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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第三章 君が変えてくれた世界
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34 変わらない思い

 美世と冬紀は、家庭科室でファッションショーの説明を聞いていた。家庭科室内には他にも6人ほど生徒達がおり、彼らに向かって、手芸部顧問の教員がにこやかな表情で今後の流れをホワイトボードに書き込んでいく。


「ファッションショーに参加する生徒は、6月2日午後2時にリハーサルを行うので、忘れずに高等部の体育館に集合してくださいね。服飾担当の生徒は、それまでに衣装の調整を済ませておいてください。よろしくお願いします」


 「何か質問はありますか?」という顧問の言葉に特に誰も手を挙げず、では解散、ということになった。室内に談笑する声が芽生えて、徐々に大きくなる。どうやら、美世たち以外の6人は友人同士だったようだ。


「衣装どうなった?」

「えー、まだ内緒。当日のお楽しみ」

「てか、ファッションショーって何か賞みたいなのあったっけ?」

「あー、なんかお客さんに投票してもらって「優勝」を決めるって話は聞いたな」

「へえ。そうなんだ。まあでも……」


 6人のうちの1人が、ちらりと美世の方を振り返ってこそりと笑う。


「安住さんには敵わないよ」


 すると、他の生徒達も「華やかさが違うもんね」「俳優とモデルの娘さんでしょ」とクスクス笑う。それが恥ずかしくて美世は席に着いたまま俯いた。


(好きで2人の子どもに生まれたわけじゃないし)


 心の中で呟く。

 両親が芸能人じゃなかったら。何度もそう考えることはあった。もしそうなら、きっと2人に何のプレッシャーも感じず、普通の親子として関われて、冬紀と離れろと言われたときも反論できていたかもしれない。

 しかし、そんな「もしも」はもうやめだ。

 絶対に、2人に冬紀と一緒にいることを認めてもらうのだ。だから、ファッションショーではなんとしても結果を残したい。そのために使える武器は、ルックスでもレッテルでも、何だって使ってやるつもりだった。

