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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第二章 復讐の闇を乗り越えて
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30 「前」へ

 数学の授業が終わった後、体育、情報と移動教室が続き、ふわりにはオルラや冬紀と話す暇もなかった。4限の論理国語の授業が終わり、やっと迎えた昼休み。ふわりは、教科書を片づけて後ろのオルラの席を振り返った。


「オルラちゃん」


 ふわりが声を掛けると、オルラは申し訳なさそうに目を伏せる。


「あ、佐藤さん……朝はごめんなさい」

「ううん。大丈夫」


 ふわりは普段通りの優しい表情を見せて、オルラの机に自分の弁当を置く。


「ねえ、一緒に食べながらお話しない?」

「ああ、いいですよ。……でも、大丈夫なんですか? テツ君や安住さんと一緒じゃなくて」


 噂をすればなんとやら。オルラが2人の名前を出したその時、丁度ふわりと昼食を取ろうとしていたであろう美世とテツが弁当を持ってやってきた。


「ふわり、お昼一緒に……」

「佐藤さん、一緒に食べない?」


 お互いの声を聞いて、美世とテツは顔を見合わせた。そうしているうちに、教室のドアが開いて弁当を持った冬紀もやってくる。


「ふわりん、お昼食べながら話せるかな?」


 ふわりを囲んだ3人が一斉に冬紀の方を見た。その様子を見て、冬紀は戸惑う。


「え、何……」

「八坂君も佐藤さんと?」

「ああ、ふわりんに用があって……もしかして美世とテツも?」

「僕は佐藤さんと一緒に食べたかったから」

「私もふわりとお喋りしたくて」


 3人に見つめられ、ふわりは、どうしようかと苦笑いした。こんなにたくさんの人から昼食の誘いを受けるなんて初めてだ。誰の誘いも無下にしたくないが、こういう時はどうすれば良いのだろう。


「ふふっ、佐藤さん、大人気ですね」


 オルラはクスリと笑ってふわりを見る。


「皆さんと一緒でも、私は大丈夫ですよ」

「あ……じゃあ、机でもくっつけてみんなで食べよう」


 ふわりがそう言って立ち上がった時、ちょうど桂もふわり達のところに歩いてきた。桂の手には、普段彼が使っている弁当の入った黒いバッグと、彼には似合わないウサギ柄の黄色いバッグがさがっていた。


「オルラ、お前弁当忘れていっただろ」


 桂はそう言って、オルラの机にウサギ柄のバッグを置く。オルラは「あら、そうだったかも」と口元を手で押さえた。


「ありがとう。キッチンに置きっぱなしだったかしら?」

「ああ。家出る前に気が付いて持ってきた」


 親し気な2人を見て、ふわり達は目を丸くしていた。2人は林間学校で同じ班だったし、仲が良くなるのは分かる。だが、2人の会話を聞く限りだと……。


「桂君とオルラちゃん、一緒に暮らしてるの?」


 ふわりに尋ねられ、桂は目を見開いて硬直した。何も言えずにいる桂の代わりに、オルラがにこやかに答える。


「はい。訳があって、桂君の家でお世話になってます」

「桂、まじか……」


 美世が呆然と桂を見る。たしかに林間学校では「桂にも桂を見てくれる恋人ができる」と励ました。だが、恋人云々の前に家族となってしまうとは。

 美世の驚いた顔を見て、桂は慌てて手を横に振る。


「言っとくけど、俺達、変な関係にはなってないからな! な、オルラ!」

「はい。普通に仲良しです。寝てる時に手を繋ぐくらいには」


 オルラの言葉を聞き、その場にいた全員がざわつき始める。


「い、一緒に寝てるの?」


 戸惑いつつも興味津々といった様子のふわり。


「へー、B組には夫婦がいるんだ」


 初対面にも関わらず、桂の反応をにやにやと面白そうに見る冬紀。


「桂君のイメージ、ちょっと変わったかも……」


 顔を赤くしながら笑うテツ。


「あんた責任取りなさいよ」


 じとっとした目で桂を見つめる美世。


 4人それぞれの反応で詰められ、桂は顔を赤くしながら大きな声で反論する。


「っ……ほ、ほんとに、悪いことはしてないからな! オルラが困ってたから放っておけなくて助けただけだから!」

「ふーん」


 4人は声を揃える。それがいたたまれなくて、桂は慌てて話題を変えた。


「てか、昼飯食うんだろ!? こんなに大人数だと教室じゃきついし、屋上行くぞ」

「あら、桂君も一緒に食べるの?」

「う……別にいいだろ」

「ふふっ、それもそうね」


 オルラはクスリと笑った後、「じゃあ行きましょうか」とふわり達を促した。


 4人はそれに頷き、弁当を持って教室を出た。ふわりは前を歩く桂とオルラ、そして隣を歩くテツを見て微笑む。後ろには美世と冬紀もいた。


(こんなに賑やかなお昼休み、初めてかも)


