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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第二章 復讐の闇を乗り越えて
23/55

22 正義か、裏切りか

 林間学校が終わり、5月も後半に突入した。春の疲れが現れてなんとなく怠い月曜日だが、ふわりは疲れた様子もなくそわそわと落ち着きがない。朝食のフレンチトーストを食べている時も、心ここにあらず、といった様子だった。


「それで、お客の田中さんがなあ……」


 父が楽しそうに話しながら朝食をとる脇で、ふわりは黙々とフレンチトーストを齧る。その頭の中は、テツのことでいっぱいだった。


(私とテツ君、今どういう状況なんだろう……両想いなのは分かって嬉しかったんだけど、付き合ってはないんだよね……?)


 すっかり黙り込んでいるふわりを、蓮介は隣から眺める。


(……ふわり、テツ君に告白できたんだな)


 彼女の心を読みながら、蓮介はぼんやりとダージリンを飲む。

 昨日、魔導士協会会長の本当の目的が判明し、蓮介も彼の復讐に協力することを決めた。しかし、母とふわりにも接触していた魔導士協会の行動から考えるに、彼らは2人にも復讐の片棒を担がせるつもりなのだろう。そうだとしたら、今後、自分がされたように2人もグリフィンに過去の記憶をこじ開けられ、協力を頼まれる可能性がある。だが、そんなことをしたら2人の人生はどうなる? 母は父とカフェから引きはがされ、ふわりはテツへの気持ちを諦めなくてはいけなくなる。そんなのは嫌だった。


(……俺が片をつけるんだ。グリフィンさんと、2人で。絶対に母さんとふわりは巻き込まない)


 蓮介は紅茶を飲み切ると、静かに立ち上がった。


「ごちそうさま。俺、ちょっと出てくる」

「え? れんにい、今日は授業無いんじゃないの?」

「ちょっと街に用事があるんだ」


 蓮介はふわりにニコリと笑うと、椅子の背もたれに掛けた鞄を持って「行ってきます」と外に出て行ってしまった。

 ふわりはそれを見て首を傾げた。

 今まで、蓮介は授業が無い日はカフェの手伝いに専念してばかりで、こんな風に出かけることなんてなかった。一体どんな用事でどこに出かけているのか。ふわりには見当もつかなかった。


「お母さん、れんにいどこに行ったか知らない?」

「さあ……用事があるなんて聞いてなかったけど」


 母が頬に手を当てて答えるのを見て、父は笑った。


「この前、店に来てくれた子と出かけるんじゃないか? 仲良さそうだったし、蓮介ももう22歳だからな」

「あら、テツ君が来た時とは全然違う反応ね。蓮介に彼女ができるのはいいの? 」


 母にクスリと笑われ、父は頭をかく。その様子を見て、ふわりは不思議そうな顔で尋ねる。


「テツ君がどうかしたの?」

「ああ……お父さんね、ふわりに彼氏ができるのが寂しいんですって」


 その言葉を聞き、ふわりは顔を真っ赤にする。


「か、彼氏……」

「ふわり、テツ君とはどうなの? あの後進展した?」


 母に問われて、ふわりは目を伏せながら呟いた。


「こ、告白、された……」

「あら!」

「なに!?」


 目を輝かせる母の隣で、父がショックを受けて固まる。


「それで、ふわりは何て答えたの?」

「私も大好きだって、言ったんだけど……」

「けど?」

「私もテツ君も、付き合おうって言ってなくて……だから、付き合えてないんだ」


 ふわりが肩を落とすのを見て、両親は顔を見合わせる。


「なんで付き合わなかったんだ?」

「そこまで気が回らなくて……」

「ふふっ、ふわりとテツ君らしいかも。あ、そうだ。ちょっと待ってて」


 母はクスリと笑うと、冷蔵庫に貼られたチラシを一枚とって、ふわりに見せた。


「今度、商店街で創業祭があるみたいよ。出店も出るし、ステージではイベントも開催されるって言うから、テツ君と一緒に行ってきたら?」

「創業祭?」

「ええ。一緒に楽しんでから付き合うのか聞いた方が聞きやすいんじゃないかしら。ねえ、お父さん」

「えっ、ま、まあ……うん。そうかもな……」


 固い笑顔で頷く父と、ニコニコとしている母を見てふわりは「そうかも」と呟く。


「今日、誘ってみるよ。お母さん、お父さん、ありがとう」


 ふわりは2人に笑顔を見せると、鞄を持って立ち上がった。


「じゃあ、私も学校行ってくるね」

「ええ。行ってらっしゃい」

「ああ。行ってらっしゃい」


 2人に見送られ、ふわりは軽い足取りで玄関を出ていった。その後ろ姿を見送った後、父は手で目を覆い嗚咽をもらす。


「うう……」

「もう、泣かないの。子どもは成長するものでしょう」


 母は父に微笑んだ後、僅かに表情を曇らせる。


(それより、蓮介のことが気になるわね……今まで、こんな風に突然出かけることなんてなかったのに。カフェのこともあるから、デートならデートって前もって言ってくれそうな気もするし。帰ってきたら聞いてみましょうか)


