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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第一章 恋と魔法と始まりの日々
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5 部活見学

 月曜日の朝がやってきた。ふわりは教室に入ると、既に席に着いている美世の元に向かう。


「みよちん、おはよ」

「おはよー」


 美世はあくびをしながら挨拶を返すと、ふわりに向かって微笑む。


「今日から部活見学期間だっけ? ふわりは高等部では何か部活に入るの?」

「うーん……実はまだ迷ってるんだよね」


 ふわりは頬をかきながら苦笑いした。


「中等部では人と関わるのが怖くて部活入ってなかったでしょ? 高等部の部活って、中等部から繰り上げの部活が多いからさ、今更入部してもいいのかなって」

「ああ……なるほどね。でも、高等部から初風学園に来た人もいるし、入っちゃダメってことはないんじゃない?」

「うん……それはそうだけど」

「高等部から来た人の知り合いとかいないの? 一緒に見学できるような人とか……」


 美世に尋ねられ、ふわりはすぐにテツの席を見た。テツは席について桂と談笑しており、こちらに気が付く様子はない。


「……テツ君、高等部から初風学園に入学したって言ってた」

「えっ、まじ?」

「うん。入学式に来た時、玄関でそう言ってたはず……」

「それ、チャンスじゃない? 木村のこと誘ってみたら?」


 美世の言葉に、ふわりは顔を赤くしながら首を横に振った。


「2人きりで回るなんて、緊張しちゃうよ……無理……」


 弱気なふわりの様子を見て、美世は溜息を吐きながら背中をバシッと叩く。


「そんなんじゃ、いつまで経っても仲良くなれないでしょ。ほら、行ってきなさい!」

「うう……」


 美世に激励され、ふわりは体を震わせながらテツの席に向かった。すると、テツがふわりに気が付きにこりと笑う。


「佐藤さん、おはよう」

「おっ、おはようございます!」


 ふわりはガチガチになった体で勢いよく頭を下げる。それを見た桂はビクッと身体をすくめた。


「佐藤、どうしちゃったんだよ……」

「あっ、いや、えっと……、テツ君!」


 ふわりはしどろもどろになりながらも、テツのことを真っ直ぐに見つめた。


「一緒に部活見学行きませんか……!」


 テツは目を丸くしてふわりを見ていたが、すぐに笑顔で頷いてくれた。


「うん、いいよ」


 テツの返事を聞き、ふわりは目を輝かせる。


「ほ、ほんとに……?」

「うん。僕もこの学校の部活が気になるし」

「そっか。テツ君は何部が気になるの? 運動部? 文化部?」


 ふわりの質問にテツは一瞬口を閉ざしたが、すぐに笑顔を作って答えた。


「文化部かな。僕、運動部はちょっと……」


 テツの答えを聞き、向かい側に座っていた桂は目を丸くした。


(あれ……テツって、元野球部って言ってなかったっけ……?)


 しかし、ふわりは桂の驚いた顔にもテツの作り笑いにも気づかない。ただテツと一緒に部活見学ができる喜びを噛みしめながら、彼に笑顔で頷いていた。


「分かった。じゃあ、放課後に文化部を一緒に回ろうね! 桂君、お喋りの邪魔してごめんね」

「ああ、いや……別に平気だよ」

「ありがとう。じゃあテツ君、後でね!」

「うん」


 軽い足取りで美世の席に戻っていくふわりに手を振りながら、テツは柔らかく微笑む。そのどこか作り込まれた笑顔と、ふわりの嬉しそうな様子を見て、桂の表情が曇る。


(佐藤は、テツのことが好きなんだな。でも、テツは……何を考えてるんだか、いまいちよく分からない。佐藤の気持ちに気づいてるのかな……)

「桂君、どうかした?」


 テツに声を掛けられて、桂は慌てて表情を取り繕った。


「いや、何でもない」


 桂が答えたその時、丁度チャイムが鳴った。友人とお喋りをしていた生徒達が続々と自分の席に戻っていく。その中に、最前列の美世の席から戻るふわりの姿もあった。

 彼女の緩んだ口元を見た桂の胸に、チクリと痛みが走る。


(……なんで、テツなんだろう)