 仲の良い友達や恋人に囲まれて歩きながら、ふわりは胸を躍らせた。


* * *


 ふわり達は屋上の端、落下防止のフェンスの手前で輪になって座った。ふわりの隣にテツと美世が座り、テツの隣を桂、オルラ、冬紀の順に座って丸くなる。6人はそれぞれ弁当箱を開けると「いただきます」と手を合わせて箸を動かした。


 冬紀は唐揚げを一口で食べた後、「ふわりん」と彼女に声を掛ける。


「何?」

「今朝はごめん」


 冬紀は申し訳なさそうに眉尻を下げてふわりを見つめた。


「ふわりんが元気無さそうなの気づいてたのに、自分の事情を優先しちゃった。……苦しい思いさせたよね?」

「あ……ううん。こっちこそ、詳しいこと話せなくてごめんね」


 ふわりは落ち着いた様子で謝る。それを見た美世は心配そうにふわりの方を見た。


「何かあったの?」

「ああ……うん。家族のことで少しトラブルがあったんだ。八坂ちゃんのお姉さんのことも関係してるし、2人も聞いてくれるかな?」


 冬紀と美世が頷いたのを確認し、ふわりは一呼吸おいて口を開く。


「11年前、魔導士だった私のおばあちゃんがLODAMって組織の人に殺されたの。おばあちゃんは、自分が殺されたことで私とお兄ちゃんが傷つかないために、忘却魔法で記憶を封じ込めてた。でも、お兄ちゃんはその記憶を思い出したみたいで、グリフィンさんっていうおばあちゃんのお弟子さんと一緒にLODAMに復讐しようとしてるんだ。八坂ちゃんのお姉さんの恋心も、私のお兄ちゃん……佐藤蓮介が忘却魔法で消したんだと思う。お姉さんを巻き込みたくなかったから」

「そうだったんだ……じゃあ、ふわりんのお兄さんに頼めば、姉ちゃんの恋心も取り戻せるかな?」

「どうだろう。れんにいがそれを望むかどうか……。術者以外の魔法でも忘却魔法は解除できるけど、れんにいは心理魔法が上手でね、私の魔法じゃ難しいと思う」

「そっか……困ったな」


 冬紀の表情に影が差す。まさか、姉が好きだった相手自ら忘却魔法をかけていたとは。

 蓮介が芽生の身を案じているのが事実である以上、恐らく蓮介も芽生に特別な感情を向けているのだろう。だが、蓮介はそれよりも復讐を優先しようとしているのだ。そうなると、芽生の初恋は実らないどころか取り戻せるかも怪しい。

 冬紀の不安げな顔を見たふわりは、すぐに真剣な表情になり口を開いた。


「大丈夫。私がれんにいを説得する。……れんにいだけじゃない。グリフィンさんのことも止める」


 全員が目を丸くする中、ふわりは優しく微笑んだ。


「魔法は誰かを傷つけるためのものじゃない。きっと、おばあちゃんだってそう思ってる。だから……復讐なんてさせない。魔法や、過去に、誰の人生も奪わせない」


 爽やかな初夏の風が、さーっと流れてふわりの長い髪を揺らす。風に吹かれながら微笑むふわりは、もう入学したての頃の弱くて迷いのあるふわりではなかった。テツや友達、そして家族の存在がふわりを大きく成長させていたのだ。

 強く、優しい魔導士。

 今の彼女は、在りし日のアリスと同じ立派な魔導士になっていた。


「佐藤さん、私も手伝います」


 オルラが声を上げる。


「私も、グリフィン会長の復讐を止めたいのです。彼に間違った道を選んでほしくない。人殺しになってほしくない……だから、協力させてください」

「オレも力になりたい」


 オルラの隣で冬紀が二ッと笑う。


「ふわりんみたいに魔法は使えないけど、意外とできることがあるかも」

「私も! ふわり、何か相談に乗れることがあったら言って?」

「オルラちゃん、八坂ちゃん、みよちん……ありがと」


 顔を見合わせて笑いあう4人の様子を見ていた桂も、優しく微笑んで口を開いた。


「俺も、何かできることがあったら言ってくれよ。やっぱ人数多い方がいいだろ」

「うん。桂君、ありがとう」


 ふわりに微笑まれ、桂は顔を赤くしながら目を伏せた。やはり、ふわりの笑顔は好きだ。見ているだけで胸が躍るし、ずっと見ていたいとも思う。この気持ちだって伝えたい。しかし……。


