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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
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37 君への答え

 蓮介がふわりを迎えに行った頃、芽生は部活動の後片付けを終えた所だった。

 部室で自分の荷物を取り、先輩方が部屋を出たのを確認して鍵を掛ける。


「芽生ちゃん、鍵ありがとう」

「はい」


 志帆に笑顔を向けられ、芽生も笑顔を作るが、どこか元気がなかった。理由は明白で、蓮介が部活に来なかったからだ。

 朝の会話を思い返すに、きっと彼も自分の気持ちに答えを見つけようと必死に悩んでいるのだろう。だから、今日も部活に来られなかったのかもしれない。

 ただ、そうは分かっていても、蓮介のことは心配だし、彼に「好意」を取られてしまっているのであれば返して欲しかった。だって、そうしないと芽生は蓮介の気持ちに向き合えないのだから。

 芽生の暗い表情を見た志帆は、心配そうな顔をした後、すぐに明るく「芽生ちゃん!」と声を掛ける。


「帰り、ちょっと付き合ってもらっていいかな?」

「はい……?」

「初風学園前のコンビニでね、瀬戸内レモンフェアがやってるんだよね。どれもすごく美味しくてさ、芽生ちゃんにも食べて欲しいんだ。私が奢るから、来てくれる?」

「い、いいんですか?」

「もちろん! 幸那ちゃんと英梨ちゃんも誘おうか」


 志帆に「行こ」と促されて、芽生は玄関に向かった。すると、そこでは幸那と英梨がスマホと睨めっこしながら「やばくない?」「買うしかないよね!?」と興奮した声を出していた。


「『きみはな』コンビニくじ、一等、桜小路先輩のフィギュアなんだよ!」

「そのくじ、この辺でやってる?」

「初風学園前のコンビニでやってるって! 行こ!」


 盛り上がる2人を、志帆はにっこりと眺めた後で、「おふたりさーん」と声を掛けた。


「これからコンビニに行くの?」

「ああ、はい! 一刻も争う用ができたので!」

「私と芽生ちゃんもお菓子買うから、着いて行ってもいい? 2人にも瀬戸内レモンスイーツ買ってあげる」

「まじですか!?」


 幸那と英梨の目が輝く。志帆はそれを見て胸にどんと拳を当てた。


「任せなさい! ファミレスバイトで稼いでる先輩の財布を侮るなよ~」

「志帆先輩、太っ腹ー!」

「じゃあ、早く行きましょう!」


 軽い足取りで先に進んでいく幸那と英梨に微笑んだ後、志帆は芽生に「面白い2人だよね」と笑いかけた。


「見てるだけで、元気になっちゃう。芽生ちゃんもそう思わない?」

「ふふ、たしかに。好きなものではしゃげるのって、すごく素敵ですよね」


 芽生の表情が和らいだのを見て、志帆は満足げに笑う。


「そうだよね。蓮介先輩とバドしてる時の芽生ちゃんも同じだよ。すごく、楽しそうな顔してる」

「そうですか?」

「うん。最近は会えてないけど、きっとそのうち来てくれるよ。だから待ってみよ」

「……はい」

 芽生が頷くと、志帆は両手を合わせてパンッと音を立てた。

「よし。じゃあ、早くコンビニに行きましょうか!」


 スタスタと歩いて行く志帆に並んで、芽生も歩道を歩く。


(そのうち来てくれる、か。信じて待ってみようかな)


 心の中でそう呟き、芽生は志帆と共にコンビニへ向かった。


* * *


 初風学園前のコンビニに入ると、先に来ていた幸那と英梨が種類違いのアクリルキーホルダーを手に笑っていた。


「一等はダメだったねー」


 幸那が頬を掻く。


「まあ、四等のミニキャラアクキーも可愛いし、許してやりましょう」

「許すって、何を?」

「自分の運」

「何それ」


 2人が笑い合ってるのを見て、志帆も笑いながら「さあ、好きなお菓子を選びなされ」と2人の肩を叩いた。

 幸那と英梨はそれぞれ返事をして、瀬戸内レモンスイーツの棚に向かう。芽生もそれに続こうとした、その時だった。


「1200円です。セルフレジでお会計お願いします」

「はい」


 聞き覚えのある返事が聞こえて、思わずレジの方を見てしまった。

 背の高いオールバックの金髪。普段着のパーカー姿。朝も見た。間違いない。


「蓮介先輩……」


 芽生は呟く。しかし、彼の所に行こうとする足が動かない。声を掛けていいのか、勇気が出ない。——蓮介先輩が私に声を掛けてくれるのを待つべきなんじゃないか。 そんな考えが頭を過る。

 レジの方を見たまま固まってしまっている芽生に、志帆たちも気づいた。そして、彼女が誰を見ているのかもすぐに分かった。


「芽生ちゃん」


 3人が芽生の背中を押す。


「行っておいで。大丈夫だから」


 振り返ると、大切な先輩3人の笑顔があった。


「大丈夫だよ」


 その優しい声に、強く励まされて、芽生の足が一歩前に出た。

 ――そうだ。待っているなんて、それだけじゃダメだ。

 朝と同じように、蓮介先輩の手を掴まなければ。

 相手が変わるのを待っているだけなんて、そんなの私らしくない。相手のために、考えて考えて……自分にできる事を精いっぱいするのが私だ!

