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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
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52 体育祭②

 プログラムも順調に進み、次が午前最後の種目だ。


「次の種目は組対抗綱引きでーす! 参加する生徒は集合場所に集まって下さい!」


 そのアナウンスを聞いて、美世がふわりの方を見る。


「綱引き、ふわりも出るよね?」

「うん。頑張って来るね!」


 ふわりが立ち上がると、クラスメイト達も「綱引き組、頑張れよ!」と口々に応援してくれた。それにしっかりと頷き、ふわりは綱引きへ出るクラスメイト達と一緒に、待機場所へと急いだ。

 整列すると、ふわりの隣はちょうど青組の冬紀だった。


「お! ふわりんも綱引き?」

「うん。八坂ちゃんも綱引きだったんだね」

「そ。綱引きが一番、足引っ張らなくて済むからさ」

「あはは。私も同じ理由だよ」


 冬紀もふわりも、運動があまり得意ではない。純粋に足の速さが問われる種目では活躍できないものの、綱引きだったらクラスに貢献できそうだ。


「八坂ちゃん、絶対負けないからね」


 ふわりが力強く微笑むと、冬紀は自信ありげに笑う。


「ふふふ……うちのクラスの秘密兵器を見ても、絶対勝つって言えるかな?」

「え?」

「オレの後ろ、見てごらん」


 冬紀に促され、ふわりは後ろを見る。そこにいたのは、大柄で筋肉ムキムキの男子生徒だった。


「柔道部エースの武藤くんだよ。ムっちゃんって呼ばれてる」


 冬紀が得意げに話すと、武藤は大らかに笑った。


「なに、冬紀ちゃん。俺のことアテにしてんの?」

「当然! ムっちゃんは天然なことを除けば無敵だから」

「天然て。俺のどこが天然よ」

「ふわりん、ムっちゃんね、テツのこと、「イッテツ」って名前の響きだけで「強そう」って判断して、柔道部に勧誘しようとしてたんだよ」


 冬紀の言葉に、ふわりは思わず吹き出してしまった。


「た、たしかに……名前の響きは柔道とか空手とか強そうだけど……ふふふ」


 ふわりが笑うのを見て、武藤は何故か表情をぱあっと明るくして、彼女の手を掴んだ。


「ふわりんさん、柔道部に来ないか!?」

「え?」

「君の笑顔があれば、部員のやる気が猛烈に上がりそうだよ。マネージャーでもいいから!」

「ええ!?」


 ふわりは目を輝かせながら顔を近づけてくる武藤にたじろぐ。

 褒めて貰えるのはありがたいのだが、自分は美術部だし、テツ以外の男子に色目を使うだなんて絶対に嫌だった。


「こらこら、ムっちゃん、ストップ」


 冬紀が武藤の顔を押しやり、ふわりから引きはがす。


「ふわりんは、テツの彼女だから。手を出しちゃダメだよ」

「ああ、一哲君の恋人だったのか。そりゃ手出しできないな」


 武藤は穏やかに笑って続ける。


「一哲君を怒らせたら、背負い投げじゃ済まないだろうからなあ」

「ムっちゃん、まだテツのこと誤解してるじゃん。テツは美術部だよ」

「冗談だよ。何はともあれ、ふわりんさん。俺と冬紀ちゃんのタッグが揃えば綱引きなんて楽勝だからね」


 「負けないよ」と微笑む武藤にふわりも苦笑いしながら頷いた。

 多分、穏やかで優しい人なんだろうけど、ちょっとマイペースだな……なんて思いつつ、ふわりは前を向いてアナウンスを待つ。

 第一試合の白組対黄色組が終わり、次はふわり達の番だった。


「続きまして、赤組対青組の試合です。選手は準備してください!」


(よし、頑張るぞ!)


 ふわりはガッツポーズし、気合を入れながら綱の横に並んだ。


「いちについて、よーい……」


 パアン!