「佐藤さん、僕も」


 優しく微笑むテツの顔を見たふわりの、花開くような笑顔。この笑顔は、絶対に自分には見せてくれないだろう。


「うん……!」


 こうやって、太陽よりも眩しく、それでいて陽だまりのように暖かく笑っているふわりが好きだった。彼女がこんな風に笑ってくれることをもっと早く知ることができていたら。そんな思いは尽きない。だが、彼女が自分らしく笑えるようになったのは、テツがこの学校に来てからだ。テツが、ふわりを救ってくれたんだろう。だったら……自分の出る幕はない。

 ただ、2人の幸せを祈るまでだ。

 それがきっと、正しい道だ。

 桂は、目を閉じて小さく微笑んだ。


「みんな、ありがとう」


 ふわりの明るい声が聞こえる。


「みんながいてくれれば、私は勇気を出して前に進めるよ」


 桂が目を開けると、ふわりの力強い笑顔が飛び込んできた。


「みんなと仲良くなれて、本当によかった」


 ——みんな。その中に俺も入ってるのかな。


 林間学校の時は眼中になかった俺も、佐藤の友達になれたのかな。

 ああ、もしそうだとしたら……すごく嬉しい。

 きっと、佐藤に恋したことは一生忘れないんだろうな。

 太陽みたいに眩しくて、暖かい思い出になって、いつか温度が無くなる日が来ても、俺はずっと胸の片隅に残してるんだろうな。

 佐藤が初めて見せてくれた、あの笑顔のこと。


「よし、そうと決まれば作戦会議だね」


 冬紀が伸びをしながら口を開く。


「話を聞く感じだと、ふわりんのお兄さんを巻き込んだのはグリフィンさんって人っぽいし、その人を止めないことにはどうにもならなそーだね」

「ねえ、ふわり。グリフィンさんってどんな人なの?」


 美世に尋ねられ、ふわりは宙を見ながら答える。


「魔導士協会っていう魔導士の組織の会長で、おばあちゃんのお弟子さん。背が2mあるって噂の、厳つい顔したおじさん……ってことしか知らないな。オルラちゃんの方が詳しいんじゃない?」

「そうですね。佐藤さんの情報に付け加えるとしたら……偉大な魔導士。攻撃魔法も防御魔法も心理魔法も、どれも一級品です。私と佐藤さんでは、歯が立たないかも……」

「うう、やっぱりそうなんだ……」


 肩を落とすふわりを見て、オルラはすぐに口を開く。


「あくまでも、私と佐藤さんだけで戦ったらの話です。他に味方がいれば、実力を覆せるかもしれません」

「味方……たとえば?」

「……LODAM、とか」


 オルラの言葉を聞き、その場にいた全員が驚いた表情を浮かべた。


「さっきふわりも言ってたけど、LODAMって、世界史で習ったあの? たしか、魔導士狩りをする専門組織だったわよね?」


 美世が戸惑いながら尋ねる。


「そんな組織と手を組んで大丈夫なの? 下手したら、ふわりやオルラさんも危ない目に遭うんじゃ……」

「いえ。今のLODAMは、「魔導士と人間の平和維持のための組織」ですから……佐藤さんのおばあさん、アリス・スチュワートが魔導士狩りを止めて下さったので、私や佐藤さんに危害が及ぶ心配もないはずです。それに、今回の件では私達と利害が一致しています。だから大丈夫でしょう」

「でも、LODAMってイギリスの組織でしょ? どうやって味方につけるの?」

「LODAMには世界中に支部があるのです。魔導士は世界中に散らばっているのでね。もちろん日本にも支部があります。だから、日本支部の長官に助けを求めれば、もしかしたら協力して下さるかもしれません」

「日本支部長官……それって誰?」


 全員が注目する中、オルラは静かに口を開く。


「……木村琉貴」


 オルラの言葉を聞いた途端、テツの目が見開かれた。


「そんな」


 テツの口から漏れた小さな声を、その場にいた全員は聞き逃さなかった。

 ふわり達に見つめられる中、テツは目を伏せて小さく呟く。


「僕の、父さんだ……」

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