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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第一章 恋と魔法と始まりの日々
3/55

2 親友のチェック

「おはようございます!」


 本鈴が鳴る直前に、ふわりとテツは教室に滑り込んだ。他の学生は既に席についており、2人のことを不思議そうな顔で見る。

 ふわりはその視線を気まずく思いながら、廊下側から2列目の最前列の席に座った茶髪の女子に、こそりと声を掛けた。


「みよちん、おはよう」

「おはよ。……あんた、今日はもうサボるのかと思ってたよ」


 美世はそう言うと、美しく整ったまつ毛の長い目を細めつつ、肩まで伸びた髪をサラリとかきあげた。


「そのつもりだったんだけど……」


 ふわりはチラリと自分の席に向かうテツのことを見る。その様子を見て、美世は口の端を僅かに上げた。


「後で話聞かせなさいよ」

「う、うん……! じゃあね」


 ふわりはスタスタと自分の席に向かい、鞄を机の横に掛けて席に着く。すると、丁度よく教室のドアが開いて、黒髪をポニーテールにした若い女性教師が入ってきた。


「みんな、おはよう」


 彼女は教卓の前に来ると、黒板に名前を書いていく。


「今年1年、君達の担任をすることになった、泉麗佳だ。担当教科は数学で、部活は美術部。よろしく」


 泉はニコリと微笑むと、てきぱきと指示を出す。


「さて、これから入学式だ。名簿順に並んで体育館に行くぞ」


 それに頷いて、生徒たちがぞくぞくと廊下に出ていく。ふわりもそれに続いて、廊下に並んで体育館へと向かった。


* * *


 入学式で、理事長の長い話を聞き終え、帰りのホームルームも終わりを迎えようとしている。


「週末を挟んで来週の月曜日から、部活の見学期間が始まる。何か入りたい部活がある人は、ぜひ見学に行ってみなさい。ちなみに……美術部はいつでも入部大歓迎だ」


 泉はそう言って微笑む。


「では、また来週。気を付けて帰りなさい。さようなら」


 泉の挨拶の後に、生徒たちも続く。


「さようならー」


 チャイムが鳴り、教室の中が一気に騒がしくなった。ふわりは帰り支度をして、最前列にいる美世の元に向かう。


「みよちん! おつかれ」

「おつかれー。……ふわり、あんた今日は家の手伝い休み?」

「うん。今日は入学式だから手伝わなくていいよって言われてる」

「そ。丁度いいわ」


 美世はニヤリと笑って、頬杖をつきながらふわりを見た。


「ねえ、朝、一緒に来たあいつとどんな関係なの?」

「え?」

「詳しく聞かせなさいよ。あんたを学校来る気にさせたあいつのこと、めっちゃ気になるんだけど」


 美世に尋ねられ、ふわりは頬を染める。


「て、テツ君は……」

「ふうん、あだな呼びなんだ」

「もうっ、みよちんちょっと黙って!」


 頬を膨らませるふわりを見て、美世はケラケラ笑いながら「ごめんごめん」と謝る。

 それをじとっとした目で見た後、ふわりは胸に手を当てて口を開いた。


「テツ君は、私の魔法を怖がらないでくれた初めての男の子」


 ふわりの言葉を聞き、美世は目を丸くした。


「えっ、あんた魔法のこと打ち明けたの?」

「な、成り行きで口が滑って……」

「成り行きって……どんな?」

「私が入学式サボろうとして猫と話してるのを見て「僕の飼い猫の言葉も教えて!」って目をキラキラさせながら家に招待してきて……私、まさか喜ばれると思わなくてびっくりしたから、「魔法使ってるのに怖くないの?」って聞いちゃったんだ。そしたら、「怖くないよ。すごく素敵だと思う」って言ってくれたの」


 美世はふわりの言葉を咀嚼して、考え込む。


(あいつ、魔法のこと驚かなかったのか……。今までの男子とは、違うのかもしれない。でも……もし、ふわりにつけいって魔法を悪用しようとしてたら? ふわりのことを弄ぼうとしてるのだとしたら?)


 美世はチラッとテツの方を見る。すると、前の席の男子生徒と意気投合したようで、まだ帰らずに談笑していた。


(悪い奴には見えないけど、小学生の時みたいにふわりが傷ついてからじゃ遅い。ふわりは、私が守るって決めてるんだから)


 黙り込んでしまった美世を見て、ふわりは不思議そうに首を傾げた。


「みよちん、どうかした?」

「……ふわり」

「ん?」

「ちょっとあいつと話してくる」

「え? ちょ、ちょっとみよちん!?」


 戸惑うふわりをその場に残して、美世はテツの元に歩いていった。


「ねえ、ちょっといい?」


 美世が尋ねると、テツは首を傾げる。


「僕?」

「そ。あんた。……あんた、今日ふわりと学校来たじゃん? 何が狙い?」


 美世は真顔で、語気を強めて尋ねる。


(もし、ふわりを傷つけるつもりなら、私がここでやっつける)


 美世の鋭い眼光に、前の席の癖毛をヘアバンドで押さえた背の高い男子がびくりと体をすくめた。

 しかし、テツは屈託のない笑顔で答える。


「佐藤さんに、僕の猫の言葉を聞いてもらおうと思ったんだ。佐藤さん、猫と話せるみたいだから」


 ヘアバンドの男子が、テツの言葉を聞いて切れ長な目を見開いた。


(佐藤って猫と話せんの!?)