 母はそう心に決めた後、「ほら、開店準備しましょう」と涙を流す父の肩を叩いた。


* * *


 ふわりは学校に着くと、最前列に座る美世に声を掛けようとして、目を丸くした。なぜかと言うと、普段はいないはずの冬紀の姿があったからだ。


「八坂ちゃん!」


 ふわりに声を掛けられ、冬紀は振り返る。


「あ、ふわりん。おはよ」

「おはよう。B組に来てるなんて珍しいね。どうしたの?」

「ああ、創業祭のファッションショーのことで美世に相談があってさ」

「ファッションショー?」


 ふわりが首を傾げると、席に着いていた美世が答えてくれた。


「手芸部の活動の一環でファッションショーに参加するんだって。冬紀が服を作って、私がそれを着るモデルをやるんだ」


 美世の答えを聞き、ふわりは目を輝かせた。


「すごい! みよちんがモデルやるんだね。八坂ちゃん、どんな服を作るの?」

「ノースリーブのマキシワンピース。すごく綺麗な布でさ、美世に似合うと思う。期待しててよ」

「うん! 絶対見に行くね!」


 明るい笑顔で頷いたふわりを見て、冬紀はにこりと笑って尋ねる。


「創業祭、誰かと一緒に回る予定?」

「えっ、あ……えっと……」


 冬紀の質問にふわりは顔を赤くして視線を彷徨わせた後、テツの席をちらりと見た。まだテツは来ていなかったが、ふわりの視線を見た冬紀と美世は彼女の気持ちをすぐに察する。


「テツと一緒?」

「う、うん。誘いたいなって思ってて」

「そうなんだ。テツも喜ぶと思う」

「そうね。木村もふわりと行きたいと思うし、それに……付き合ってるのかはっきりさせるチャンスだしね」


 美世はそう言うとニヤリと笑う。それを見て、冬紀は目を丸くした。


「え、付き合ってないの?」

「お互いに告白したけど、どっちも付き合ってって言わなかったの」

「そーなんだ。なら、尚のこと誘った方がいいじゃん」


 冬紀がそう言った途端、朝のホームルームの予鈴が鳴った。それに気が付き、冬紀は慌てて美世に告げる。


「ファッションショーの流れと試着の話、後で連絡するよ」

「うん。分かった」

「じゃあね。ふわりんも頑張って」


 冬紀は2人に微笑むと、足早に自分の教室へと歩いて行った。それを見送り、ふわりも席に着く。ちらりとテツの席を確認したが、まだテツは来ていなかった。


(テツ君、どうしたんだろ……)


 その後、泉がやってきて朝のホームルームを始める。


「木村と宮原は風邪で欠席だ。林間学校明けで疲れも溜まってるだろうし、みんなも体調管理はしっかりするんだぞ」


 泉の言葉を聞いて、ふわりは再度心配そうにテツの席を見た。


(風邪なんだ……大丈夫かな)


 ふわりは表情を曇らせながら、朝のホームルームの話を聞いた。


* * *


 テツのいない月曜日も授業が終わり、残すところは部活だけだ。普段はテツと一緒に歩く廊下を、ふわりは1人で歩く。


(テツ君がいないと、やっぱり寂しいな)


 ふわりは少し溜息をつきながら、美術室のドアを開ける。すると、顧問の泉の他には誰もいなかった。


「あれ? 泉先生、先輩方は……」

「佐川は家の用事で、太田は急遽バイトが入ったみたいだな。今日は佐藤だけだよ」

「そうなんですか……」


 ふわりは寂しそうに俯きながら、テーブルに鞄を置く。それを見て、泉は微笑みながら尋ねた。


「私がいるとはいえ、1人で絵を描くのも大変だろう。今日は休みにしてもいいと思うが、どうする?」

「あ……そう、ですね。1人で6時までいるのも寂しいし……でも、絵は練習したいので、30分だけここにいてもいいですか?」

「ああ。いいよ。なら私もここにいようかな」


 泉はにこりと笑って、鞄からスケッチブックとシャープペンシル、そして色鉛筆を取り出した。


「色鉛筆、佐藤も使っていいからな」

「ありがとうございます」


 ふわりは鞄からスケッチブックを出し、新しいページを開く。何を書こうか迷ったが、この前と同様に猫を描くことに決めた。テツの好きなものを少しでも上手く描けるようになりたかったのだ。

