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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第一章 恋と魔法と始まりの日々
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7 憧れの先輩

 ふわりが部活見学から帰ってきたその日の夜、晩御飯の席で嬉しそうなふわりを見て、蓮介はニコリと笑って尋ねた。


「ふわり、何かいいことあった?」

「うん! テツ君と一緒に部活見学してきたの。声楽部と演劇部と美術部に行ってきてね、テツ君のことがもっと知れて嬉しかったんだ。それから……魔法のことも、テツ君のお陰で少し好きになれたの」

「そうなんだ、良かったね」


 蓮介が微笑む隣で、父が「それで」と口を開く。


「入る部活は決めたのか?」

「うん。テツ君と一緒に美術部に入ることにしたんだ」


 その答えを聞き、家族全員が目を丸くする。


「ふわり、あなた絵を描くのは苦手じゃなかったの?」

「う……でも、今日描いた絵は、テツ君に何を描いたのか伝わったもん」


 ふわりがむっとした表情で言うのを見て、家族全員が心の中で「さすが、テツ君……」と口を揃えた。

 家族が何を考えているのか予測できたふわりは、頬を膨らませて続ける。


「これから練習して、私も絵が上手くなるんだから」

「うん、応援してるわよ」


 母はクスリと笑いながらそう言うと、蓮介の方を見た。


「蓮介も、明日から大学が始まるのよね」

「ああ、うん。まあ、俺はもう殆ど単位とっちゃったから、メインは部活だけどね」

「れんにい、部活出てるなんて余裕だね。就活はしないの?」

「うん。卒業したらうちのカフェを手伝うって、もう決めてるから」


 そう答えてニコリと笑う蓮介を見て、ふわりは「ふーん」と呟く。

 その時、蓮介のパーカーに入ったスマホが震えた。


「あっ、メールだ。ごめん、確認させて」


 蓮介はそう断りを入れて、スマホを確認する。しばらくスマホを操作して、やがて嬉しそうに笑った。


「新入生がうちの部活を見学したいって。明日来てくれるみたい」

「へー。れんにいのとこのバドミントン部に?」

「うん」

「どんな子か楽しみだね」


 ふわりはそう言って微笑む。


「うん、そうだね」


 蓮介はわくわくとした顔で頷いて、スマホをパーカーにしまい、食事に戻った。


* * *


 翌日の夕方、5限目までの講義が終わった後、蓮介も部活の準備を始めた。

 蓮介がバドミントンのネットを張っていると、後輩の男子部員がシャトルの入った筒を持って走ってきた。


「蓮介先輩、お疲れ様です」

「ああ、和田君。お疲れ」

「今日って、新入生の子が見学に来るんでしたっけ?」

「うん。そうみたい」

「楽しみですね。どんな子かな?」


 蓮介はネットを張り終えると、和田にニコリと笑う。


「バドが好きってことは、きっといい子だよ」

「ふふっ、そう言っちゃうあたり、先輩はバドミントン馬鹿ですね。さすがです」

「そんな大したものじゃないよ。インターハイには出たけど、結果は残せなかったし……それも昔の話だしね」


 蓮介はそう言って笑うと、体育館の脇に置いたケースからラケットを取り出した。


「まだみんな来てないし、ウォーミングアップしたら軽く打って待とうよ」

「そうですね」


 和田は頷くと、荷物を置いてウォーミングアップを始めた。


* * *


 花妻大学体育館前の廊下がざわめいている。部活の準備をした学生達は、廊下を歩く一人の女子学生を怯えた目で見ていた。


「何あの派手な子……」

「かんざしに虎のスカジャン、髪には赤メッシュ……後ろに背負ってるの何? 武器?」

「もしかして、お嬢……?」


 その女子学生は、周囲の反応には臆せずにスタスタと歩く。彼女が向かう先は、バドミントン部が練習する第一体育館だった。


* * *


 部員が続々と揃う中、蓮介は和田とクリアの練習をしていた。高く、コートの端まで飛ばす打ち方と、鋭くコートの奥に押し込むような打ち方を不規則に打ち合う。今日は調子がいいようで、蓮介は軽々とラケットを振っていた。

 蓮介が練習に集中していると、後輩の男子学生が慌てて蓮介に駆け寄って来た。


「れ、蓮介先輩! 助けてください!」


 その声を聞き、蓮介はラケットでシャトルを受け止めて彼に尋ねる。


「湯原君、どうかしたの?」

「お、お嬢がバド部にカチコミに……!」

「え?」


 蓮介は湯原が何を言っているか分からず、首を傾げた。


「どういうこと……?」

「だ、だから、なんか怖い女子がうちの練習場所に来てるみたいで!!」


 蓮介は不思議そうな顔をしながら、体育館の入り口を見た。

 すると丁度ドアが開き……牡丹の飾りがついた派手なかんざしで髪をまとめ、全面に蓮の花が描かれたスカジャンに身を包んだ柄の悪い女子学生が、ラケットケースを背負って入って来たのだ。