 そんな黒い感情が、喉の奥まで出かかった。

 教室のドアが開き、泉が入ってくる。


「おはよう。ホームルーム始めるぞ」


 その声を聞きながら、桂は胸を押さえた。


* * *


 帰りのホームルームが終わり、部活見学の時間がやってきた。ふわりは号令係の号令で帰りの挨拶をすると、真っ先にテツの席に向かう。


「テツ君、どこの部活に行く?」


 テツは荷物を鞄に仕舞いながら、宙を見て考え込んだ。


「文化部って言うと、声楽部、演劇部、美術部あたりかな?」

「そうだね。じゃあまずは、声楽部に行こうか」


 テツはそれに頷くと、鞄を持って立ち上がる。


「桂君、また明日ね」

「ああ、うん。またな……」


 桂は制服の下に着たバレー部指定のシャツに着替えながら挨拶を返した。その後、ふわりの方をちらりと見て口を開く。


「佐藤も、また明日な」

「うん。桂君、またね」


 ふわりは笑顔で手を振ると、テツと共に教室を出た。


* * *


 ふわりはテツと共に音楽室にやってきた。教室の中では、生徒達が中年の女性教師の指揮に合わせて歌っている。

 ピアノの軽やかな旋律と、透き通った歌声は耳に優しく心地よいものだった。

 やがて曲が終わり、教師が見学の生徒達に向かってにこりと微笑む。


「声楽部にようこそ。声楽部では、毎週月曜日と水曜日に、こうして部員みんなで楽しく歌っています。見学の皆さんも、一緒に歌ってみましょうか」


 その言葉を聞いた途端、テツの口から固い声が漏れた。


「え」

「テツ君、どうかしたの? 」


 ふわりが小首を傾げると、テツは慌てて笑顔を作り、小声で答えた。


「あっ、いや……歌うって聞いたからびっくりしちゃって」

「じゃあ、みんな知ってる『ふるさと』を歌いましょう」


 教師の指揮に合わせて、伴奏の生徒がピアノを奏で始めた。

 見学の生徒達は、その本格的な指揮と音色に目を輝かせる。

 ふわりも心もちわくわくとしながら、息を吸って最初のフレーズを歌いだした。音楽室の中に、生徒達の歌声が響く。見学の生徒も一緒に歌っているため先ほどの部員達ほど上手くはなかったが、聞いていて明るい気持ちになれるような楽しそうな歌声だった。しかし……。


(……あれ、テツ君の声が聞こえないな)


 ふわりは途中で声を抑えて、隣のテツの歌声に耳を澄ませた。すると、周囲とかなり音程がずれている小さな歌声が聞こえてきた。


(テツ君、歌苦手なんだ……)


 ふわりが目を丸くしてテツを見ていると、それに気が付いたテツが赤い顔で苦笑いを見せた。

 やがて曲が終わり、教師が拍手しながら見学の生徒達に微笑む。


「皆さん、とても上手ですね。もし、もっと歌が歌いたいと思ったら、ぜひ声楽部にいらしてね」


 それに返事をして、ふわりとテツは音楽部を出た。


* * *


 演劇部が練習している部室棟に続く廊下を歩きながら、ふわりはテツに向かって両手を合わせた。


「テツ君、歌苦手だったんだね。声楽部に連れて行ってごめんね」

「ううん。大丈夫だよ。僕の都合で佐藤さんの見学する部活を減らしても申し訳なかったから」


 テツは少し照れくさそうに笑いながら、手首を振る。その優しい態度を見て、ふわりの胸が高鳴った。


(テツ君、本当に優しいな……私だったら、恥ずかしすぎて逃げちゃうかもしれないのに)

「あ、部室ってここかな?」


 テツの声で、ふわりは我に返った。目の前には「演劇部」と書かれた張り紙のついた扉がある。


「うん、多分ここだね」

「行ってみようか」


 テツは部室の扉をガラっと開けた。すると、中にいた生徒達が目を輝かせる。


「おっ、部活見学?」

「今、台本の読み合わせしてるんだ。もし良かったら見ていって」


 生徒達は口々にそう言うと、台本をしっかりと持ちながら台詞の確認に戻っていった。


「君と離れ離れになるなんて耐えられない……。ずっと、僕の傍にいてくれないか?」

「あなたがそう言ってくれるなら……私も、あなたと一緒にいるわ」


 思っていたよりも甘い台詞の応酬に、ふわりは頬を赤らめる。


(もし、テツ君にあんなこと言って貰えたら……)


