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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
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45 創業祭④

 美世たちのファッションショーも終わり、テツとふわりは商店街の店を巡っていた。今日は創業祭であるため、各店舗で割引や記念品の配布をしている。お陰で、普段は入らない店舗にも入りやすかった。

 2人はイタリアンレストランで昼食を済ませた後、ふわりの目に留まったアクセサリーショップへ入店した。

 店内にはブレスレットやネックレスなど、シルバーアクセサリーが見映えよく並んでいる。どれも店内の白い照明を反射して高貴に光っていた。

 普段なら高校生には手が出しづらい価格ではあるものの、今日は創業祭。割引によってテツとふわりにも買える額だった。


「あ、これ! テツ君に似合いそう」


 ふわりが指さしたのは、丸いペンダントトップのシルバーペンダントだった。


「僕に似合う?」

「うん。私の中のテツ君のイメージって、角が取れてて、丸くて優しくて、でもかっこいいの。このペンダントと一緒」


 ふわりはにっこりと笑い、ペンダントを手に取ってテツの胸元に当ててみる。思った通り、彼に良く似合っていた。


「ねえ、これ、私からプレゼントしてもいいかな?」

「あ……なら、僕からも何かプレゼントするよ」


 テツはそう言って、棚の上にあるアクセサリーを吟味した。

 ネックレス、ブレスレット、ペンダント……その中でひときわ目を引いたのは、桜の花の形をした銀の指輪だった。

 まるで桜の枝葉が指輪の形に固められ、美しく咲いた花が散らないように銀で固められたような指輪。この指輪を見ると、不思議と、ふわりと出会った季節のことが思い出される。

 そして、優しく象られた小さな花が、ふわりらしくて可愛かった。


「佐藤さん、これ」


 テツは迷わずその指輪を取って、ふわりの指に重ねる。


「すごく、似合ってると思うんだけど、どうかな?」

「指輪……いいの?」

「……」


 赤い顔でこちらを見つめるふわりを見て、何も言うことができなかった。

 僕には彼女と一緒にいる資格なんてないんじゃないか。おばあさんを殺した相手の孫から指輪なんかをプレゼントされたら……真実を知ったとき、ふわりさんは悲しむんじゃないか。本当は、すぐにでもふわりさんに僕のことを忘れてもらうべきなんだ。それで、他の誰かと結婚して……。


 そう頭で繰り返す。この考えが間違いじゃないんだと、必死に自分に言い聞かせる。

 でも、そう念じるたびに心が悲鳴を上げるのだ。


 ——ふわりさんに、僕のことを忘れて欲しくない。


 その気持ちには嘘を吐くことができず、テツは小さくふわりに尋ねる。


「指輪、プレゼントさせてほしい。その代わり……僕のこと、忘れないでいてくれるかな」

「え……どういうこと?」

「僕は……ううん、文字通りの意味だよ。ずっと覚えてて。僕のこと」


 テツはそう言うと、必死に笑顔を作って見せた。

 その笑顔があまりにも苦しそうで、ふわりは彼を元気づけようと一生懸命に頷く。


「うん。約束するよ。テツ君が引っ越しちゃっても、私、ずっとテツ君のことを忘れない。また会える日まで、待ってるから」


 彼の意図を最大限に汲んだつもりだった。テツの言葉の意味は、きっと自分が引っ越してしまうことを憂いているんだろうと、ふわりは信じて疑わなかった。きっと、この前からずっと元気がないのも、引っ越しのことが原因なんじゃないかと——。


「……うん」


 しかし、テツの表情に元気は戻らない。彼は悲しそうに眉を下げたまま、レジに向かって歩いて行ってしまった。


(テツ君、本当にどうしたんだろう……やっぱり、何かあったんだよね。もしかしたら、引っ越しみたいな単純な理由じゃないかもしれない)


 ふわりはペンダントを持つ手をギュッと握りしめながら、テツを見つめる。


(聞かなきゃ。テツ君が何に悩んでるのか、教えてもらって……力になりたい。だって、私はテツ君の恋人なんだから)


 そう決意を固めて、ふわりはレジの方に歩いて行った。

 会計を済ませて、テツと並んで店を出る。今朝待ち合わせをしたベンチに座って、2人でプレゼントを交換し合った。

 ふわりにペンダントを着けてもらったテツは、指輪の箱を開けてふわりの右手薬指に指輪を嵌める。思った通り、ふわりの細く柔らかな指によく似合っていた。


 ふわりは静かにその指輪を見つめた後、テツの方を真剣に見つめて口を開いた。


「ねえ、テツ君。最近ずっと何かに悩んでるよね? もし良かったら、何がテツ君を苦しめてるのか、私に教えてくれないかな? 私、テツ君の力になりたいよ」


 ふわりの言葉を聞き、テツは目を見開き……悲しそうに笑う。


「その前に、1つお願いがあるんだ。この、ペンダントに……魔法で、君との思い出を、込めてくれないかな?」

「私との思い出……?」

「うん。忘れたくないんだ。この先の人生、ずっと」


 泣き出してしまいそうな顔で笑うテツを見て、ふわりは拒否することなんてできなかった。

 ふわりはテツに頷いて、丸いペンダントトップに触れる。


 ——私とテツ君の、思い出。


 ふわりは目を閉じて、テツとのこれまでを心に思い浮かべる。

 春、あの河川敷で出会ったこと。あの瞬間、テツに恋したこと。同じクラスになれて嬉しかったこと。カフェにテツが来てくれたこと。一緒に部活見学へ行ったこと。オルラに想いを消されかけた時に、自分のために怒ってくれたこと。林間学校で「好きだ」と言い合ったこと。彼の家に行ったこと。悩む自分を励ましてくれたこと。遊園地デート……そして、今日。


 振り返れば、こんなに沢山思い出ができていた。それが嬉しくもあり、この思い出で2人の幸せを終わりにしたくなくて、胸が締め付けられる。もっと、ずっと一緒にいたい。

 そう強く思った瞬間、テツのペンダントが淡い桜色に輝いて……やがて、光が止んだ。


「……うん。これでペンダントに思い出が詰められたよ。触れれば、いつでも思い出せる」

「ありがとう。これで、もう……十分だよ。僕は十分、幸せだったよ」


 テツはそう言うと、ふらりと立ち上がってふわりに告げる。


「今日で、最後にしよう」

「え……?」

「別れて欲しい」


 テツの言葉に、ふわりは目を見開いた。息が詰まって、なんと声を出せばいいか分からない。


「ど……どうし、て?」


 やっと、そう尋ねられた。すると、テツは涙を零しながら、取り繕った笑顔で告げるのだった。


「僕のおじいちゃんが、ふわりさんのおばあさんを殺したんだ」

「え……」


 心臓が握りつぶされそうになる。苦しい。苦しくて、息が上手くできない。


「僕と一緒にいたら、ふわりさんは、いつかきっと苦しむことになる。だから……さよなら」


 テツは震える声でそう言うと、ふらふらとその場を立ち去ってしまった。

 

(待って……待ってよ、テツ君。行かないで)


 そう言いたいのに、声が出せない。


(どうして? ねえ、どうして……)


 ふわりは喉を押さえて背中を丸めた。涙が、とめどなく溢れてくる。


(ねえ、おばあちゃん。私、どうしたらいいの……?)


 心の中で、そう必死に問いかけた。

 ふわりの頬を、梅雨前の蒸し暑い風が撫でる。空には、黒い雲が広がっていた。

 もうすぐ、日が暮れる。そしたらきっと……長い雨が降るだろう。

 なかなか止まない、冷たい雨が。

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