 芽生は会計を終えてコンビニを出ようとする蓮介の腕を掴んだ。


「蓮介先輩!」


 聞き慣れた声に、蓮介は目を丸くして振り返る。


「芽生ちゃん、どうしてここに……」

「あ、あの……! 今、時間、いいですか?」


 途中、つっかえながらも、芽生は彼の目を見て尋ねることができた。

 そんな一生懸命な彼女の姿を見た蓮介もまた、いつものように優しい笑顔で頷くのだった。


「いいよ。外でいいかな」

「はっ、はい!」


 芽生は蓮介の後をついていって、コンビニの外に出た。

 自動ドアをくぐると、初夏の夜の少し涼しい風が芽生に吹き抜けた。まだ、夏はもう少しだけ先なのかもしれない。

 コンビニの入り口から少し脇にそれた場所で、蓮介は袋から300mlのペットボトルを取り出した。


「芽生ちゃん、アールグレイのミルクティーって飲む?」

「あーるぐれい……? 紅茶は好きですけど」

「そっか、じゃあ、もしよかったらあげる」


 蓮介にアールグレイミルクティー手渡され、芽生は戸惑いながら尋ねる。


「あの、蓮介先輩が飲むつもりだったんじゃ……」

「ううん。それは父さんに車貸してもらったお礼に買ったんだ。でも、別に帰りに買い直せばいいかなって」

「でも……」


 芽生は申し訳なさそうに俯く。それを見た蓮介はクスリと笑って続けた。


「ごめんね。俺、ちょっと緊張しちゃってるみたいだ」

「緊張?」

「うん。……自分の気持ちを伝えるのが、少し怖くて」


 蓮介は静かに空を見上げた。夕日が沈み切った夜になりたての空には少し青が残っている。しかし、きっともう数分もしないうちに暗くなってしまうだろう。そうなるのが、芽生はほんの少し怖かった。暗くなったら家に帰らなくてはいけない。そしたら、蓮介には次いつ会えるか分からなかったからだ。


「私、蓮介先輩の気持ちが知りたいです。今日の内に。また会えなくなる前に」


 芽生は真っ直ぐに蓮介を見つめた。それに微笑んで、蓮介は口を開く。


「俺、復讐なんてやめるよ。復讐をやめて、出会った時と同じように、家族やチームメイトや、芽生ちゃんと一緒に生きようと思う。そしたら、ばあちゃんもきっと喜んでくれるから」

「ほんとですか……!」


 芽生の表情が自然と明るくなる。


「誰も傷つけない道を、選んでくれたんですね。ありがとうございます」

「ううん。お礼を言うのは俺の方。芽生ちゃん。俺のこと……助けてくれてありがとう」

「そんな、助けるだなんて」


 芽生が照れ臭そうに顔を赤くしていると、蓮介が「あと1つだけ」と口を開いた。


「芽生ちゃんの気持ち、返したいんだ。受け取って貰えるかな?」

「も、もちろんです」

「うん。じゃあ……」


 蓮介の手が芽生の額に触れる。

 淡い黄色の光が、蓮介の手を包んだ、そのときだった。


 ピリリリリ……。


 芽生のスマホが鳴りだしたのだ。誰かから電話が来ているようだった。


「あ、ごめんなさい」


 芽生は慌ててバッグからスマホを取り出し、電話を取る。


「もしもし?」

『姉ちゃん? オレ。冬紀だけど……』


 カラッとした声と共に、人込みの騒がしさが耳に入ってくる。冬紀は出かけているのだろうか。


「冬紀。出かけてるの?」

『うん。それで、迎えに来てほしくて』

「どこにいるの?」

『初風プレジャーパーク。美世と一緒なんだけど、もし大丈夫だったら美世のことも送ってもらえないかな』

「ああ、いいけど、私まだ帰ってなくて、車取りに行くから待たせるかも……」


 芽生が困った顔をしていると、蓮介が「車がいるの?」と尋ねてきた。


「ああ、はい。弟を初風プレパまで迎えに行かなきゃいけなくて」

「俺も妹を迎えにそこに行くから、一緒に乗ってく?」

「いいんですか? 弟と、その友達も送らなきゃいけませんけど……」

「大丈夫。6人乗りだから」


 蓮介がニコリと微笑んでくれたのを確認して、芽生は「ありがとうございます」と頷いた後、電話越しに「これから先輩と一緒に迎えに行くよ。待ってて」と伝えて電話を切った。


「蓮介先輩、ありがとうございます。すみません、迷惑かけて……」

「大丈夫。芽生ちゃんの気持ちを返すのは、後でだね。ほら、乗って」

「はい」


 蓮介に促されて、芽生は助手席に乗り込んだ。隣で蓮介がエンジンを掛け、ハンドルを握りながら車を発進させる。

 真剣な顔で車を運転していく彼の横顔は、やはり格好いいもので、芽生は気持ちを奪われる前の自分がどうして蓮介に恋をしていたのか分かったような気がした。


(これは好きになってしまうよね……)


 ずっと見つめているのが照れ臭くなり、芽生は視線を外して車窓からの景色を眺めることにした。

 見慣れた街並みの景色が流れていく。もう夜だ。街灯が光っている。今まで、部活が終わっては歩いて帰った馴染みのある夜の街。しかしどうしてか、芽生にはその景色がいつもより愛おしく思えた。

 ——きっと、大切な先輩が傍にいるからだろうな。 そう思い、芽生は頬を染めながら微笑んだ。


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