 ——佐藤さん、僕と一緒にいて。


 頭の中のテツに優しく微笑まれて、ふわりは顔を覆い声にならない声を出した。


(ちょっと……照れちゃうかも……)


 その傍らで、テツは部員達の熱心な様子をぼんやりと眺めていた。


(演技……作り笑いなら、僕もいつもしてきた。だけど、演劇部の人たちは観客を楽しませるためにやってるんだよな。僕とは大違いだ)


 台詞と妄想に照れてしまっているふわりと、真面目に見学しているようなテツの様子を見た部員の男子生徒の一人が、本棚から一冊の台本を取り出し、ふわりとテツに差し出した。


「これ、去年の学内公演の台本なんだけど、もしよかったら2人も台詞演じてみる?」


 その申し出に、ふわりは目を輝かせた。


(もしかしたら、王子様のテツ君が見られるかも……!)

「やります!」


 ふわりの良い返事を聞き、部員は彼女に台本を渡した。

 ふわりはテツに見えるように台本を開くと、ぱらぱらと捲りながら中身を確認する。どうやら、王子と姫のロマンスファンタジーの台本のようだ。


「テツ君、私がお姫様をやるから、テツ君が王子様をやってくれる?」

「ああ、うん。やってみる」


 テツは演劇部員にも見守られる中、台本の台詞を確認した。


 ——君は孤独な僕にとって、たった1つの宝物だ。


 「孤独な僕」の文字に心臓がきゅっと握られる。テツは思わず、唇を噛んだ。


(孤独な僕の、たった1つの宝物……)


 心の中で台詞を反芻する。いつものように笑顔を作って台詞を言えばいいだけなのに、なぜだか口にできない。


(この台詞、演技で言うのは嫌だな……。だって、この台詞の宝物は、僕が本当に欲しいもので……演技にしちゃったら、絶対に手に入らなくなっちゃいそうで)


「テツ君?」


 ふわりに不思議そうな声を掛けられてテツは我に返った。


「あっ、ごめん」


 テツは慌てて穏やかな笑顔を作ると、その作った笑顔のまま、台詞を口に出した。


「君は孤独な僕にとって、たった1つの宝物だ」


 その笑顔と共に発せられた言葉に、ふわりは顔を真っ赤にして口元を覆った。ニヤニヤしただらしない顔を見せたくなかったのだ。


(かっこいい……!)


 そのふわりの様子を見ていた演劇部員も、感心した顔で頷く。


「君、筋がいいかも。表情も柔らかかったし、台詞も詰まらないで言えてるし……演技向いてるかもよ」

「ありがとうございます」


 表面上は笑顔を作りながらも、テツは、内心穏やかではなかった。


(演技は、ずっとしてきたようなものだからな)


 そう思い目を伏せていると、目の前からふわりの明るい声が聞こえた。


「テツ君、本当の王子様みたいだった! 笑顔も、台詞も、本当にかっこよかったよ」


 テツが見ると、ふわりはカフェの時と同じように明るくて優しい笑顔を浮かべていた。その笑顔を見ていると、少し頬が熱くなった。


(佐藤さんに喜んでもらえるなら……この笑顔も、捨てたものじゃないかも)


 そう思ったら、テツの表情が自然と緩んでいた。その嬉しそうな表情に気づいた演劇部員は、にこりと微笑みながらふわりの方を見る。


「次は君が台詞を言う番だよ」

「あっ、はい!」


 ふわりは台本を読み、目を丸くして顔を赤らめる。それを見たテツは首を傾げた。


「佐藤さん?」

「あ、ごめん! ……よし、行きます!」


 ふわりはテツを見つめると、赤い顔で精いっぱいの笑顔を作る。


「私もよ。……あ、愛して、いるわ……」


 その台詞を聞いた後、テツはしばらくぽかんとしていたが、やがてクスリと笑った。


「佐藤さん、顔が真っ赤だよ」


 テツに指摘され、ふわりは慌てて台本で顔を隠した。


「は、恥ずかしくて……」

「ふふっ、でも似合ってた。なんていうか、佐藤さんらしくて」

「私らしい……?」


 ふわりは台本を少しだけ下げて目線だけテツに向ける。すると、テツはそれを見て微笑みながら頷いた。


「一生懸命で素直な感じが佐藤さんらしいなって」

「そ、そっか……」


 ふわりは再び台本で顔を隠すと、「えへへ……」と笑い声を漏らした。

 その笑い声を聞きながら、テツは胸を押さえる。


(佐藤さんが素直に笑ってるの、やっぱりすごく好きだな。……この笑顔だけには、嫌われたくないな)


