44 創業祭③
商店街の創業祭ということもあり、その通りにある佐藤家のカフェも満員御礼だった。
ふわりが出かけているので、蓮介と両親の3人で店を切り盛りしているのだが……やはり、注文の料理を作るのが間に合わない。ホールを忙しなく動いて接客を行っていた蓮介に、キッチンから父の呼ぶ声がする。
「蓮介ー! キッチン入れるか!?」
「あ、ああ……うん。今行く」
キッチンを任せるのは卒業後という話も出ていたが、今日はもうそんなことを言っている場合じゃない。蓮介は接客を母に任せてキッチンの方に向かう。
「デザート作ってくれ。蜜柑のバニラアイス」
「分かった」
蓮介は手早く冷凍庫からバニラアイスを取り出し、スプーンで掬ってグラスに盛りつける。その後、缶詰の蜜柑と特性ホイップクリームを飾りつけ、注文の入ったテーブルに運んで行った。
——たしか母さんが注文を取ってくれたテーブルだ。壁側のボックス席……。
「お待たせいたしました。蜜柑のバニラアイスの——」
蓮介は笑顔でアイスをテーブルに置こうとし……目を丸くする。
なぜかと言うと、その席にいたのは花妻大学バドミントン部の女子4人だったからだ。
「芽生ちゃんに志帆ちゃん、幸那ちゃんに英梨ちゃんも……うちに来てくれたの?」
蓮介が尋ねると、志帆が「ウェイター姿の蓮介先輩を見に来ました!」と明るく笑う。
「俺のウェイター姿……?」
「はい! 芽生ちゃんから、すごく似合ってたと聞いたので」
志帆の言葉に芽生を見やると、部活の時と同じ簪にスカジャン姿で、でも顔は真っ赤で恥ずかしそうだった。
「あの……以前、部活帰りに寄ったとき、見たことがあったので……つい……」
俯きながらもごもごと喋る姿からは、部活の時の自信に強い雰囲気は感じられない。なんだか、素の引っ込み思案な芽生が混ざっているみたいだ。その様子が可愛くて、蓮介はクスリと笑う。
「そっか。嬉しいな」
「あ、あはは……」
「ああ、ところで、蜜柑のバニラアイスのお客様は?」
「あ、私です!」
芽生が慌てて手を挙げる。
蓮介は芽生の前にバニラアイスを置き、微笑んだ。
「これ、俺が作ったんだ。飾りつけとか、まだまだだけど……美味しく食べて貰えると嬉しい」
「も、もちろんです!」
蓮介は芽生が一生懸命頷くのに、はにかんで、先輩3人の前にある空いた皿を引き取った。大きな皿が1枚。パフェグラスが2個。察するにパンケーキとフルーツパフェを食べたのだろう。今の時期は柑橘系のスイーツを推しているから、パンケーキにも、フルーツパフェにも期間限定商品があったはずだ。
「では、ごゆっくりどうぞ」
蓮介は笑顔を残してキッチンに戻っていく。
先輩3人はその後ろ姿を眺めた後、芽生にずいっと顔を近づけた。
「それで、蓮介先輩に告白したんだよね?」
「どうだったの?」
興味津々な幸那と英梨にたじろぎながらも、芽生は「蓮介先輩から告白して下さって……」と小さな声で答える。
「その、色々あったんですけど、「好きだよ」って言って貰えて、私もそれに「好きです」と……」
自分で言っていて照れる。恥ずかしくて詳細を言うことができなかったが、この言葉だけで2人は満足したようだ。興奮した様子で「ひゃー!」「甘酸っぱい!」と笑顔で悶えていた。
「長年の片思いだったんだもんね。もうその時点で少女漫画みたいだけど」
隣の志帆もニコニコしながら芽生を見ていた。
「6年越しに恋が叶うなんて、ロマンチックだなあ。なんだか素敵な夢を見させて貰っちゃったよ……」
「あはは……私自身もまだ信じられなくて」
「恋の相談があったら、私でも幸那ちゃんでも英梨ちゃんでも、遠慮なく相談してね」
「2人もいいよね?」と志帆が尋ねると、幸那と英梨は笑顔で親指を立ててくれた。
「リアルの恋バナを摂取できる機会は貴重だし、私たちで良ければいつでも!」
「2次元にしか恋人いたことないけど、頑張って相談乗るからね!」
「あ……ありがとうございます」
芽生が顔を綻ばせるのを見て、3人は顔を見合わせて笑った。
一方の蓮介は、キッチンに戻ってデザート作りをしていた。
手際よく調理していくものの、やはりまだ父には及ばない。卒業までに頑張らないと……と、頭の中では真面目なことを考えていた。
しかし、顔色は真っ赤で、頬が少し緩んでいる。それを見た父が、パスタ用のベーコンを切る手を休めて、「蓮介……」とニヤニヤしながら声を掛ける。
「もしかして、好きな子でも来てたのか?」
「う……うん。さっき行ったテーブルに、後輩が来てたんだ」
「ほう。それ、この前来てた簪の子か? たしかに可愛かったもんな」
父にニヤケ顔でそう言われて、気恥ずかしくなった蓮介は「俺のことはいいから料理して」と話を逸らし、プリンアラモードのホイップクリームを飾り付けた。
好きな子と想いが通じ合って、家族とも穏やかな関係に戻れた。妹の恋だって順調だ。
あとは、グリフィンが復讐をやめてくれさえすれば、祖母の想いを守ることができて、全て解決する——。
アリスの遺書のことを連絡したところ、約束通り今晩会ってくれると言っていた。大切な師匠の遺言だ。グリフィンも無下にはしないと思うし、きっと誰も傷つけない道を選んでくれるはずだ。
そう、信じたい。
(グリフィンさんの心にも、平穏が訪れてくれれば……)
全て上手くいっているはずだ。なのに、どうしてだろう。
ざわざわと、胸騒ぎがして止まなかった。