 左サイドの横髪には鮮やかな赤メッシュ、そしてメイクも赤いリップが映えていて、なんというか、すごく目立つ。

 そういった派手な姿は、たしかに湯原の言う通り、その筋の者にも見えた。蓮介の顔から血の気が引いた。

 他の部員達も、青ざめた顔で蓮介の陰に隠れる。


「ヤクザのお嬢だ!」

「こ、こっち来る!」

「殺られる……!」

「蓮介先輩、何とかして下さい!」


 蓮介は怯えた部員達と、こちらに迫るスカジャンの女子学生を交互に見て混乱した。


(な、何とかって言われても……!)


 蓮介達が怯えている間にも、女子学生はこちらに歩いてくる。蓮介は咄嗟にラケットを彼女の方に突き出した。


(もう、魔法でみんなを守るしか……って、普通の人に魔法使ったらダメだろ、俺!)


 そう思い直し、蓮介は首をブンブンと横に振る。それを見た女子学生は、蓮介の前まで来て首を傾げた。


「何してるんですか?」

「あっ、あの……お願いだから、暴力はナシで!」

「え? 何か誤解してません?」


 女子学生は背中からラケットケースを取り、蓮介に見せる。


「私、バドミントン部を見学しに来たんです。昨日メールした、文学部1年の八坂芽生です」

「部活、見学……じゃあ、カチコミとかじゃなく……」

「そんな物騒なことしません」


 芽生の答えを聞き、蓮介は胸をなで下ろした。


「ああ……そっか、ごめんね。みんな、この子怖い子じゃないから大丈夫だよ」


 蓮介が後ろに声を掛けると、部員達は恐る恐る芽生の方を見た。芽生はそれに対してラケットケースを見せて頷く。


「凶器になるのはラケットだけです。なので安心して下さい」

「ラケットも凶器にしないでね……」


 蓮介は芽生に苦笑いした後、部員達の方を見た。


「見学の子も来てくれたことだし、練習始めよう」

「は、はい……!」


 部員達は慌てて頷いて、それぞれラケットを取りに戻っていく。その中で、蓮介は芽生に微笑みながら尋ねた。


「ラケット持ってきてるってことは、今日は練習にも参加するつもりで来てくれたの?」

「ええ。先輩方が大丈夫なら、ぜひ」


 真剣な顔で頷く芽生を見て、蓮介は笑顔で続けた。


「この後、基礎打ち練習だからさ、俺と打ってくれる? 今日、人数が奇数だから」


 蓮介が尋ねると、芽生は目を輝かせて頷いた。


「はい! ウォーミングアップしてきます」


 芽生は駆け足で体育館脇に行くと、かんざしを外してヘアゴムで髪を一纏めにし、スカジャンを脱いで下に着ていたインターハイのデザインのシャツ姿になった。

 そのシャツを見て、蓮介は目を丸くする。


(インハイの出場経験がある子なのかな……なら、油断せずにいかないとな)


 蓮介は再度念入りにストレッチをし、芽生のウォーミングアップが終わるのを待った。


「……お待たせしました」


 準備の整った芽生が蓮介に声を掛ける。蓮介はそれに頷き、芽生と共に中央のコートに入った。


「お願いします!」


 芽生の力強い声に蓮介も返し、高めのサーブを上げた。

 芽生はそのシャトルに軽いステップで追いつき、素早く奥に返す。蓮介もそれに追いついて、力強くコートの奥に押し込んだ。

 早く鋭い球だったが、芽生は難なくシャトルの下に入ると、蓮介に負けない速さで打ち返す。


(ラインぎりぎり狙えてるし、俺が打ったのにも余裕で追いつけてる。さすがに基礎はバッチリだな)


 しばらく打ち合った後、蓮介はシャトルをラケットで受け止め、ラリーを止めた。


「芽生ちゃん、次はスマッシュ打ってくれる?」

「はい!」


 蓮介は芽生が頷いたのを確認し、シャトルを高めに上げた。


(この子がどの位の球を打ってくるのか、すごく気になる)


 蓮介は芽生の動きを冷静に見ながら、ラケットを構えなおした。

 シャトルが芽生のコートに入る。芽生は高さのある球の下にしっかりと入り込み、ラケットを振り下ろした。

 刹那、パァン!という小気味いい音と共に、シャトルが蓮介のコートに鋭く突き刺さった。

 自分のすぐ横に落ちたシャトルを見て、蓮介は目を丸くする。


(すごく、速かった……)

