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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
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53 体育祭③

 大玉転がし、玉入れ、障害物競走……と午後の種目もスムーズに進行され、残すところはクラス対抗リレーと部活対抗リレーだけになった。

 部活対抗リレーは組ごとの得点に組み込まれないため、次のクラス対抗リレーで最終得点が確定する。


「一年生のクラス対抗リレーに参加する生徒は、集合場所に集まって下さい」


 アナウンスが入り、リレーに参加する桂とテツ、そして女子陸上部2人が立ち上がる。


「4人とも頑張れよ!」

「応援してるからね!」


 クラスメイトの声援を受けて、桂とテツは力強く笑う。


「任せとけ」

「絶対、優勝してくるから!」


 やる気十分と言った様子でテツ達は待機場所へ走っていった。第一、第二走者は女子2人で、桂が第三走者、テツがアンカーだ。

 トラック脇に待機するテツを遠い目で見るふわりを見て、美世は彼女の肩をポンポン叩く。


「大丈夫だって。木村、クラスで一番足速かったんでしょ?」

「う、うん」

「きっと、かっこよく一位獲ってくれるよ」

「……そうだね」


 目を伏せながら笑顔を見せるふわりを見て、美世は明るく励ましの声を掛ける。


「そんな暗い顔しないの! 木村のためにも、元気に応援しよ!」


 美世の言葉を聞き、ふわりはハッとした。


(そうだ。テツ君にとって、この体育祭が初風学園最後の思い出になるかもしれないんだ。だったら……少しでも素敵な思い出になるように、精いっぱい応援しなきゃ)


 ふわりは笑顔を作り、頷いた。


「いちについて、よーい……」


 パアン!


 ピストルが鳴り響き、第一走者が走り出した。

 赤組は5人中2位。かなり良い位置につけている。

 次の走者にバトンが渡った。彼女もなかなかの速さだったが、足の速い白組のバスケ部に抜かれてしまう。現在順位は3位だ。

 桂にバトンが渡る。


「隆弘ー! ファイトー!」

「桂、お前なら抜ける!!」

「隆弘君、頑張って!」


 味方の声援に背中を押され、桂は白組を追い抜いた。前を走るのは緑組のみ。残り100メートル。


「テツ!!」


 テツは桂から貰ったバトンをしっかりと掴み、走り出した。

 緑組まで、あと少し。手が届く距離だ。

 残り50メートル。


(負けたくない! 絶対に負けない……!)


 テツが無我夢中で走っていた。その時。


「テツ君! 頑張れー!!」


 ふわりの大きな声が、しっかりと耳に届いた。

 その言葉に、力強く背中を押される。


(ふわりさんのために……僕を受け入れてくれた、みんなのために、絶対に追い抜く!)


 ラストスパート、テツは一気に加速した。

 ゴールテープ前で接戦が繰り広げられる。

 緑組とのゴールは、ほぼ同時だった。


「ど、どっちが勝ったんだ!?」

「ほぼ同時で分からなかったよね?」


 B組のクラスメイトがざわつく。ふわりも、固唾を飲んで結果発表を見守った。


「クラス対抗リレー、一年生。第1位……赤組!」


 判定役の教務主任が、大きな声で告げた。


「やったー!」


 B組から声援が上がる。ふわりも、美世と一緒にハイタッチして喜びを分かち合った。


「木村、超速かったね!」

「うん! すごく……すごくかっこよかった!」


 ふわりは泣きそうになりながらも、満面の笑みで何度も頷いた。

 リレー後、自分の席に戻る途中の道で、桂も笑顔でテツの肩をバシッと叩く。


「テツ! お前、すごい速かったな!」

「ありがとう。みんなのお陰だよ」


 テツはそう言うと、B組の席の方を見て明るく笑った。


「大切なクラスのみんなの応援があったから、最後まで走り抜けられたんだと思う」


 テツの、心の底から嬉しそうな笑顔を見て、桂も満面の笑みを見せた。


「テツ、変わったな」

「ふふ、そうかも。桂君のお陰だよ。僕と友達になってくれて、ありがとう」

「何言ってんだ。こちらこそだ」


 2人は笑い合いながら、クラスメイトの元に戻っていった。


* * *


 次はいよいよ、最後の種目。部活対抗リレーだ。ふわりとテツの美術部はパフォーマンス部門の最終組。吹奏楽部と一緒だ。

 テツとふわりは、今日のために完成させた旗をしっかりと持って、体育座りしていた。この旗には両側にポールがついており、2人で両端に広げる構造になっている。

 少し特殊な形の旗になってしまったが、観客からの見映えを意識して手作りしたのだった。それもあって、ふわり達にとっては自信作だ。

 予定では、最初の200メートルをテツとふわりが歩き、後半200メートルを先輩2人にバトンタッチすることになっている。よって、生徒達の反応を最初に確かめるのはテツとふわりだった。


