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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第一章 恋と魔法と始まりの日々
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6 幼馴染の再開

 ふわりとテツが部活見学をしていたのと同日に、美世が中等部から所属しているダンス部も多目的ホールで部活見学を行っていた。


「振付の確認始めるよ」


 外部から来た若い女性コーチのカウントに合わせて、美世達はステップを踏み、ターンする。部員は全部で20人程いたが、その中でも美世の華やかさは飛びぬけていた。

 彼女のダンスを見た見学の女子生徒は、隣の友人とこそこそと話をする。


「あの2列目の一番右の子、かっこよくない?」


 すると、友人は小声でそれに答えた。


「知らないの? あの人、安住美世さんっていって、俳優の安住祐一の娘さんだよ」

「えっ、まじ?」

「うん。しかも、お母さんはモデルのキサキだって」

「あー、どうりで華やかなわけだ」


 女子生徒達の声が、微かに美世にも届く。聞こえたのは「安住祐一」の名前と「キサキ」の名前だけだったが、 美世には自分が何を言われているのか察しがついた。


(……別に、気にしないし)


 心の中でそう呟いて、美世はダンスに集中する。


「……はい、そこまで。みんな大体覚えてるみたいだけど、細かいところに個人差があって見栄えがよくないね。手は指の先まで伸ばして、もっとしなやかに。もう1回やるよ」

「はい!」


 美世はリストバンドで汗を拭き、コーチのカウントを待った。

 しかし、コーチのカウントが入る直前、ドアががらりと開いて誰か入って来たのだ。それに気が付き、コーチはドアの方を見る。


「見学の子? その辺りに座って」

「はい」


 聞き覚えのある声で返事が返ってきて、美世は思わず目を見開いた。

 ドアの方を見ると、八坂が見学の生徒達の傍に座るところだった。


(冬紀……! 何でここに?)


 八坂冬紀は美世の視線に気が付き、一瞬目を合わせた後、気まずそうに目を逸らした。


「振付の確認、始めるよ!」


 コーチの声で我に返り、美世はカウントに集中する。

 ステップを踏み、ターンをし、指の先まで伸ばしながら大きく踊る。コーチが求めるダンスを完璧に再現して見せた。

 しかし、内心では冬紀のことが気になって仕方がなかった。


* * *


 安住美世と八坂冬紀は、幼稚園時代から仲が良かった幼なじみだ。家も近所で、2人はよく家族ぐるみで遊んでいた。小学校に上がってからは、2人で公園に行ったり、休み時間にお喋りをすることも多かった。

 小学4年生の夏休み、美世と冬紀はいつものように公園に集まり、ベンチに座っていた。


「美世、これ見て」


 冬紀は鞄から一冊のファッション雑誌を取り出して、メイク特集のページを美世に見せた。


「メイク……?」

「そう。メイクってすごいよね。誰でも可愛くなったりかっこよくなったりできる。魔法みたいだ」

「冬紀、メイクが好きなの?」


 美世が尋ねると、冬紀はニカッと笑って頷いた。


「うん。オレ、メイクでみんなを綺麗にする魔法使いになりたい」


 冬紀の真っ直ぐな笑顔と、堂々と語れる夢があることが、美世にはただ眩しかった。


「……いいな。冬紀の夢」

「ありがと。美世の夢はダンサーだっけ?」


 冬紀に尋ねられ、美世は俯き加減に呟いた。


「……きっと私には無理だよ。パパとママと違って、私は凡人だもん」


 自信なさげに答える美世を見て、冬紀は力強く彼女の手を握った。


「大丈夫。オレ、美世ならなれるって信じてる」

「え……?」


 美世が顔を上げると、目の前で冬紀が真剣な眼差しを向けていた。


「1個、約束させて。オレ、メイクの勉強頑張って、魔法使いになる。そしたら、美世のことも世界で一番可愛くしてみせるから」

「世界で一番……?」

「うん。だから、美世がダンスのステージに立つときは、オレにメイクさせて」

「……でも、ステージに立つことだって、叶うかどうか」


 不安げにそう言う美世に対して、冬紀は睫毛の長い目を細めて優しく微笑む。


「大丈夫。美世の夢が叶うまで、傍にいるから」

「冬紀……」


 美世は心臓が音を立てたのを感じながら、頬を染めて頷いた。


「ありがとう。約束だよ」


 嬉しくて、嬉しくて仕方がなかった。

 大好きな幼なじみが自分の夢を応援してくれることも、傍にいてくれることも。

 美世も、冬紀も、これから先、大人になっても自分達はずっと一緒だと信じて疑わなかった。

 しかし、転機は突如として訪れる。

 2人が小学6年生に上がる年、八坂家の父が病気になり倒れてしまったのだ。

 その結果、八坂家の経済状況は酷く悪化。苦しい生活をせざるを得なくなった八坂家を見て、美世の両親は美世が冬紀に関わることで何か厄介ごとに巻き込まれないかと不安になり、ついに彼女にこう言った。