「あっ、すみません! 一発目だし、正面を狙った方が良かったですよね?」


 芽生の焦った声が聞こえて、蓮介は首を横に振った。


「ううん、大丈夫だよ」


 蓮介はラケットでシャトルを拾い、芽生に微笑む。胸の奥が熱くなっていた。蓮介にとって、この感覚は高校3年生の時のインターハイ以来だった。


「本気出していいよ」


 蓮介の言葉を聞き、芽生の目が嬉しそうに輝いた。


「はい!」


 蓮介は再びシャトルを高く上げた。芽生もそれに追いつき、再び力強いスマッシュを打つ。シャトルは蓮介の左側に鋭く迫ったが、先ほどとは異なり、蓮介はそれをしっかりと打ち返す。

 自分のコートに上がってきたシャトルを見て、芽生はワクワクが抑えられなかった。


(ラリー続いてる。やっぱり、佐藤蓮介先輩はすごかったんだ……!)


 2人のラリーを、隣のコートの部員達も目を輝かせて見ていた。


「あの蓮介先輩と同じレベルでやりあってる……」

「あんなに楽しそうな顔の蓮介先輩、久しぶりに見たかも」


 その後、基礎打ちの時間が終わるまで、様々な種類の打ち合いに変えつつも、蓮介と芽生は激しいラリーを繰り広げていた。


* * *


 基礎打ちが終わり、休憩時間に入った。蓮介はタオルで汗を拭きながら、隣でスポーツドリンクを飲む芽生に微笑む。


「芽生ちゃん、すごい上手かったね」

「そうですか?」

「うん。俺、久しぶりにあんなに動かされたよ。昔からバドやってたの?」


 その質問に対して、芽生は気まずそうに目を逸らした。


「あの、引かないで下さいね」

「え? ああ……うん」

「私、中2からバドミントン始めました。きっかけは……友達についていって見に行った6年前のインターハイです」


 芽生はそこまで言うと、蓮介の方を真っ直ぐに見つめた。


「そこで、初風学園1年生の蓮介先輩のプレーを見て……バドミントン、楽しそうだなって思ったんです」


 芽生の言葉を聞き、蓮介は目を丸くした。


「高1の時……俺、たしか1回戦敗退だったような気がするんだけど」

「そうでしたけど、私感動したんです。真剣にシャトルを追いかけて、スマッシュを決めて声を出して……試合が終わった後、悔しそうに泣いてた蓮介先輩に。バドミントンって、そんなに一生懸命になれるスポーツなんだって思いました」

「そんな細かいとこまで見てたんだ……」


 蓮介は照れくさそうに頬をかくと、芽生に向かって笑顔を見せた。


「でも、嬉しいよ。そう言ってもらえてさ」

「引かないでくれるんですか……?」

「引かないよ」


 それを聞いて、芽生は頬を染めて目を伏せる。


「……ありがとうございます」

「いえいえ。ねえ、休憩終わったらゲーム練習するけど、芽生ちゃんも参加する?」

「あ……すみません。今日は家のことを手伝わないといけなくて」


 残念そうに首を横に振る芽生を見て、蓮介は笑顔のまま頷いた。


「そっか。じゃあ、もしまた練習に来たくなったらおいで。入部もいつでも歓迎するから」

「ありがとうございます。では、失礼します」


 芽生は蓮介にお辞儀をした後、スカジャンを羽織り、他の部員達にも挨拶をして体育館を出ていった。

 彼女の背中で吠えているスカジャンの虎を見て、蓮介は苦笑いする。


(バドが好きな、真っ直ぐでいい子なのには違いないんだけど、格好が怖いんだよな……)


 ふと足元を見ると、体育館の床に何か光るものが落ちていた。


(これ、芽生ちゃんのかんざしだよね?)


 蓮介はそれを拾い、迷った挙句とりあえず鞄にしまった。


(多分また来てくれるだろうし、その時に返そうかな)


 そう思った途端、休憩終了のタイマーが鳴った。


「先輩、ゲーム練習しましょう!」


 和田が蓮介に声を掛ける。蓮介はそれに返事をして、仲間達の元に向かった。


* * *


 部活見学からの帰り道、芽生は誰もいない赤信号で立ち止まり、その場にしゃがみ込んだ。


「あ~……」


 芽生は熱くなった頬を両手で覆い、呟く。


「蓮介先輩って、あんなに優しい人だったんだ……」


 そう思っているうちに信号が青になる。芽生はそれに気が付いて慌てて立ち上がった。

 横断歩道を渡り、向こう側に着いた後、芽生は再び立ち止って溜息を吐く。


「変なこと、言ったりしたりしてないよね……?」


 胸に手を当てると、普段より早い鼓動が伝わってきた。

 この気持ちは、ずっと憧れていた人に会った興奮から来てるんだと、芽生は思う。


「また一緒に、バドミントンしたいな」


 芽生は少し赤い顔で微笑みながら、ラケットケースを背負い直して、母と弟の待つ家に向かって歩き出した。

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