 ピストルの音と共に、ふわり達は綱を掴んだ。出だしは赤組の方が早かったが、武藤の力もあるのか、徐々に青組の方に縄が引かれていく。

 ふわりはなんとか踏ん張りながら、必死に縄に食らいついていった。


「赤組! 頑張れー!」

「負けるな! まだいける!」


 味方の声援が聞こえてくる。その応援に応えたかった。


(負けたく、ない……!)


 ふわりは縄を握る力を強くし、一生懸命引き続けた。

 その時。


「うおっ!?」


 青組最後尾の武藤が足を滑らせたのだ。

 その隙に、赤組が一気に縄を引く。そのまま、縄中央の紐はセンターラインを割った。


「勝負あり! 赤組の勝ち!」


 審判役の生徒指導の教員が、大きな声で叫んだ。


「やったー!」


 ふわりはクラスメイトの仲間たちとハイタッチして喜び合った。

 その姿を遠くから見ていた冬紀は、優しく笑う。


(なんだ。ふわりん、昔よりずっと楽しそうじゃん)


「みんな、ごめんよー……」


 武藤が両手を合わせて申し訳なさそうに眉を下げる。それを見た青組のチームメイトは明るく笑った。


「序盤はいけると思ったんだけどなー」

「ムっちゃんもナイスファイトだったよ」


 チームメイトに慰められながらも、武藤は冬紀の肩を抱く。


「冬紀ちゃん、俺、悔しいよ……」

「大丈夫。まだまだ体育祭はこれからだよ。午後で挽回しよ」

「冬紀ちゃん……! やっぱり冬紀ちゃんは良いヤツだなー」

「ムっちゃんには負けるって」


 2人は楽しそうに笑いながら、控え席へと戻っていった。


* * *


 午前中の種目が終わり、昼休憩に入った。

 ふわりは美世と桂、オルラ、冬紀と共にB組の教室で昼食を食べていた。テツも誘ったのだが、どうやら担任の泉と話があるらしく、後から合流するとのことだ。


「中間発表、一位は緑組かー。といっても、まだどの組も点差ほとんどついてないけど」


 冬紀が姉特製の甘い卵焼きを食べながら笑う。


「初風学園の体育祭って、ほんとハイレベルだね。びっくりしたよ」

「八坂ちゃんは高等部からの入学だもんね」

「そー。さすが、私立の名門校って感じ。部活も運動部は強豪チームばっかりだし。あ、桂君。インハイ出場、改めておめでと」

「ああ、さんきゅ」

「バレー部のクラスメイトから聞いたんだけど、予選ですごく活躍してたらしいじゃん? やっぱ、将来はバレー選手になるの?」


 冬紀に興味津々と尋ねられ、桂は肉巻きアスパラを飲み込んで考え込む。


「前は、そういうつもりなかったんだ。父さんと同じ、警察官になろうと思ってた。理由はいくつかあってさ、人を助ける仕事もいいよなって思ってたのと、バレーにちょっとしたトラウマがあって、それを乗り越えられずにいたからなんだけど……」


 そこまで言うと、桂はふっと表情を緩めた。


「今回のインハイ予選で、トラウマを克服できたんだ。だから、今は……バレーで自分がどこまでいけるか、挑戦してみたい」

「ほえー。かっこいいね。応援してる」

「ああ」


 笑い合う2人を見て、オルラは嬉しそうに笑いながら口を開いた。


「バレーしてる隆弘君、超かっこよかったですよ」


 オルラの言葉に、桂以外の3人が目を輝かせた。


「そうなんだ! 私も見たかったなあ」

「オレも見てみたい」

「たしかに見てみたいわね。今まではクラスで一緒だっただけで、超かっこいいって言われるレベルの桂、あんまり見る機会なかったし」


 美世が揶揄うと桂は「おい安住、後半が余計なんだよ」と赤い顔で頭をかいた。それを見て、4人が顔を見合わせて笑う。

 恥ずかしくなった桂は、話を逸らそうとオルラの方を見た。


「オルラは、これからの将来、どうするんだよ。ほら、魔導士協会って、今ゴタゴタしてるんだろ」

「ああ、そのことなんだけど……」


 オルラは水筒のお茶を一口飲んで、にこりと笑った。


「魔導士協会、辞めたの」

「や、辞めた!?」

「オルラちゃん、どういうこと!?」


 目を丸くするふわり達に向かって、オルラは穏やかに続ける。


「私も、隆弘君と似たような感じよ。グリフィン会長に拾われてから、彼のためだけに生きてきたこの人生、私は彼の意思に付き従ってばかりで、自分の意思で歩いたことがあまりなかったの。今までは、私の支えはグリフィン会長だけだったから、それでよかった。だけど、今は違うでしょう」