「それは私も知ってる」

(安住も知ってんの!? じゃあマジなんだ……)


 驚いている男子をよそに、美世はテツに詰め寄る。


「でも、あんたが嘘ついてる可能性もあるでしょ? 猫のことを口実にふわりに近づいて、ふわりのことを傷つけようとしてるのかも。正直に言いなさいよ。そうじゃないの?」


 美世はテツをスッとしたツリ目で睨みながら尋ねる。

 美世の言葉に、テツは目を丸くしたが、すぐに首を横に振った。


「そんなことしないよ。僕、佐藤さんのこと傷つけようだなんて……」

「じゃあ、証明してよ。あんたが他の男子とは違うってこと、私に教えて……」

「すっ、ストップ!」


 ヒートアップする美世と、戸惑うテツの間に、ふわりが慌てて割り込んだ。


「みよちん、落ち着いて! テツ君は悪い人じゃないから」

「でも、ほんとにそうなのかどうか……」

「大丈夫! 私が証明するから!」


 ふわりはそう言うと、指を一振りして、黄色の肌に白い綿毛がついた、丸い毛玉のような生き物を出した。


「えっ、何こいつ……」


 戸惑う美世と男子生徒の方を見て、ふわりは真顔で答える。


「ハハコグサの妖精、ハコリンです」

「ハコリン……」

「ハコリンはね、優しくて思いやりのある人に懐くんだよ」


 ふわりに言われて、美世はハコリンの様子をうかがう。すると、ハコリンはテツの周囲をふわふわと飛んだ後、彼の頬にすり寄った。

 それを見て、ふわりは得意げに笑う。


「ほら、懐いてる!」

「じゃあ、こいつは本当に悪い奴じゃないんだ……」


 そう呟いて目を丸くした後、美世はすぐに頭を下げた。


「ごめん。私、きついこと言った……」


 美世の言葉を聞き、テツは明るく笑う。


「大丈夫だよ。こんなに可愛い生き物にも会えたし!」


 そう言いながら、テツはハコリンのフワフワしたほっぺをつついて笑った。


「木村……」


 テツの様子を見て、美世は唇を噛みしめて顔を上げる。


「ほんと、ごめん。……あんたは、心からふわりのこと受け入れてくれたんだね」


 美世はそう言うと、テツに向かって笑いかけた。


「ふわりのこと、よろしく」

「ん? よろしくって……?」

「え? あんた、ふわりと付き合ってるんじゃ……じゃなかったら、家に呼んだりしないでしょ?」


 お互い頭にはてなマークを浮かべる美世とテツを見て、ふわりは慌てて口を開いた。


「付き合ってないから!」

「はあ!?」


 ふわりの言葉を聞き、美世は呆れ顔でテツを見た。


「木村、あんた付き合ってもないのに家に呼んだの?」

「え? 僕は猫の言葉を教えて欲しくて家に来てほしいってお願いしただけだけど……何か変だったかな?」


 その様子を見て、美世は溜息を吐いてふわりを見た。


「ふわり」

「ん?」

「こいつ、悪い奴じゃないけど……多分、あんた苦労すると思う」

「う……これから仲良くなるんだもん!」

「……そうだね。頑張りな」


 一連の流れを見ていたヘアバンドの男子は、呆然とふわりと美世、そしてテツのことを見ていたが、やがて口を開いた。


「佐藤って、魔法使いだったんだな……」


 その男子の言葉を聞き、ふわりと美世に冷や汗が伝った。


(あっ……!)

(やばっ……!)


 ふわりは咄嗟に頭を下げる。


「桂君、怖がらせてごめん!」


 ふわりに謝られ、ヘアバンドの男子……桂は落ち着いた様子で手首を振る。


「いや、別に怖くないけど……なんか、今のところただのファンシー生き物使いすぎて……」

「ほ、ほんと? 怖くない?」

「おう。てか、あの妖精を見ても誰も怖がらないと思う……無害そうだし」

「そっか。良かった……!」


 ふわりは胸を撫でおろし、桂に明るい笑顔を向けた。その笑顔を見て、桂の顔が僅かに赤くなる。


「じゃあ、私達そろそろ帰るね。みよちん、行こ!」

「ああ、うん。2人とも、騒いじゃってごめん。またね」

「お、おう……」

「佐藤さん、安住さん、またね!」


 桂は笑顔で手を振るテツの前で、教室を出ていくふわりの後ろ姿を呆然と見つめる。


(中等部から一緒だけど、佐藤があんな風に笑ったの、初めて見た……)

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