「美世、冬紀君にはもう関わっちゃダメよ」

「え……? 何で?」


 動揺する美世に向かって、傍らにいた父も言う。


「八坂さんのところ、今お金がなくて大変なんだ。もしかしたら、今後も仲良くしてると、お金のことでトラブルになるかもしれない。パパとママは、美世がトラブルに巻き込まれるのが嫌なんだよ」

「そんな……冬紀はそんなことしないよ……!」


 声を潤ませながら必死に反論する美世を見て、両親は溜息をついた。


「美世、世の中そんなに甘くないのよ」

「そうだ。付き合う人を選ばないと、自分が辛い目に遭うんだぞ。とにかく、もう八坂さんのところとは関わらないでくれ」


 両親の頑なな様子を見て、美世は何も言えずに俯いてしまった。


(冬紀と、もう仲良くしちゃダメなんだ)


 涙が出そうだ。しかし、泣いているところを見られたら何を言われるか分からないと思い、美世は足早に自室に逃げ込んだ。


(……冬紀)


 部屋のドアをバタンと閉め、ベットの上に丸くなる。目を閉じると、幼なじみの笑顔が浮かんだ。

 美世は必死に声を抑えながら、一人で泣きじゃくった。


* * *


 部活が終わり、更衣室で着替えを終えた美世が玄関を出ると、そこには冬紀の姿があった。


「あ……」


 思わず目を丸くする美世を見て、冬紀は頬をかきながら彼女に笑った。


「おつかれ」

「お、おつかれ……」


 固い表情で挨拶を返す美世を見て、八坂は笑顔のまま言葉を続けた。


「小学校卒業して以来だから、もう3年ぶりだね。元気にしてた?」

「う、うん……まあ、私は元気だよ。あんたは?」

「オレも元気だった」


 冬紀がそう答えたきり、2人の間に沈黙が流れる。3年ぶりに会ったせいか、美世も冬紀も何を話せばいいか分からなかった。

 その居心地の悪い沈黙を、美世が破る。


「……なんで冬紀が初風学園にいるの? ここ私立だし、学費だって高いじゃん。冬紀の家だと、厳しいんじゃないの?」


 冬紀は美世の質問を聞き、すぐに口を開いた。


「オレ、美世の家族と美世にもう1回認めて欲しくてこの学園に来たんだ。オレが、美世と一緒にいてもいいってことをさ」


 冬紀の答えを聞き、美世は息をのんだ。

 脳裏に、両親から八坂家と関わることを禁じられたあの日のことが蘇る。


 ——あの日、私はパパとママに逆らえなかった。冬紀は何も悪くないのに。本当は、冬紀と一緒にいたかったのに……。


 罪悪感が込み上げて、胸が苦しくなる。


「……そうなんだ」


 美世は目を伏せながら、小さな声でそう言った。

 そんな美世の辛そうな顔を見ても、冬紀は迷わずに言葉を続ける。


「オレ、入試頑張ってさ、学費減額の特待生枠で入学したんだ。残りの学費は奨学金を借りながらバイトもして工面してる。まだ金銭的に余裕があるとはいえないけど、美世や美世の家族には絶対に迷惑をかけない」

「……言葉だけじゃ、パパとママは認めてくれないよ」

「分かってる。だから、美世と同じこの学園で一緒に過ごして、美世にも、誰にも迷惑をかけないことを証明する」


 八坂の目は本気だった。しかし、美世はまだ、その本気を受け止める勇気が出なかった。


「できないわよ。そんなこと」


 美世は声を震わせながらそう言った。


「そう簡単に、パパとママの意見は変わらないよ」

「……それでも、オレは諦めたくない。美世が信じてくれなくても、オレは美世の家族に認めてもらえるように頑張る。だから、見てて」


 昔から何も変わらない真っ直ぐな幼なじみの様子を見て、美世は鞄を持つ手をぎゅっと握りしめる。


(冬紀は、何も悪くない。冬紀は昔と同じように、私のことを大事にしてくれてる。だけど、私には……冬紀と同じようにする勇気なんてない!)


「冬紀……ごめん。私……あんたとは、一緒にいられない……!」


 美世は唇を噛みしめ、逃げるようにその場から走り去ってしまった。

 その後ろ姿を見て、冬紀は俯く。拒絶されることは覚悟していたし、そう簡単に美世と一緒にいられるとも思っていなかった。しかし、胸がズキリと痛む。


(……難しいのは分かってる。でも、約束したんだ。美世の夢が叶うまで、傍にいるって。だから、そう簡単に諦めたくない)


 冬紀はふうと息を吐いて、自身の帰路を歩き始める。

 鞄につけているクジャクのストラップが、夕日に照らされてキラリと光った。

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