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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第二章 復讐の闇を乗り越えて
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24 一歩先の関係

 一方のふわりは、テツが住んでいるマンションの前にやってきていた。ショッピングモールの手前にあるその5階建ての白いマンションは、まだ出来てそれ程経っていないようで外観が綺麗だった。

 エレベーターに乗り、テツの部屋がある5階に向かう。そして501号室の前に来ると、インターホンを鳴らした。


「佐藤ふわりです。テツ君にプリントを届けに来ました」


 声を掛けてしばらくすると、ドアが開いてパジャマ姿のテツが顔を出した。顔にはマスクを着けているが、頬が少し赤く熱があるのが見てとれた。


「佐藤さん、わざわざありがとう」


 そう言うテツの声は掠れており、けほけほと咳き込んでいる。


「テツ君、大丈夫? 」


「……まだ少し熱があるんだ。でも、ただの風邪だから大丈夫」


 そう言って笑顔を作るテツを、ふわりは心配そうに見つめた。


(熱、あるんだ。心配だな……テツ君が出てきてくれた辺りを見ると、ご家族もいないみたいだし……私に何かできないかな)


 ふわりは少し考えた後、思い切ってテツの手を握った。


「うわ!?」


 急に手を握られてテツの目が丸くなる。赤かった顔は更に赤みを増した。


「さ、佐藤さん……?」


 戸惑うテツに微笑みながら、ふわりは優しい声を出した。


「テツ君の体が楽になりますように」


 ふわりがそう言った途端、テツの体に淡い橙色の光がふわりと纏わり付き……やがて消えた。その途端に、寒気が治まり体が温かくなる。


「寒気しなくなった……熱、下がったのかな?」

「魔法で風邪の症状を抑えてみたんだ。熱も下がったはず。あとは今晩しっかり寝たら、もう大丈夫だと思うよ」


 そう言って優しい笑顔を覗かせるふわりを見て、テツの顔が赤くなる。せっかく熱が下がったというのに、今度は動悸が激しくなり胸が苦しかった。テツは思わず胸を押さえて目をぎゅっと閉じる。


「うう……」


「テツ君、大丈夫? 」


 ふわりが心配そうに尋ねてくる。それに「大丈夫」と答えようとして、テツは口を噤んだ。

 大丈夫なんかじゃない。大好きな人の笑顔が目の前にあって、大丈夫なわけがなかった。更に言えば、自分のために魔法を使ってくれた優しさが嬉しすぎて、余計に胸が苦しい。抱きしめたくなるほど愛おしい。

 でも、そんなことをしていいのだろうか。お互いに好きだと分かったものの、そこから先をどうしていいか分からない。


「テツ君?」


 ふわりに再度声を掛けられ、テツは我に返った。


「ご、ごめん。まだ頭がぼんやりしてて」

「そうなの?」

「うん! さっきまで寝てたから」

「そっか。じゃあ、無理させたくないし、私そろそろ帰るね」


 ふわりはニコリと笑って、封筒をテツに差し出した。創業祭のことや、自分達の関係のことなど、気になることは沢山あったが、テツが体調を崩しているのに無理して話し合おうだなんて思ってなかった。


(元気になったら、色々話せばいいよね)


 ふわりはそう思い、テツの方に封筒を突き出す。しかし、テツはそれを受け取ろうと思えなかった。


(これ受け取ったら、佐藤さんは帰っちゃうんだよね)


 そう思ったら無性に寂しかったのだ。もっとふわりと一緒にいたい。ずっと、傍にいたい……。

 テツは封筒を持ったふわりの手をきゅっと握った。


「……もう少し。もう少しでいいから、一緒にいてくれないかな」


 テツは目を伏せながら、そう告げた。


「え……?」


 ふわりの頬が真っ赤になる。テツが自分と一緒にいたいと思っている……そのことに対して、驚きと喜びが止まらなかった。


「いいの?」


 思わず聞き返すと、テツはしっかりと頷きを返してくれた。


「……佐藤さん、僕と一緒にいて」


 恥ずかしそうな赤い顔でそう告げられ、胸の鼓動がうるさくなる。握られた手から、全身に熱が広がっていく心地がする。


「……分かった」


 ふわりはテツに頷き、彼に手を引かれるままに家の中に入った。

 やはり家族は出かけているらしく、リビングに人の気配はない。ふわりはテツに連れられて、彼の部屋の中に入った。

 テツがゆっくりと扉を閉める。何の音もしない静かな部屋の中、大好きなテツと二人きりになっている状況に心臓が鳴りやまない。どうしよう。とりあえず、座った方がいいだろうか。ふわりは少し悩みながらも、床にぺたりと座り込んだ。その傍にテツも座る。

 お互いが好き同士で、誰もいない静かな家に2人きり。もし恋人同士だったら、キスの一つでもするのだろうか。だが、自分達は付き合っていない。テツは一体、何を自分に求めているのだろう。テツが喜ぶことをしてあげたいが、何をしたら良いか分からず、ふわりは表情を曇らせる。


