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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
42/55

41 成長

 遊園地から帰宅後、ふわりは蓮介と共に車を降りた。

 それと同時にお腹がぐーと鳴って、ふわりは顔を赤くしながらお腹を押さえる。朝食はロクに食べていなかったし、昼食の弁当だけではもう持ちそうにない。早く夕飯が食べたいところだ。


「お腹空いた?」


 蓮介が微笑みながら尋ねてくる。ふわりはそれに小さく頷いた。


「うん」

「じゃあ、早く夕飯にしよう」


 そう言って穏やかに笑う蓮介を見ていると、昨日の晩の喧嘩が嘘のようだった。

 先ほど、駐車場で冬紀の姉を抱きしめていたのを考えると、もう復讐なんてするつもりはないと考えるのが自然だろう。

 しかし、ふわりは兄の口から直接それを確かめたかった。


「ねえ、れんにい」

「うん?」

「れんにいは、まだ、おばあちゃんの復讐をしようと思ってる?」


 ふわりが尋ねると、蓮介は静かに首を横に振る。


「ばあちゃんは、復讐なんて望んでない。だから、もう復讐なんてしないよ」


 そう言って、蓮介は憑き物が取れたように朗らかに笑った。

 それを見て、ふわりも安堵して顔が綻ぶ。


「よかった……」

「昨日はごめんね」

「ううん。いいの。れんにいが踏みとどまってくれて嬉しい」


 ふわりはそう言った後、真剣な顔を蓮介に向ける。


「あのね、れんにい」

「何?」

「私、グリフィンさんのことを止めたい」


 妹の真剣な表情を見て、蓮介は息をのむ。

 蓮介が知っているふわりは、泣き虫で、どこか自分に自信が無くて、臆病で……こんな風に意志の強い顔なんてできない少女だった。

 しかし、そんな彼女が今、確固たる意志を持って自分の両目を射抜いている。

 ああ、いつの間にそんなに成長したのだろう。


「グリフィンさんが復讐したら、おばあちゃんはきっと悲しむ。それだけじゃない。「魔法はみんなを幸せにするものだ」っていうおばあちゃんの信念も、裏切ってしまうことになる。そんなの、おばあちゃんは望んでないし……そうしたときに一番悲しむのは、グリフィンさんなんじゃないかなって思うの」

「ふわりは、グリフィンさんのために復讐を止めたいの?」

「……うん。私は、魔法に誰も傷つけさせたくないの。LODAMの人にも、グリフィンさんにも、傷ついてほしくない」

「そっか……」


 本当に、ふわりは大きくなった。

 もう、自分の後ろにくっついていた小さな女の子ではないのだ。

 強くて、優しくて……ああ、まるで、ばあちゃんみたいだ。蓮介はそう思い、微笑む。

 この駆け出しの魔導士の力になりたい。大切な妹の力になりたい。蓮介はゆっくりと頷いて、口を開いた。


「俺も協力するよ」

「ほんと?」

「うん。俺、グリフィンさんの連絡先も持ってるから、もしかしたら力になれるかもしれない。それに……俺も、ふわりと同じ気持ちだから。魔法は、誰かを傷つけるためのものじゃない。誰かを笑顔にするものだ。絶対にね」

