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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
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46 超かっこいい姿

 ふわり達が創業祭に行っていた頃、オルラは桂のインターハイ予選を応援しに初風アリーナへ足を運んでいた。

 アリーナの観客席で、初風学園の試合を見ること数時間。強豪校と呼ばれるだけあって、初風学園は順調に勝ち上がり、残すところは準決勝と決勝戦のみとなった。体育館の時計は夕方16時。ふわり達との待ち合わせは19時30分だったはずだから、試合状況によってはギリギリになってしまいそうだ。

 しかし、大好きな彼のいるチームの行く末を、最後まで見届けたいのが本音だった。

 とはいっても、ベンチメンバーの彼は、まだ試合に出ていない。

 次は準決勝。彼はプレーすることがあるのだろうか。

 そんなことを考えながら、準決勝のために整備されているバレーコートの様子を見つめていると、後ろから頬に冷たいものを押し当てられた。


「ひゃっ」


 びっくりして後ろを見ると、自販機で買いたてのミネラルウォーターを持った桂が、ぶっきらぼうな顔でこちらを見ていた。さっきの冷たい感触は、冷たいペットボトルだったらしい。


「これ、やるよ。水分ちゃんと摂れ」

「あ、ありがとう」


 オルラはそれを受け取り、桂の方を見つめる。まだ試合に出ていないとはいえ、6月の体育館は暑いからか、彼は既にユニフォーム姿になっていた。黒と黄緑の初風学園バレー部カラーのユニフォーム。番号は8番。

 改めて、近くでユニフォーム姿を見てみると、やはりかっこよかった。


「ふふ」

「何笑ってるんだよ」

「ユニフォーム、かっこいいわね」

「う……でも、まだ試合出てないし」


 桂は溜息交じりにそう言って、オルラから目を逸らす。


「せっかく見に来てくれたんだから、少しは良いとこ見せたかったよ」

「あら、まだ大会は終わってないじゃない。私、最後まで期待してるわよ。……ああ、そうだわ」


 オルラは優しく笑いながら、桂の両手を握る。


「おまじないしてもいい? 超かっこいいプレーができるおまじない」

「おまじない……いや、ダメだ」

「どうして?」

「自分たちの力で勝たなきゃ意味ないんだ。魔法の力には頼れない」


 首を横に振って、桂はオルラのことを真っ直ぐ見つめる。


「俺自身の力で、オルラに超かっこいいって言わせてみせるから」

「ふふ。さっきより、表情が明るくなったわね」


 オルラは微笑み、桂から手を離した。

 最初から、おまじないなんてするつもりはなかったのだ。だって、桂ならきっと、自分の力で勝ちに行くだろうと思ったから。

 桂が元気をだしてくれさえすれば、オルラはそれで十分だった。


『まもなく、準決勝第一試合。初風学園高等部と、和香川高校の試合を開始します。選手の皆さんは中央コートに集まって下さい』


「ほら、頑張って」


 オルラは明るく笑いながら、両手でガッツポーズを作って見せた。

 大切な彼女の、大好きな笑顔に勇気を貰い、桂はしっかりと頷く。


「うん。絶対、オルラのことインターハイに連れてくから!」


 力強く言い切って、桂はチームメイトと共にアリーナへ下りていく。その大きな後ろ姿が頼もしくて、オルラは思わず頬を緩めた。彼なら、きっと今の約束を守ってくれる。そう確信できた。


「隆弘、かっけーな!」

「ひゅー! 流石俺らの隆弘だぜ……」


 後ろから楽しそうな声が聞こえたと思ったら、オルラと同じクラスでバレー部の智樹と恭平がオルラの側にやってきていた。ふたりはオルラを挟み込むように座り、彼女に、親し気に話しかける。


「オルラさん、知ってる? 隆弘って、中等部の時にバレー部主将だったんだよ。全国大会の試合でも、全然怯まなくてさ。みんな隆弘に元気づけられて、準決勝まで勝ち進んだんだ」