「……あの、テツ君。一緒にいてって言ってたけど、私どうしたらいいかな?」


 ふわりに尋ねられ、テツは俯く。

 一緒にいたい。その言葉は本心だ。だが、それだけではない。ふわりのことを、抱きしめたいほど愛おしく思っている。でも、その体に腕を回していいのだろうか。その体に触れていいのだろうか。

 「好き」のその先が、分からない。


「……ごめん。分からないんだ」

「分からない?」

「うん。僕は、佐藤さんが好きで……一緒にいたくて、君の笑顔をずっと見てたいって思ってる。でも、それだけじゃなくて……佐藤さんのこと、抱きしめたくなるぐらい愛おしいって思ってて、だけど……抱きしめていいのか分からいんだ」


 テツの言葉に、ふわりは顔を赤らめたまま言葉を失う。


(そんな風に思っててくれたんだ……。テツ君は、抱きしめて欲しいのかな)


 ふわりは制服のスカートをギュッと握った後、意を決して両手を広げた。


「テツ君、いいよ」

「え?」

「だ、抱きしめたいんだよね? 抱き心地が良いかは分からないけど……」


 テツはふわりの行動に目を丸くしていたが、すぐに彼女に尋ねた。


「嫌じゃないの……?」

「嫌じゃない! だって、私……テツ君のことが大好きだから」

「そ……そう」


 「じゃあ……」とテツはふわりの体に腕を回し、遠慮しながら自分の方に引き寄せた。彼女から、ふわっと甘い香りがする。マスク越しからでも分かる、この香りは……。


「……メープルシロップ?」

「えっ!? に、匂う……?」

「うん……甘い香りがする」

「うう……朝のフレンチトーストにかけたやつ、制服に落としてたのかな……」


 ふわりの恥ずかしそうな声が耳元で聞こえて、テツはクスリと笑う。そんなおっちょこちょいな部分も愛おしかった。

 もっと、彼女に触れていたい……そう思い、テツは抱きしめる力を強くする。思ったよりも強い力で抱き寄せられ、ふわりは思わず息をのんだ。


(やっぱり、男の子なんだ……)


 今まで、ふわりはテツの優しさに特別恋をしていた。優しい言葉と笑顔。その2つがふわりの好きなテツの良い所だった。もちろんテツが異性であることは分かっていたが、普段はそこまで意識していなかったのだ。そんな彼の男らしさを肌で感じてしまい、ふわりは恥ずかしくてどうしようもない。だが……。


(付き合ったら、これ以上のこと……キスとかも、きっとするんだよね。私、耐えられるかな……。でも、テツ君にされるなら、嫌じゃない)


 ふわりはテツのことを優しく抱きしめ返す。


「テツ君、あのね……私、テツ君と付き合いたいんだ。恋人に、なりたいんだ。今してること以上のことも、テツ君となら怖くないから」


 ふわりの言葉を聞き、テツは目を優しく細めた。嬉しかったのだ。だって、自分もふわりと同じように、彼女とならこれ以上の関係になっても怖くなかったから。

 「好き」の先は、まだ分からない。自分がふわりに対してどうしたくなるのか、ふわりが自分に何を求めてくれるのかも、まだよく見えていない。だけど、ふわりと一緒ならきっと大丈夫だろう。

 だって、自分はふわりのことが大好きなのだから。


「……佐藤さん」


 テツはふわりを抱きしめながら、優しく告げた。


「僕と付き合ってください」


 その言葉に、ふわりは満面の笑みで答える。


「はい……!」


 2人が笑いながら抱きしめ合っていたその時、ベッドの下から「みゃおん」と声が聞こえた。

 ふわりが声のする方を見ると、毛並みの美しい白猫が顔を出したのだ。


「猫……?」

「あ、ヒメだ!」


 白猫はテツの声に可愛らしく鳴き、彼の膝にすり寄る。テツはふわりから腕を離すと、白猫を抱き上げて自分の膝の上に乗せた。


「佐藤さん、この子、初めて会った時に話した僕の猫だよ。名前はヒメっていうんだ」

「ヒメちゃん……可愛い猫だね」


 ふわりが微笑むと、ヒメは再度可愛らしい鳴き声を出す。


「ねえ、ヒメがなんて言ってるか分かる?」

「あ、うん! 聞いてみるね」


 ふわりは耳に魔法を掛け、ヒメの鳴き声に耳を傾けた。


「みゃおん」

『あなた、テツのガールフレンド? ふふっ、随分素朴な女の子ね』

(……ん?)

『ヒメの方がずっと可愛くて、テツにお似合いだと思うわ』


 すました顔で鳴いているヒメを見て、ふわりは目を見開いた。


(まさか……宣戦布告されてる!?)

『まあ、可愛いヒメに勝てるようにせいぜい頑張ることね』

「佐藤さん、ヒメ、何て言ってた?」


 テツから期待に満ちた表情を向けられ、ふわりは苦笑いしながら答える。


「ヒメちゃん、テツ君のこと大好きだって」

「ほんと!? ヒメ、ありがとう!」


 「僕も大好きだよ!」と満面の笑みでヒメを撫でるテツを見て、ふわりは乾いた笑い声を出した。


(まさか、こんなところにライバルがいたなんて……)


 固い表情で笑うふわりを見て、ヒメは得意げな鳴き声を出したのだった。

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