 しかし、「芸能人の子ども」としか見られないのは悲しいし、「安住美世」という1人の人間として見て欲しいという気持ちを無視するのは苦しかった。

 そして、冬紀はそれを分かっているようだった。


「オレ達、負けないよ」


 女子生徒たちに大きな声で言いながら、不敵に微笑む。


「家族の仕事なんて関係ない。八坂冬紀と安住美世っていう一生徒として、オレと美世が優勝するから」


 冬紀の笑顔を見た女子生徒たちは決まり悪そうに顔を見合わせた後、「ごめんなさい!」と急ぎ足で家庭科室を出ていってしまった。

 それを見て、冬紀は溜息をつく。


「あーいう人たちって、なんだかんだ多いよね。美世、気にする必要ないからね」


 そう言って、冬紀は美世を安心させようと微笑んでくれた。それに一瞬、安堵の表情を浮かべた美世だったが、すぐに真剣な顔で立ち上がった。


「冬紀。私、あんたの服を絶対に優勝させてみせるから。……パパとママの前で」


 美世の言葉に、冬紀は目を丸くする。


「ご両親が来るの?」

「うん。冬紀の頑張りを見てって、頼んだの。冬紀が、どんなに努力して私の傍にいてくれようとしてるのか、結果を残して2人に証明する。だって……」


 美世は力強く微笑んで、告げた。


「私、これからも冬紀と一緒にいたいから」


 窓から差し込む午後の日差しが、美世の美しい微笑みを柔らかく照らす。それがあまりにも綺麗で、冬紀は息を飲んでしまった。

 ——好きだ。

 そう言いかけて、口を噤んだ。

 この想いを伝えるのは、彼女の両親に認めてもらってからだ。そう思い、ぐっと堪える。

 それに、今はもっと伝えるべき言葉があると思った。


「美世1人の努力で優勝するんじゃない。オレと美世、2人で優勝するんだ」


 そう言って、二ッと笑う。


「一緒に頑張ろう」

「うん」


 美世が頷いてくれたのを確認して、冬紀は立ち上がった。

 今日はもう学校を出なければ。少し用事があるのだった。


「美世、オレもう行かないと」

「え?」

「ちょっと用事があるんだ」

「そ……そうなんだ」


 彼女の表情が、分かりやすく曇る。昔から見てきたから分かるが、これは寂しがってるときの表情だ。

 自分にそんな表情を見せてくれるのが嬉しくて、どうにかしてあげたい気持ちに駆られてしまう。


「美世も一緒に来る?」


 照れ笑いをしながらそう尋ねると、美世は嬉しいのをぐっと堪えるように口を真一文字に結んだ。この表情も、昔から変わっていない。可愛いな、なんて冬紀は思う。


「どうする?」

「あ、あんまり遅くならないなら」

「大丈夫。じゃあ、パパッと行こ」


 冬紀は美世にニコリと微笑んで、彼女と並びながら家庭科室を後にした。


* * *


 2人がやってきたのは「初風プレジャーパーク」と呼ばれる複合商業施設だ。ここには大きく分けて3つのエリアがある。1つ目は動物園の「アニマルエリア」2つ目は買い物が楽しめる「ショッピングエリア」3つ目は遊園地になっている「プレイエリア」だ。アニマルエリアとプレイエリアは入場料が必要だが、ショッピングエリアは無料で開放されている。

 冬紀は美世を連れて、ショッピングエリアに続くピンク色のゲートをくぐった。ゲートの先は、まるで海外のバザールのような世界が広がっており、通路を挟んで右にも左にもお洒落な店がずらりと並んでいた。

 初風市に住んでいる以上、美世も何度か目にした光景ではあったが、改めて見るとやはり心が躍る。


「えっと、アクセサリーショップは、と……こっちか」


 手元のスマホに表示されたマップを見ながら進んでいく冬紀に、美世も遅れずついて行く。


「ここ」


 冬紀に促されて入った店は、「Angel wing」という名前のアクセサリーショップだった。白と青を基調にした店内には、指輪やネックレスなどの金属類のアクセサリーがならんでいる他、奥のスペースに手芸コーナーもあり、そこでオリジナルアクセサリーも作れるようだった。

 しかし、冬紀はそのどちらにも興味を持つ様子がなく、真っ直ぐにレジカウンターに歩いて行く。


「すみません。先日ブレスレット体験でお伺いした八坂冬紀です」

 冬紀がレシートを見せると、店員が「ああ」と顔を綻ばせる。

「先日、来てくださった方ですね。切らしていたビーズも入ってますよ。手芸コーナーにご案内しますね」

「ありがとうございます。あ、一緒に来てる子も入れてもらっていいですか?」

「ええ、今はスペースが空いてますし、お2人でも構いませんが……ブレスレット体験は1000円かかります。ブレスレット作り、なさいますか?」


 店員に問われて、美世は慌てて頷く。先日お小遣いも貰ったし、1000円なら出せる範囲だった。


「私も体験したいです」

 美世の答えに、店員はニコリと微笑む。

「分かりました。では、代金を頂きますね」


 美世が1000円支払った後、店員は2人を案内して手芸コーナーの奥の席に座らせた。テーブルの上には色とりどりのビーズと糸があり、これらを使ってブレスレットを作ってください、とのことだった。

 店員に「ありがとうございます」と声を掛けた後、2人は糸に通すビーズを選んでいく。

 冬紀が迷いなく黄色の花形のビーズと緑色の丸いビーズを選んでいくのに対して、美世はどれを選ぼうか考え込んでしまっていた。それを見た冬紀はクスリと笑って「好きなの選びなよ」と美世に言う。


「好きなのって言っても、私は何色が好きなのか……」

「分からない?」

「うん」


 美世が頷くと、冬紀は穏やかな声で告げる。


「好きな空の色とか、好きな動物の色とか、そんなんでいいと思うよ」

「冬紀のそれも、好きなものの色とか、そういうの?」

「んー、これは違うね」


 冬紀は優しく目を伏せて、ビーズを糸に通しながら続ける。


「これは、美世に伝えたい気持ちの色」


 その答えを聞いて、美世は首を傾げた。


「私に伝えたい気持ちの色……?」

「そ。帰ったらジニアの花言葉で検索してみて」

「ジニア……分かった」


 美世は頷き、もう一度ビーズの入った箱に目を落とす。

 赤、青、緑、黄色、透明……様々な色と様々な形のビーズが箱の中を彩っている。

 冬紀の言葉を思い出す。

 ——美世に伝えたい気持ちの色。

 その言葉を頭の中で繰り返すと、不思議とビーズを選ぶ手がスイスイ動いた。

 青と、明るい緑。そして、黄色。

 美世から見た、冬紀らしい色が集まっていく。

 やがてできあがったブレスレットは、鮮やかなクジャクを思い出す色合いのものだった。


「よし、できた」


 傍らの冬紀も伸びをして、満足げな顔でブレスレットを手に乗せた。


「うん。あのワンピースの良いアクセントになりそう。美世、手を出して」

「手?」


 美世が手を出すと、冬紀は彼女の手首に優しく触れ、そっと自分が作ったブレスレットを通した。


「おお、いーじゃん。似合ってる」

「これ、私に?」

「そうだよ。ファッションショーで着けるもらおうかなと思って」

「そうなんだ……」


 美世は彼が付けてくれたブレスレットを見つめた後、そっとそれに触れた。冬紀が自分のためにこんなに素敵なものを作ってくれた。それだけですごく嬉しかった。ブレスレットに熱はないはずなのに、どういう訳かその場所から体に温もりが広がるように感じる。