「あ……」


 グリフィンの死を思い出して、ふわりは表情を曇らせる。

 あれから1ヶ月経ったとはいえ、オルラは大切な人を亡くしたのだ。傷ついていない訳がないだろう。

 しかし、オルラは暗い顔をするふわり達に向かって優しく微笑む。


「そんな暗い顔をしないで。私が言いたいのは、私には大切な人が沢山できたってことよ。だから……グリフィン会長だけに依存していた過去にさよならを告げて、自分の道を歩き出してみようと思ってるの。それに……私が前を向いて歩くことで、グリフィン会長も、きっと喜んでくださるはずだわ」


 オルラは心からの笑顔をふわり達に見せた。それを見て、ふわり達も安心した様子で微笑む。

 オルラも、沢山悩んで、傷ついて……でも、自分の力で過去を乗り越えてきたのだろう。

 ふわり達、友達の温かさという「魔法」によって。


「そういえば、テツ君がまだ戻ってこないわね」


 オルラが不思議そうな顔で教室の時計を確認した。既に昼休みが始まってから15分が経過している。


「職員室かな? 私、ちょっと様子見てくるよ」


 ふわりは弁当箱を閉じて、教室を出た。

 職員室前まで来ると、丁度、泉とテツが出てくるところだった。ふわりは少し遠くから、2人の様子を窺う。


「じゃあ、転校のことはそれでいいんだな?」

 泉の言葉に、テツが真剣な顔で頷いていた。

「はい。色々と心配を掛けてしまってすみません。でも……自分で決めたことなんです」

「そっか。なら、私はいくらでも応援するよ。大変なこともあるかもしれないけど、頑張れよ」

「はい」


 2人の会話を聞いて、ふわりはその場で立ち尽くしてしまった。


「転校……」


 事件が終わってから、すっかり忘れていた。テツが、いつか引っ越してしまうかもしれないこと。

 ずっと一緒にいられると思っていた。しかし、テツも自分もまだ子どもで、家族の事情などには逆らえない。ただでさえ、この1ヶ月でテツの周りは色々とあったのだ。初風市から、遠くへ引っ越してしまうことも何も不自然じゃない——。


「あれ、ふわりさん?」


 テツがふわりに気づいて、笑顔で近づいてくる。


「こんなところでどうしたの? お昼ご飯は?」

「あ、ああ、テツ君が遅いから、様子を見に来たの。桂君たちも教室で待ってるよ」


 慌てて笑顔を取り繕うふわりを見て、テツは首を傾げた。不思議そうな顔の彼の手をふわりは引く。


「ほら、行こうよ!」

「あ、うん」


 ふわりは寂しくて泣きたい気持ちを必死に堪えながら、テツの手を引いて教室へ歩いて行った。

 その間、1回もテツの顔を見なかったのは、自分が悲しい顔をしているのを悟られたくなかったからだ。

 もうすぐ転校してしまう彼の記憶に残る自分は、笑顔であって欲しかったから。


「みんな! テツ君連れてきたよ」


 ふわりは明るい笑顔を作りながら、桂達の元に戻ってきた。


「お。おかえりー」

「時間少なくなっちゃったし、木村も早くご飯食べな。ほら、クラス対抗リレー、木村も出るんだよね?」

「うん。みんなにかっこいいところ見せたいし、頑張ろうね、桂君」

「おう。借り物競争の失態を取り返すためにも、優勝しないとな……」


 桂が深刻そうに言うので、テツ達は可笑しそうに笑った。

 ふわりも、泣きたい気持ちに蓋をして、一生懸命に笑顔を作ったのだった。

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