、うん…」


 なぜか懐かれてしまったシンは困惑しながらも少女の指示に従う。さっきまで号泣していたのに今は貴族の娘らしく傲慢な態度で振る舞っているのだから、貴族というのはしたたかな生き物である。


「なに、その反応。嫌なの?公爵家の娘と手を繋げるのよ?感謝しなさいよね」

「わ、わーい、嬉しい〜」


 どうやら自分は演技が下手らしい、とシンは気づいた。隣を見ると少女がプク顔で頬を膨らませていた。


「ちょ、ちょっと待てシン君…。それは一体どういう状況なのかな…?」


 この依頼をシンに押し付けた張本人ーーギルドマスターのアグナス爺が目を丸くしてシンに問いかける。普段は開いているかすら分からない両目もこの時だけはこれでもかと見開かれていた。


 アグナス爺、これはシンがそう呼んでいるだけで、本当の名前をアグナス・シルホードと言うが、彼は依頼書に書かれている肖像画と目の前にいる少女を見比べる。


 ぶるぶると依頼書を持つ右手が震えていた。


「…どうしたんだよ…アグナス爺」

「や、やはりエレン様ですね…その…どうしてシン君と…その…」


 アグナス爺はひどく混乱していた。


 普通、平民と貴族には身分という大きな壁が存在する。平民にとって貴族とは自分達を支配する恐れ多い高貴なる存在。触れるなんてもっての外、話す機会さえほとんど与えられないのだ。


 それなのに、今目の前の二人は…


「ほら、もっとこうやって指絡めて!」

「どこでこんなの覚えたんだよ…。もういいだろ、流石に疲れた」


「いや、どういう状況!?」


 アグナス爺もまさか今回の依頼でこのような緊急事態が発生するなんて思わなかっただろう。いや、誘拐や殺害などそういった最悪のパターンは想定していたが、まさかあの大貴族の娘がメス顔になって帰ってくるなんて誰が予想していただろうか。


「…えっと…エレン様?お家の事もありますし…それぐらいにしておいた方が…」


 アグナス爺も大体何があったかは報告で聞いた。連れ去られそうになっていた所を間一髪でシンが助けたのだと。だが、それで一瞬にして恋に落ちるなんてどれだけエレンのガードは緩々なのか、と頭を悩ませる結果になった。


「え、なに?私に命令するの?ただの平民のギルドマスター如きが?私に?」


 エレンは年に似合わないドスの聞いた声でそう言った。それはもはや脅しと言って良い物だった。アグナス爺の冷や汗は止まりそうにない。


「おいおい、流石にその言い方はないだろ」

「う、うるさいわね!貴族なんだから別にいいでしょ!」


ガシッとエレンがシンの腕を掴む。


 フフと小悪魔のような笑顔で笑うエレンの目は正に狙った獲物は逃がさない凄腕の狩人(ハンター)のようで、真っ直ぐシンを見つめていた。


 その時、コンコンと部屋の扉が叩かれた。


 返事を待たず、扉が勢いよく開かれる。


「え!お、お父様!?」


 現れたのは背が高く、ガタイの良い男性だった。金の紋様があしらわれたマントを着ており、高価そうな宝石の指輪を付けていることからすぐに貴族だと分かる。この人物がエレンの父親か。


 落ち着いた表情とは裏腹に彼はかなり急いで来たのか、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。


「はぁ…はぁ…エレン…良かった…」


 彼の目に涙が溜まる。エレンは公爵家の一人娘。エレンの態度や性格から見ても日頃から甘やかされているのはすぐに分かる。そんな娘が家出したとなったら、親はどれだけ心配するかは想像に難くない。


「…お父さんか。良かったな。ほら早くお家に帰るんだ」

「……嫌よ」


 シンの腕を掴む力がよりいっそう強くなる。シンと離れたくないという気持ちからだけではなく、何か別の理由で家に帰りたくないのだろう。それが、彼女が家出した理由だ。だけど、シン達が請け負った仕事はあくまで家出した少女を連れ戻すまで。


 どんな理由があって家出したかはシン達には関係の無いことなのだ。


「これで俺の任務は完了だ。お家のことはお家で解決してくれ」


 シンはエレンの腕を振り解こうと自分の腕を引く。

 

 別にシンが特別冷たいというわけでは無いだろう。


 ただ正論をぶつけているだけだ。そもそも貴族の家の事情は外部がどうこう言うことでは無い。


「な!なんでよ!嫌!まだ一緒にいてよ!」

「一緒にいたら問題は解決するのか?」

「そ、それは…」


 エレンは口籠った。


 だんだんとシンの腕を掴む力が弱くなっていく。


「馬鹿な事してないで早く家に帰るぞ、エレン」

「………」


 父の言葉に返事もしないエレンを見てシンは大きなため息をつく。


(はぁ…なんて強情な娘だ)


「分かったよ、降参だ。俺はどうすればいい?」

「…わ、私の専属騎士になって。一生養ってあげるから」

「はあ?それはいくらなんでも…」


 すると、それを側で黙ってみていたメイがスススッとシンの方へ近づき、耳打ちをする。


「…もしかしたら何かに使えるかもしれません。ここは付いていくのがよろしいかと」


 メイはこういう時の勘が鋭い。

 

 ここはメイの指示に従おうと、シンはそれを了承した。もちろん、一生専属騎士になることでは無く、あくまでエレンの家出の原因を取り除くことをだ。


「エレン、それで妥協してくれ」

「まあ…それなら…」

「エレンを救って下さったお礼もしたいです。私も歓迎いたしますよ」


 こうして仮ではあるが、シンとメイは暫くの間、公爵家で働くことに決まったのだった。


ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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