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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第一章 白紙の地図、東京駅3番ホーム

◆ ◆ ◆

┌─ 【手記・DAY 1】

│ 初めて人を斬らずに済んだ。

│ 撃たれた。痛かった。すぐ治った。

│ 白い部屋に閉じ込められている。

│ でも、ガルドを見つけた気がする。

└────────────


挿絵(By みてみん)



最初に僕に話しかけてきたのは、駅員と名乗る制服姿の若い男だった。

「お客様、コスプレでしょうか。剣のようなものは、お持ち込みいただけないんですが──」

コスプレ、という言葉の意味が分からなかった。

だが、相手の口調が攻撃的ではないことは分かる。僕は丁寧に頭を下げた。これは元の世界でも変わらない、僕なりの礼儀だ。誰だって、頭を下げられて悪い気はしない。

「すまない。土地に不案内なものでな。少し、道を尋ねたい」

駅員はぽかんと口を開けたあと、なぜか少し笑った。

「お役者さんですか? いい役作りですね。あ、剣はカバンに入れてもらえますか」

カバンとは何だろう、と思った。だがそれを聞き返す前に、僕は素直に剣を腰から外そうとして──

そのとき、悲鳴が上がった。


駅構内の、明かりの強い店。あとで「コンビニ」と呼ぶことを知る、あの店だ。

そこから男が二人、転がるように飛び出してきた。

一人は黒い覆面をかぶり、手には見たことのない形の短い筒を握っていた。もう一人は両手で札束のようなものを抱えている。盗み、だと一目で分かった。元の世界でも、盗賊の動きはあれと似ている。違うのは、彼らが背負っているものの軽さだ。これは、命を懸けた強奪じゃない。もっと、軽い。日常の延長で、誰かのものを奪っている。

僕の中で、何かが反応した。

「どけっ! 撃つぞ!」

男が叫び、筒の先を、僕に向けた。

乾いた破裂音が響いた。

僕の右肩を、何かが掠めた。痛みより先に、違和感が来る。

──速い。

矢よりも、魔法弾よりも、ずっと速い。だが、見えないわけじゃない。

僕は反射的に剣を抜いていた。

細身の片刃が、駅の照明を一度だけ反射する。

二発目。三発目。四発目。

すべて、剣の腹で叩き落とした。

火花が散る。乗客の悲鳴が遠くで聞こえる。覆面の男は、自分の銃と、地面に転がる弾丸を交互に見て、それから、初めて僕の顔を見た。

「な──」

僕は、男との距離を一歩で詰めた。

斬らない、と決めた。

この男はまだ、誰も殺していない。だったら、僕も殺さない。それが、僕の中で決めている、勇者としての一線だった。

剣の峰で、男の手首を打つ。銃が地面に落ちる。

もう一人の男は札束を抱えたまま、尻もちをついて震えていた。

「すまないが」僕は、できるだけ静かな声で言った。「人に向けて武器を抜くものではないよ」

駅構内が、しん、と静まり返った。

数秒後、ようやく我に返った乗客の誰かが、震える指で携帯電話を構え、こちらに向けた。

あれが何なのか、僕はまだ知らない。

僕の顔が、世界に向けて配信されていることを、僕はまだ知らない。


そのあとのことは、うまく説明できる気がしない。

青い服を着た、武装した男たちが大勢やってきた。彼らは僕と犯人の両方に「動くな」と叫び、両方に銃口を向けた。

──両方に。

そこで、僕は初めて、嫌な予感がした。

助けた側と、奪った側を、彼らは区別しない。少なくとも、今この瞬間は、区別する余裕がない。

僕は剣を鞘に納め、両手をゆっくりと上げた。仲間を探すために、騒ぎを大きくするのは得策ではない。今は従う。話は、あとでもできる。

だが、青服の一人が叫んだ。

「剣を捨てろ! 今すぐ!」

「これは、僕の相棒だ」

「捨てろ!」

僕は、内心で溜息をついた。

仕方なく、剣を腰から外し、ゆっくりと地面に置こうとして──そのとき、興奮した別の青服の指が、引き金にかかったのが、視界の端で見えた。

──ああ。

乾いた音が、二発。

僕の胸に、二つの穴が開いた。


「あ」

撃った青服が、自分の銃を見つめて、小さく呟いた。

僕は膝をついた。

痛い。

ちゃんと、痛い。

でも、それだけだ。僕にとって、胸を撃たれることは、転んで膝を擦りむくのと、本質的には変わらない。

不死。

それが、僕に与えられた、ただひとつの、最も呪わしい祝福だった。

傷口が、皮膚の下で、ぐじゅり、と音を立てて閉じていく。穴を埋めるように、肉が盛り上がってくる感触。何度経験しても、これだけは慣れない。

青服たちが、悲鳴を上げた。

僕を撃った男も、悲鳴を上げていた。

──ああ、そうか。

僕は、ようやく理解した。

この世界の人間にとって、僕の体は、見てはいけないものなのだ。

僕はゆっくりと立ち上がり、自分を撃った男の顔を見た。

男は、まだ二十代の前半に見えた。

怯えていた。

僕は、何も言わなかった。ただ、剣を地面に置き、両手を上げ直しただけだった。

彼の指が、もう一度引き金にかからないことだけを、祈りながら。


連れて行かれたのは、白い壁の、窓のない部屋だった。

手首には、見たことのない金属の輪が嵌められている。鋼のように見えるが、僕の力ならば造作もなく引きちぎれる。だが、引きちぎらなかった。今ここで暴れる意味がない。

壁の高いところに、四角い光る板が嵌め込まれていた。そこに、見たことのない文字と、見たことのある映像が映っている。

──僕自身の姿が、映っていた。

駅構内で剣を振るう、僕。撃たれて、立ち上がる、僕。

複数の角度から、繰り返し、繰り返し。

そして、その映像の隅に、別の文字が、流れるように現れては消えていく。

──速報 新宿で身長三メートル超の人物 暴れる──

僕は、その文字を、三度読み返した。

身長三メートル超。

新宿、というのがどこかは分からない。だが──。

身長三メートル超の人間なんて、世界に、僕の知る限り、ひとりしかいない。

僕の口元が、久しぶりに、ほんの少しだけ緩んだ。

「──ガルド」

巨人ガルド。

パーティーのタンク役。四メートルの盾を背負う、酒好きの大男。仲間想いで、戦闘になると豹変する、僕の親友。

生きている。

生きていて、たぶん、暴れている。

……いや、これは、暴れているんじゃない。

僕と同じだ。彼もきっと、誰かを助けようとして、誰かに銃を向けられているんだ。

白紙だった僕の地図の上に、二つ目の赤い点が、灯る気配がした。

僕は、手首の金属の輪を、もう一度だけ見下ろした。

──悪いけど。

仲間が、待っているから。

◆ ◆ ◆

── 第一章 了 ──

次章「巨人、新宿に立つ」へ続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。

レインの最初の一日、楽しんでいただけたら嬉しいです。

続きが気になると思っていただけましたら、いいねや感想をいただけると励みになります。

次回もお楽しみに。

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