42 創業祭①
来たる6月9日。今日は創業祭の日だ。
ふわりは待ち合わせに選んだ商店街広場のベンチで、テツのことを待っていた。
とろみブラウスにピンクのロングスカートを合わせて、とっておきのストロベリーピンクのリップを塗り、できる限りのお洒落はした。少しでも、テツに可愛いと思ってもらいたかったからだ。
しかし、それとは別に……いや、もっと心を占める、不安なことがあった。
テツに対して、電話の時からずっと感じている「違和感」が解消されないことだ。
明確な根拠は無いが、テツは何かを隠し、無理をしているような気がする。遊園地のデートまでは普通だったことを考えると、原因となる出来事はデートから帰った後に起きたのだと思う。となると、もう1つしか考えられない。
(お父さんと、何かあったんだろうな……)
そうとは分かっていても、家庭のことだし、なかなか聞き出せずにいた。今日まで、テツは学校でも普段通りに過ごしていたし、何か悩んでる様子なんておくびにも出さなかった。ということは、まだ他人に話したくないということだ。
それが分かっていたから、ふわりも無理に聞き出すことはしなかった。
とはいえ、彼が苦しんでいると思うと心配になってしまう。
(今日、それとなく聞いてみようかな)
そう思いつつ、ふわりは広場の時計を確認した。
時刻は午前10時。まもなく、創業祭が始まる。人通りも増えてきていた。
「ふわりさん」
優しい声で呼ばれて顔を上げると、テツが微笑んでいた。
今日は普段着のシャツとスラックス姿。彼らしい清潔感のある格好だった。
「誘ってくれてありがとう」
そう言いながら、テツはふわりの隣に腰を下ろす。
「創業祭を回る前に、夜のこと確認してもいいかな?」
「うん。分かった。今日の計画は——」
今日の夜、グリフィンを捕まえる手筈はこうだ。
まず、蓮介に頼んでグリフィンに連絡してもらい、今日の夜19時に青ヶ咲通りの小さな公園に呼び出してもらった。名目では、「アリスの遺書を受け取って貰う」ということになっている。ただ、その名目もれっきとした事実で、アリスの遺書でグリフィンを改心させるのが第一プランだ。
しかし、復讐に駆られた人間がそう簡単に改心するとも限らない。そこで、実力行使で彼を捕まえるのが第二プラン。そのために、対魔導士無力化銃を持つテツの父・琉貴と、オルラとふわり、そして蓮介が現場に向かう。
なお、このことはふわりの両親も承知していて、万が一20時を過ぎても連絡が無かった場合はLODAMに所属する叔父エドウィンに連絡して、助けてもらうことになっている。それであれば、初めからエドウィンを頼るべきじゃないかとも思ったのだが、テツの父が「人数が多いとグリフィンを刺激してしまうだろう」と言っていたため、少人数で公園へ向かうことになったのだ。
「……上手くいくかな」
不安げに呟くテツに、ふわりは「きっと大丈夫だよ」と微笑む。
「私たちが、しっかり頑張るから。だから、お父さんのことも傷つけさせない」
「それだけじゃない。君も」
テツはそう言うと、不安に顔を歪めながらふわりを見つめた。
「ふわりさんも、無事に帰ってきてね」
「テツ君……うん。任せて」
ふわりはしっかりと頷き、テツの手を握る。
「絶対に、みんな無事で帰って来るから」
「……うん」
テツは弱々しく頷く。その顔に笑顔は無く、目もふわりと一切合わない。
テツは、何か大切なことを伝える時は、必ずふわりの目を見て話してくれる。そんな彼が目を合わせないのは、やっぱりおかしかった。
間違いなく、何かを抱えているのだ——。
「テツ君、あの……」
何かあったの? そう聞こうとした瞬間に、2人のスマホが2回振動した。
確認すると、2件メッセージが届いていたのだ。
1件目は冬紀から。「ファッションショーの準備、完璧だよ。美世、めちゃくちゃ可愛いからテツとふわりんも見に来てね」というメッセージだった。
2件目はオルラから。「バレーの県大会の体育館に来てます。隆弘君の試合を応援したら、商店街まで行くので後から合流させてください」というメッセージ。
「今日、バレーのインターハイ予選だっけ。桂君も今頃試合かな?」
テツが取り繕うように笑う。
「うちのバレー部、全国レベルなんだよね。県大会も突破できるといいね」
「う、うん。そうだね」
テツの作り笑いにつられて、ふわりもぎこちなく笑った。
テツのことは心配だが、まだ彼も自分の悩みを打ち明けるつもりがないのだろう。
焦ってはダメだ。少し落ち着かないと。
丁度その時、「創業祭オープニングステージを始めます! ゲストは、花妻大学バンドサークルの皆さんです!」というアナウンスが流れてきた。
たしか、オープニングステージの次がファッションショーだったはずだ。美世たちの出番を見届けなければ。
「テツ君。ファッションショーが始まる前に席をとっておいてもいいかな? みよちんが出るんだ」
「ああ、さっき八坂君が言ってたやつかな? いいよ。行こっか」
テツは微笑んで、ベンチから立ち上がる。ふわりもそれに続いて、2人で並んでステージ前に向かった。
手は、繋げないままだった。