「ありがと。大事に着ける」

 美世が頬を染めながら微笑むと、冬紀も嬉しそうに頷いてくれた。

「うん。そう言って貰えて嬉しい」

「あ……そうだ。私からも、これ」


 美世は自分の作ったクジャク色のブレスレットを冬紀に手渡した。


「いつの間にか、冬紀のこと考えて作っちゃったんだ。冬紀らしい色になったし、もしよかったらあげる」

「まじ? いいの?」

「うん。ていうか、着けてくれると嬉しい、かな……」


 美世がはにかむのが可愛くて、冬紀は頬を緩めながら彼女からブレスレットを受け取って、自分の手首に着けた。クジャクらしい色合いが自分の好みそのもので、思わず顔を綻ばせる。


「ありがとう。綺麗だね。クジャクみたい」

「うん。何でかな。冬紀を見るとクジャクを思い出すんだよね」

「へー、そうなんだ。多分だけど……いや、そうだ」


 冬紀はニコリと笑って、「まだ時間ある?」と尋ねる。それを聞いた美世がスマホで時間を確認すると、時刻は夕方4時半だった。遅くても5時に帰ることができれば問題ないだろう。


「ああ、あと30分くらいなら」

「じゃあさ、ちょっとクジャクを見に行かない?」

「え?」

「クジャクを見たら、オレを見るとクジャクを思い出す理由が分かるかも! ほら、行こ」

「あ、ああ……うん」


 2人はテーブルを片づけて、店員に挨拶をした後、アニマルエリアへ続くゲートに向かって歩き出した。


* * *


 閉園間際の動物園は、客もまばらで静かだった。

 夕焼け空の下、冬紀と美世はクジャク園の前に来ていた。檻の外から見るクジャクは青と緑の鮮やかな羽を広げており、夕方とはいえ目を奪われてしまう美しさだった。


「最後に一緒に来たの、たしか小学校の遠足の時だよね」

 冬紀が微笑む。美世も昔の記憶をたどりながら、頷いた。たしかに、昔、冬紀と一緒にクジャクを見た記憶がある。だからさっきも冬紀を見てクジャクを思い出したのだろう。

「あのときも、私と冬紀で一緒にクジャクを見たんだっけ」

「そうそう。オレ、あのとき「クジャクと美世って似てるな」って大はしゃぎだった」

「私とクジャクが?」


 美世が首を傾げると、冬紀は懐かしそうにクジャクを見つめながら笑う。


「クジャクも美世も、綺麗だったからさ」


 その言葉を聞いて、美世は照れくさそうに俯く。綺麗だ、なんて昔から思われてたのが気恥ずかしい。美世が赤い顔で俯いているのを見て、冬紀は笑い交じりに「でも」と続けた。


「羽が綺麗なクジャクって雄だけだったんだよね」

「あ……確かにそうじゃない! もう!」

「あはは、ごめん」


 笑う冬紀の脇腹を小突きながら、美世は頬を膨らませる。そんな彼女の表情も可愛くて、冬紀は笑うのをやめられなかった。


「いつまで笑ってるつもり?」

「ごめん。なんかさ、美世を見てたら笑いが止まらなくて……」

「はあ?」

「ああ、バカにしてる訳じゃないよ。こうやって、美世と思い出の場所に来れて、美世の色んな顔が見れたら嬉しくてさ」


 冬紀はそう言うと、ブレスレットが着けられた彼女の右手をそっと握った。彼女がピクリとしたのが伝わってきたが、それにニコリと微笑んで続ける。


「オレも、これからもずっと美世と一緒にいたい」

「冬紀……」


 美世は頬を染めながらから彼の手をきゅっと握り返す。


「私もだよ」


 夕方5時のチャイムが鳴る。

 しかし、お互いの手を離せそうになかった。


「ねえ、もう少しだけ、一緒にいてもいいかな」


 美世が尋ねるのに、冬紀は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を赤くしながら頷いてくれた。


「いいよ。ここ、もう閉まっちゃうし、ショッピングエリアのカフェにでも行こっか」


 2人は手を離さないまま、ショッピングエリアのカフェの方へゆっくりと歩いて行った。

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