「みんなに見てもらうの、楽しみだね」


 テツがふわりに笑いかける。ふわりはそれに、笑顔を作って頷いた。

 たしかに、みんなに旗を見てもらうのは楽しみだ。しかし、この種目が体育祭の最後のプログラム。これが終わったら、テツと一緒の高校生活は終わりだ。


(これが最後……やっぱり、ちょっと寂しいな)


 浮かない顔のふわりを見たテツは、彼女に優しく声を掛ける。


「緊張してる?」

「え? あ、ああ……ちょっとだけ」

「じゃあ、良いおまじないを教えてあげる」


 テツはそう言うと、自分の手のひらに「人」という字を書きだした。


「手のひらに「人」って10回書いて、飲み込むんだ。そしたら、緊張がほぐれるんだって」


 「一緒にやろう」と、テツに促されて、ふわりは少し戸惑いながらも手の平に「人」と書いて飲み込む。


「どう? 落ち着いた?」


 テツが、穏やかに笑って尋ねてくれた。

 その笑顔を見ているだけで、心が暖かくなっていく。大好きな笑顔だった。


(きっと、私……これからもずっと、テツ君の笑顔だけは忘れずに生きていくんだろうな。テツ君にも、同じように思って欲しい。だから……最後まで、笑っていよう)


 ふわりは優しく目を細めて頷いた。


「ねえ、テツ君」

「何?」

「最後まで、素敵な思い出にしようね」


 ふわりの言葉にテツは明るく笑って頷いたのだった。


「パフォーマンス部門、第3走。美術部と吹奏楽部です!」


 アナウンスに従って、ふわりとテツは旗をしっかりと持った。


「いちについて、よーい」


 パアン!


 ピストルの音と共に、ふわり達は旗を広げた。旗を見た生徒達から「おお!」と声が上がる。


「すごい! ハツガクの校舎じゃん!」

「空も綺麗……」

「あ、見て! 色んな部活が書いてある!」


 生徒達が言うように、旗には初風学園高等部校舎を中心に、朝日から星空までのグラデーションが掛かった空が広がっており、その空に重なるように部活をしている生徒のイラストが描かれていた。運動部はもちろん、文化部も全てある。美術部の場所には、ふわりとテツの絵で部員の顔が小さく描かれてもいた。

 美術部の旗の世界を広げるように、吹奏楽部が初風学園の校歌を演奏する。


「あー、なんか、野球部の朝練を思い出すわ。あんな感じの朝日が綺麗だったんだよな」

「あの夕焼け、林間学校のウォークラリーで見たなあ」

「ハツガクで三年間過ごせて、ほんと楽しかったわ」


 生徒たちの嬉しそうな声を聞きながら、ふわりとテツも笑い合いながら歩いて行く。

 どの生徒も、みんなこの学園に思い出を作っていく。

 泣いたりすることも、悔しくなることだってある。怒りたくなるようなことも、きっとある。

 だけど、それでも学校に足を運ぶことができるのは、部活やクラス、そしてそれに限らない友情や絆のお陰なのだ。辛い記憶に負けないぐらい、眩しくて、かけがえのない青春のお陰なのだ。

 この旗には、そんな暖かな「魔法」のような思い出が、たくさん詰まっている。


(この学園に来られて、本当に良かった)


 テツは旗を見上げながら、幸せそうに微笑んだ。


* * *


 体育祭の全工程が終了した。残すは、校長による結果発表だ。

 壇上に上がり、校長が得点の書かれた紙を確認して、朗らかに笑う。


「皆さん。今年も白熱した戦いを見せてくれて、ありがとうございました。どの組の生徒達も、眩しいくらいに輝いていましたよ。今日、ここでできた絆と思い出を、この先の人生の糧にしてくれることを祈っています。では、結果発表に移ります」


 校長の言葉を生徒達は固唾を飲んで見守る。


「第5位、黄組。470点。第4位、白組。473点」


 校長の口から結果が発表されるたびに、それぞれの組から拍手が上がる。


「第3位。青組。479点」

「3位かー!」


 冬紀が悔しそうに、でもカラっと明るく笑った。他の生徒も、「大健闘だよ」「楽しかったね」と笑い合っている。


「第2位……緑組。482点」


 緑組から拍手と悔しそうな声が聞こえてくる。それを聞きながら、ふわりは頬を紅潮させた。

 赤組が呼ばれなかった。ということは、だ。


「第1位……赤組。485点!」


 赤組から歓声が上がる。B組の生徒達も、近くの生徒同士で肩を組んだりハイタッチしながら喜び合っていた。

 ふわりも後ろに並ぶオルラとハイタッチしながら喜ぶ。


「以上で、体育祭を終了します。皆さん、お疲れ様でした」


 校長が頭を下げると、全校生徒から割れんばかりの拍手が響いた。


「楽しかったー!」

「ハツガク最高だー!」


 元気のいい声がグラウンドに響く。


(本当に、素敵な思い出ができたな)


 ふわりは爽やかに晴れた夏空を見上げながら、嬉しそうに微笑んだのだった。

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