 2人の様子を微笑ましく見守っていた演劇部員が、咳払いして2人に声を掛ける。


「2人とも、もし今日の見学で興味が出たらぜひ演劇部に来てよ。歓迎するからさ」


 2人はそれに返事をして、演劇部の部室を後にした。


* * *


 2人が最後にやってきたのは美術室だ。部屋のドアを開けると、中央のテーブルで部員2人と顧問の泉がスケッチブックに何か描いていた。


「おっと、部活見学か?」


 泉がふわりとテツに気が付き、笑顔で手招きをする。


「佐藤、木村、こっちにおいで」


 泉に促されるがままに、2人は中央のテーブルの席に座る。部員と泉のスケッチブックを見ると、三者三様の猫のイラストが描いてあった。


「猫だ……!」


 テツが目を輝かせるのを見て、ふわりはクスリと笑う。


(テツ君、猫が好きだもんね)

「佐藤と木村も描いてみるか? 私のスケッチブックを分けてあげるから」

「いいんですか?」

「もちろんだ」


 泉はにこっと微笑んで、自分のスケッチブックから紙を2枚破り、2人に差し出した。


「ありがとうございます」


 ふわりとテツは礼を言って、自分のシャープペンシルで猫を描き始めた。

 熱心に描き進めていくテツの傍らで、ふわりは迷いながら線を引いていく。


(……私、絵はあんまり得意じゃないんだよな)


 やがて描きあがった不格好な猫に苦笑いして、ふわりはペンを置いて隣のテツを見た。

 普段の笑顔とは全く違う、真剣な表情が目に入る。その熱心な横顔に、ふわりは釘付けにされた。


(テツ君って、こんな顔もするんだ)


 そう思いながら、ふわりは今日の部活見学を振り返る。


(テツ君が、歌が下手なのも、演技がかっこいいのも、こんなに真剣な表情になるのも初めて知った。私、まだまだテツ君のことを知らないんだな。……もっと知りたいな)


 泉はふわりの視線に気が付き、優しく微笑む。


(……なるほど。青春してるんだな)


 やがてテツの手の動きが止まり、満足そうな笑顔が浮かんだ。


「……できた」


 テツの声を聞き、ふわり達はテツの紙を覗き込む。するとそこには、上品な白猫の絵が描かれていた。


「テツ君すごい……上手だね」

「そうだな。木村は絵が上手かったんだな」


 ふわりと泉の向かい側に座った部員達も、口々に「上手いね」と感心する。それに照れ笑いしながら、テツはふわりの方を見る。


「佐藤さんは描けた?」

「あ、一応描けたんだけど……笑わないでね?」


 ふわりは顔を赤くしながら、自分の猫の絵をテーブルの中央に置いた。それを見た泉が目を丸くする。


「おお……これは」

「うう……ごめんなさい。まるでモンスターですよね……」


 ふわりが言う通り、その猫は到底猫とは言い難い生き物だった。黒い目は渦巻きのようで、しっぽも足も短い。耳は異様に尖っており、身体には傷跡のような模様があった。まるでハンティングゲームの敵キャラだ。


「うん、独創的でいいんじゃないか? 私は好きだ」


 泉はそう言って微笑む。部員達も、「よく見ると可愛いと思う」など励ましの言葉をかけていた。

 ふわりはその優しさに苦笑いしながら、隣のテツを見る。すると、テツは真剣な顔でその猫の絵を見つめていた。


(何も言ってくれないけど……猫が好きなテツ君的には許せない絵なのかな……)


 そう思って落ち込んでいると、テツはやがて明るい顔でふわりを見た。

 

「佐藤さん、この子、入学式の日にお話ししてた猫だよね?」

「えっ……わ、分かるの?」

「うん。たしかこんな感じの縞模様の猫だったよね」


 テツにそう言われ、ふわりは一生懸命に頷いた。


「そうなの! この子、入学式の日に私がお喋りしてた子……トラって言って、商店街の平和を守ってるって言ってた……」


 そこまで言って、ふわりは慌てて両手で口を覆った。


(喋りすぎちゃった……猫と話してたこと、バレちゃったかも……)


 ふわりの不安は的中したようで、泉が興味津々といった様子でふわりに尋ねて来た。


「佐藤、猫と喋れるのか?」

「えっ、あ、ああ……」


 どうやって誤魔化そうか。ふわりが挙動不審になっていると、隣のテツが笑顔で口を開いた。


「佐藤さん、魔法使いなんです」


 美術室が静まり返る。その沈黙に耐え切れず、ふわりは目をぎゅっとつむった。


(な、何で言っちゃうのテツ君……!)