「そう、あんときの隆弘に、俺らも何度助けられたことか」

「そうなんですね。隆弘君が主将って言われると……ふふ、なんだか分かるような気がします」


 中等部の頃の話は聞いたことがなかったが、桂はその頃から頼りがいがあって努力家な性格だったのだろう。昔の彼を想像して、オルラは微笑む。


「その全国大会は、優勝できたんですか?」


 オルラの期待に満ちた瞳を見て、智樹と恭平は気まずそうに顔を見合わせる。


「ギリギリ勝てなかったんだよな」

「ああ。最後の最後に……隆弘が怪我しちゃって。そこから、立て直せなかったんだ。」


 恭平の言葉に、オルラは目を見開く。


「怪我……ですか」

「うん。プレー中に他のチームメイトとぶつかってさ、その反動で転んだ時に足挫いたんだよ。そのことをしばらく引きずってたみたいで、高等部に上がる春休みまではボールを拾いに行くのも怖そうだった」

「最近は昔みたいにプレーしようとしてるけど……もし、トラウマになってたら心配だなって。ほら、県大会だけど、この試合も準決勝だから」


 2人の言葉を聞き、オルラは不安げにコートで試合開始の挨拶を交わす桂の後ろ姿を見つめる。

 もし、この試合で桂が思うようにプレーできなかったら……真面目な彼はきっと落ち込んでしまうだろう。そんなことになったら、こちらまで悲しい。

 でも——。オルラは小さく拳を握り、先ほどの彼の言葉を思い返す。


「隆弘君なら、大丈夫です。絶対、初風学園をインターハイに連れて行ってくれると思います。そして……私に、そこで活躍している姿を見せてくれる。さっき約束したんです。だから、大丈夫」


 オルラはベンチに入った桂の姿を見つめて、真剣に言った。それを見て、智樹と恭平も「そうだな」と微笑む。


「俺らが信じなくて誰か信じるんだって話よな」

「隆弘が強いの、俺らが一番わかってんだから」


 2人の言葉に優しく笑って、オルラは桂の方を見て、強く、強く祈った。


 ——隆弘君が、無事に勝ち上がれますように……。


 試合開始の笛が鳴った。


* * *


 第一セットは、初風学園が優勢で進んでいった。得点は25対12。オルラはバレーのルールをよく知らなかったが、かなり点差がついているし上々な結果だと思った。第二セットも順調に点を重ねていき、20対16まで試合が進んだその時、唐突にその出来事は起きた。

 後衛でプレーしていた3年生が、ラリーが終わった瞬間に膝を押さえて倒れ込んでしまったのだ。


「おい、松原、大丈夫か?」


 試合が一時中断され、マネージャーや大会スタッフによって彼の手当てが行われる。もともとサポーターを着けてあった右膝は、赤く腫れていた。アイシングをするが、試合に復帰するのは難しいだろう。

 松原がマネージャーに支えられながらコートを抜ける。元より得点力の高い彼が抜けてしまい、初風学園のチームメイトの表情がわずかに曇る。

 ともかく、彼と誰かを交代させなくてはならない。監督は少し迷った素振りを見せた後、ベンチにいる桂を真っ直ぐに見つめた。


「桂、お前が出てくれ」


 監督に名指しされ、桂は息を飲む。

 ——準決勝。怪我による選手交代。

 中等部最後の全国大会が過った。


(俺に、できるのか?)


 不安が胸を占める。そんな彼の心情を見抜いてか、監督は厳しい声色で続けた。


「今が、乗り越える時だぞ」

「……!」


 桂は、その言葉に目を見開いた後……覚悟を決めて頷く。


「はい!」


 交代の番号が、応援席にも見えるように表示された。3番が、8番と交代。


「おい、隆弘が出るみたいだぞ」


 智樹が興奮した様子で指をさす。


「隆弘、頑張れー!」


 恭平や、彼らの後ろに座った控えメンバーたちも口々に声を出す。その声を背中に浴びつつ、オルラはうるさくなる心臓を必死に抑えながら、両手を祈るように握った。


「隆弘君……頑張って」


 試合再開のホイッスルが鳴る。桂は後衛でサーブレシーブの構えを取った。


(絶対に、取る!)


 相手のコートから、鋭いサーブが飛んでくる。やはり、交代で入った1年生の桂が狙われる。少し右寄りに飛んできたボールを取ろうとして、あの準決勝で隣のチームメイトとぶつかったことを思いだした。