「れんにい……!」


 ふわりは嬉しそうに目を輝かせ、しっかりと頷き微笑んだ。


「ほら、夕飯食べよう。今日は俺が作るんだ」

「れんにいが作るの?」

「うん。何がいい?」

「じゃあね、カレーがいい! 蜂蜜も入れるの!」

「いいね。そうしよう」


 「私も手伝うよ」とあどけなく笑って、ふわりは蓮介と並んで玄関の扉を開けた。

 その瞬間。


「ふわりー!!」


 リビングから、父が涙目で突進してきたのだ。


「うわ!?」


 ふわりはそれを慌てて躱す。すると父は勢い余って玄関のドアにぶつかってしまった。


「ちょ、お父さん!?」

「父さん、どうしたの?」

「帰りが遅いから心配してたんだよ! テツ君と何かあったんじゃないかって」


 父が涙を筋肉質な腕で豪快に拭いながら、それでもまだ潤んだ瞳でふわりを見つめる。


「ほら、もう夜だし、そういうことになってたりとか……」

「そういうこと?」


 ふわりは首を傾げる。その横で、蓮介は苦笑いしていた。


「父さん、セクハラだよ。やめて」

「セクハラ……?」


 ふわりはしばらく不思議そうな顔をしていたが、やがて顔をぼっと真っ赤にして父の胸をポカポカと叩いた。


「お父さんのバカ! 変態! 私たち、そんな乱れた付き合いはしてないもん!」

「そうか……い、いや、でもキスくらいはしたんだろ……?」

「うう……それは……」

「その反応……キスしたのか!? したんだな!?」

「もー! そんなこと聞かないでよ、バカ! 変態!」

「う……」


 「変態」と繰り返されて、父が目に見えて萎れていく。それを、リビングからやってきた母が見てクスリと笑った。


「だから心配いらないって言ったのに。ほんと、娘のことになると頭のネジが外れちゃうんだから」


 母の言葉に、蓮介は心の中で「母さんも辛辣だな」と呟き、苦笑いした。

 しかし、こうして家族で賑やかに過ごす時間が、なんだか久しぶりのような気がして嬉しかった。


* * *


 蓮介とふわりの作ったカレーが食卓に並んだ。全員で「いただきます」と手を合わせて、スプーンでカレーを掬っていく。蜂蜜のお陰で少し甘く、まろやかになったカレーは食べるのが止まらなくなる美味しさで、ふわりは、頬っぺたが落ちそうになりながらもモリモリ食べ進めていた。


「やっぱり、れんにいのカレー美味しい……」

「そうだな。蓮介も料理の腕を上げたもんだ」


 カレーを食べて落ち着きを取り戻した父が、満足げに頷きながらカレーを飲み込む。


「大学卒業したら、蓮介にもキッチンを任せてもいいかもなあ」

「ふふ。お手柔らかにお願いします」


 蓮介は柔らかく笑う。

 昨日の喧嘩なんて無かったような穏やかな時間だ。ふわりは日常が返ってきたことに安心して、にっこりと笑う。

 そのときだった。

 ふわりのスマホが、ブー、ブーと長く振動し始めたのだ。誰かから電話が掛かってきている。


「ごめん。少し出るね」


 ふわりは家族に断りを入れて、スマホの手帳型ケースを開く。すると画面に「テツ君」と表示されていた。

 ——もしかして、お父さんとのことで何か進展があったのかな……。ふわりは少し緊張しながらも電話に出た。


「もしもし、テツ君?」

『ふわりさん、今少しいいかな』

「うん。ご飯食べてるから、あんまりできないけど……」

『じゃあ、手短に言うね。グリフィンさんの件、父さんも手伝ってくれるって』

「ほんと!?」

「うん。6月9日の夜に、グリフィンさんを捕まえようって話になった」


 ——6月9日。たしか、創業祭の日だ。

 日中に時間があるならテツのことを誘いたいと思ったが、今はグリフィンのことを決めるのが先だ。そう思い、ふわりはぐっと堪える。


「そうなんだね。あの……私に何か手伝えることってあるかな」

『うん。お願いがあるんだ。あの……グリフィンさんと父さんが会う時に、一緒に来てほしくて。父さん1人でグリフィンさんの相手をするのは難しいからって』


 テツの言葉を聞き、ふわりは確かにそうかと頷く。

 オルラの話を聞く限り、グリフィンは相当な手練れなのだろう。きっと、テツの父にも協力者が必要なのだ。


「分かった。いいよ」

『ありがとう。それから……グリフィンさんを誘い出す方法も考えたくて』

「ああ、それなら、私のお兄ちゃんに相談してみるから、とりあえず安心して」


 ちらりと、隣に座った蓮介の方を見る。すると蓮介も大方ふわりの言いたいことに察しがついたのか、小さく頷いてくれた。


『分かった。ありがとう。あと……』


 そう言ったきり、テツの声が途切れた。

 どうしたのだろう。電波が悪くて声が聞こえないのだろうか。


「もしもし?」


 ふわりが声を掛けると、テツの柔らかい声で「ごめん。なんでもない」と返ってきた。

 その声に違和感を覚えて、ふわりは首を傾げる。どうしてだろうか。なんとなく、彼は無理しているような気がする……。


『ふわりさん』

「あ、はい!」

『最後にこれだけ聞いていい? あの、昼休みに、僕に何か話したそうにしてたみたいだけど、何かあった?』


 ——昼休み。……あ、そうだ。創業祭に誘おうとしてたんだった。


「あのね。6月9日なんだけど、昼に商店街で創業祭をやるんだ。テツ君が良ければ、一緒に行かない?」


 電話越しに、テツが行きを飲む気配がした。


「もしかして、都合が悪いかな?」


 気を遣って尋ねると、テツから「そんなことないよ」と優し声で返事が返ってきた。


『一緒に行こう。楽しみにしてるね』


 そう言う彼の声は穏やかで、何かを気にしている様子なんてない。嫌がっている様子もない。

 なのに、どうしてか違和感があった。根拠なんてないのに、直感が「テツ君は何かを隠してる」と訴えかけている。

 しかし、それを追求する前に「じゃあ、また明日ね」と電話が切れてしまった。

 ぼんやりとスマホを見つめるふわりを見て、両親が不思議そうに顔を見合わせる。


「ふわり、どうしたの?」

「カレーが冷めるし、考え事は後回しにしよう。な?」

「う、うん」


 ふわりはそれに頷き、スマホをテーブルの上に置いて夕飯に戻っていった。

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