 ふわりは心の中でテツを責めて、周囲からの反応に怯えた。


(どうしよう、変に思われたら……怖がられたら……)


 しかし、そんなふわりの恐怖とは裏腹に、テツは笑顔で言葉を紡ぐ。


「佐藤さんの魔法、すごく素敵なんです。猫と話せたり、可愛い妖精を出せたり……スイーツを食べた人を笑顔にできるおまじないをかけられたり。佐藤さんは、周りの人を笑顔にできる魔法使いなんですよ」


 テツの言葉を聞いて、ふわりはゆっくりと目を開けて美術部員達を見た。すると、彼女達は目を輝かせて笑っていた。


「魔法使いって、歴史で習った魔導士のこと!?」

「魔法が使えるの? 私も見てみたい!」


 ふわりは戸惑いながら泉の方を見る。すると、泉も優しく微笑んでいた。


「私も見てみたいな」


 周囲の肯定的な反応を見て、ふわりは頬を赤らめた。


(みんなが、私の魔法を受け入れてくれてる……)


 ふわりは隣の席のテツのことをちらりと見た。すると、テツの優しい眼差しがこちらに向けられていた。


(テツ君、私の魔法をそんな風に思っていてくれたんだ。テツ君がそう言ってくれるなら、私は……)


 テツの笑顔に背中を押され、ふわりは思い切って口を開いた。


「じゃあ、皆さんの絵を借りてもいいですか?」


 ふわりは席を立つと、全員の絵をテーブルの中央にまとめて指を振った。

 すると、絵の中の猫達が紙から浮かび上がり、テーブルの上でくつろぎはじめたのだ。


「わあ、絵が飛び出した!」

「可愛い……!」


 笑顔になる部員達を見て、ふわりもつられて微笑む。それを見た泉は、テツにこそりと耳打ちした。


「木村、こうなることが分かってたのか?」

「はい。きっとみんなも、佐藤さんの魔法が好きになってくれるって信じてました」

「そっか……木村と佐藤は、いい友達だな」

「え?」


 聞き返すテツに向かって、泉はニコリと笑って自分の猫を撫でる。それを見て、テツは自分の描いた猫を、飼い猫のヒメと重ねた。


(僕の友達はヒメだけだった。でも、今は……佐藤さんも、僕の友達で……)


 ちらりとふわりを見ると、嬉しそうに微笑んでいる彼女と目が合った。


「テツ君、ありがとう」

「え……?」

「テツ君のお陰で、私の魔法がみんなを笑顔にできたよ」


 ふわりはそう言うと、テツに優しい笑顔を見せた。

 その笑顔がテツの目に焼き付く。カフェで彼女の笑顔を見ていた時のように、もっと彼女の笑顔が見たいと思ってしまう。その眩しくて温かい笑顔に、ずっと照らされていたいと願ってしまう。


(今まで出会った誰の笑顔よりも、佐藤さんの笑顔は安心できる。……佐藤さんと、もっと仲良くなりたい。僕でも、誰かと仲良くなりたいって思える日が来るなんて……)


 テツはその喜びを噛みしめながら、ふわりに柔らかく微笑んだ。


「うん。佐藤さんの魔法は、本当に素敵だよ」


 穏やかに笑いあう2人を、窓の外から黒い鴉が見つめていた。

 鴉はふわりのナデシコの髪飾りを確認すると、バサバサと飛び去って行った。


* * *


 その日の夕方、初風市にある花園公園のベンチの上で、鴉は羽を休めていた。

 キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認した途端、鴉の身体が光り輝き、やがて黒いローブに身を包んだ少女へと姿を変えた。

 少女はベンチから立ち上がり、ローブのフードをばさりと脱ぐ。すると、美しい銀杏色のツインテールが覗いた。


「あのナデシコの髪飾り……間違いありませんね」


 少女の怪しい笑顔が、夕日に照らされた。


「偉大なる魔導士、アリス・スチュワートの血を引く人間……イギリスに、連れ戻させてもらいますよ」


 

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