 一瞬、怯む。

 しかし、なんとか体を動かしてギリギリでボールをレシーブした。

 苦しい体制でレシーブされたボールは、どうにか前衛に上がり、セッターがトスして前衛が鋭くアタックする。相手はレシーブすることができず、初風学園の得点となった。

 得点源の松原が抜けた後、最初の一点。これには応援席も沸く。


「よっし!」


 応援席の智樹がガッツポーズを見せた。後ろでは「玉城先輩ナイス!」と応援の声が響いていた。

 しかし、恭平とオルラの表情は冴えない。


「隆弘、まだ怖がってんじゃん……大丈夫かな」

「ええ……」


 2人が不安げにコートを見つめる中、初風学園のローテーションが1つ回り、桂が前衛に移る。笛の音がした後、先輩のサーブが相手のコートに押し込まれた。相手はそれを返して、攻撃態勢に移る。相手のコートからスパイクが放たれるのを見越して、桂と前衛の先輩が2枚壁を作り、ブロックの体勢に入った。しかし、桂の意識が隣の先輩に移ってしまい、ブロックは桂の手の間を抜ける。

 桂がそれに悔しがっていたのも束の間、味方の後衛がしっかりとレシーブを上げた。それをセッターが上げる。チャンスボールは、桂の少し右側に上がった。桂の隣には、先輩の姿がある。

 行くべきか、譲るべきか、一瞬迷う。

 そのときだった。


「隆弘君! 跳べる!!」


 オルラの声が桂の耳に強く響いた。


 ——そうだ、悩んでる暇なんてない。俺がすべきなのは……チームのために、一点でも多く貢献することだ!!


 桂はスパイクの姿勢に入り、高く、高く、跳んだ。

 まるで、飛ぶのを怖がっていた雛鳥が、勇気を振り絞って初めて空へ翔けた姿のようだった。


 ——決まれ!!


 高い位置から力強く放たれたスパイクは、鋭い角度で相手コートのラインギリギリに突き刺さった。

 得点のホイッスルが鳴る。


「よっ……しゃあー!!」


 ガッツポーズを作る桂の肩を、チームメイトが嬉しそうに叩く。


「桂、ナイススパイク!」

「良かったぞ!」


 その姿を、監督も後ろで満足げに微笑みながら見ていた。

 応援席にも喜びの声が響いていた。


「隆弘ナイスー!」

「さすが、俺たちの隆弘だぜ!!」


 智樹と恭平が、顔を真っ赤にしながら笑顔でグータッチしていた。

 オルラも嬉しそうに目を輝かせながら、コートでチームメイトと喜びを分かち合う桂の姿を見つめていた。


「超かっこいい……ですね」


 オルラがそう呟いたのを、智樹と恭平は聞き逃さずに明るく笑う。


「そうなんだよ!」

「隆弘は、超かっけーの!」


 その後も試合は初風学園のペースで進み、セットカウント2対0で、初風学園は決勝進出が決まった。

 そして、その日の最後の試合……決勝戦も、初風学園は無事に勝ち残り、インターハイ出場を決めたのだった。


* * *


 決勝戦終了後、後片付けを終える頃には19時になっていた。

 チームメイトが学校指定のバスに向かう中、桂は帰り支度をしていたオルラの元に行き、笑顔を見せる。


「勝てたよ。オルラのお陰だ。ありがとな」

「いえ。過去を乗り越えたのは、あなた自身の力よ。おめでとう」

「過去……ああ、恭平たちから聞いたのか」


 桂は照れくさそうに頬を掻く。


「あいつら、俺が怪我して落ち込んでる時も、ずっと励ましてくれてたんだ。「隆弘なら大丈夫だ」って、ずっと俺のことを信じてくれてた。……今度、お礼を言っとかないとな」

「それがいいと思うわ」


 にこりと笑うオルラを見て、桂は真剣な顔に戻って彼女に尋ねる。


「魔導士協会のこと……今日だったよな?」


 桂に尋ねられ、オルラも真面目な顔で頷いた。


「ええ。この後、商店街で佐藤さんたちと合流します」

「そっか。……気を付けて行って来いよ。終わったら迎えに行くから」


 少し不安げに告げる彼を見て、オルラは力強く笑って見せる。


「大丈夫よ。だって、超かっこいい、あなたの姿が見られたんだもの。私も負けていられないわ」

「……うん。そんだけ元気なら大丈夫だな」


 遠くから、「隆弘! バス行くぞー!」と恭平が手を振っている。名残惜しいが、行かなくてはいけない。


「じゃあ、また後でな」

「ええ。後でね」


 桂はオルラに笑いかけて、恭平の方へ走っていった。それを見つめた後、オルラは覚悟を決めて呟く。


「グリフィン会長。私は、あなたを……止めてみせますから」


 オルラは私物のショルダーバックを掛け直し、暗くなり始めたアリーナの中から、出口へと歩き出した。

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