 ふわりはシャープペンシルをスケッチブックに走らせる。迷いながらガタガタの線を引いていくふわりを見守って微笑みながら、泉はさり気なく彼女に尋ねた。


「佐藤、学校生活はどうだ? 楽しいか?」

「え? ああ、はい。高等部に入ってから、すごく楽しいです。どうしてですか?」

「オルラが転校してきた時だから、まだ4月頃だったかな。部活に来たときに元気が無かったから、気になってたんだ」

「ああ……」


 あの時か……とふわりは苦笑いする。あの時はまだオルラと和解できておらず、彼女にテツへの想いを消されそうになって怖かったのだった。

 しかし、林間学校を経てそれも解決した。ふわりは泉の方を見て口を開く。


「そのことなら、もう大丈夫です。オルラちゃんと少しトラブルになっちゃったんですけど……林間学校で解決したんですよ。私、少しオルラちゃんのことを誤解してたみたいで……今は、友達かな?」

「そっか。なら良かった。オルラのこともイギリスから越してきたばかりで心配してたから、佐藤がそう言ってくれると安心するよ」


 泉はふわりに微笑むと、スケッチブックに色鉛筆で色を付け始めた。橙色と黄色が、上の方にグラデーションを作っていく。手前には柵と森も軽いタッチで描かれていた。ふわりは、泉が何を描いているのかすぐに分かった。


「林間学校のウォークラリーで見た夕焼け……」

「ああ、分かったか。あの丘のチェックポイント、景色が綺麗だったよな」

「はい! あそこでテツ君と景色を見て、すごく綺麗で……集合写真もみんなで撮れて嬉しかったな」

「ふふ、そうか。……入学したときに比べて、佐藤も明るい顔をするようになったな」

「そうですか?」

「ああ。特に、木村と一緒にいるときは本当に楽しそうだ。木村も、佐藤も一緒にいるときは自然な笑顔だな」


 色鉛筆を動かしながら泉は優しく答える。それを聞いて、ふわりは頬を染めながら俯いた。


「先生。私、テツ君のお陰で自分の魔法が好きになれたんです。テツ君が私の魔法を褒めてくれたから、魔法は人を笑顔にするものなんだって思い出せた。小中学校と、魔法の差別に怖がってたのが嘘みたいに、世界が優しくなったの」


 ふわりはシャープペンシルを止めて、話を続ける。


「オルラちゃんがいる組織は、魔導士であるせいで傷つけられる人を守るために、魔導士の国を作って、魔導士達をイギリスに集めようとしてて……でも私はイギリスに行くよりもテツ君がいる初風市にいたいと思ってるんです。少しでも長く……ううん、これからもずっと、私の世界を変えてくれた優しいテツ君の傍にいたいんです」


 ふわりの言葉を聞き、泉は微笑みながら頷いた。


「そうか。なら、木村は佐藤を笑顔にした魔法使いってことだな」


 泉は色鉛筆を片付けると、鞄から封筒を取り出してふわりに渡した。


「これは?」

「今日配布されたプリントだ。進路希望調査の紙も入ってるから早めに渡したくて、佐藤と部活の確認をしたら届けに行こうと思ってたんだが……宮原の家にも行かないといけなくてな。でも、宮原の家と木村の家は離れてるから、木村のことを待たせてしまいそうなんだ。佐藤は木村と仲が良いし、木村にこれを渡してくれないか?」


 泉の頼みを聞き、ふわりは少し考える。


(私が持って行けばテツ君も早く手紙が貰えるし、テツ君の顔も見られるかもしれない。行ってこようかな)


「分かりました。渡してきます」


 ふわりは封筒を受け取ると、スケッチブックを鞄にしまって立ち上がった。


「遅くならないうちに行ってきますね」

「ああ。じゃあ、今日の部活はここまでだな。佐藤、また明日な」

「はい。泉先生、さようなら!」


 ふわりは美術室を出て、入部したときに交換したテツの連絡先メッセージを送る。


『テツ君、体調大丈夫? 泉先生からプリントを預かってるんだけど、今から届けに行ってもいいかな』


 すると、2分ほど後にふわりのスマホが鳴った。


『大丈夫だよ。ありがとう。ショッピングモールの近くにあるブリッサっていうマンションの501号室だけど、分かるかな?』

「ブリッサ……ああ、あのお洒落なマンションかな?」


 ふわりは「分かった。これから行くね」と送って、マンションを目指して歩き出した。


* * *


 一方、その日の夕方。アパート「リーブ」の305号室では、グリフィンがUSBを蓮介に手渡していた。


「おばあさんの事件の詳細はここに全て書かれている。後で目を通しておくといい」

「分かりました」

「頼むぞ。……計画について質問はあるか」


 グリフィンに尋ねられ、蓮介は冷たい表情で首を横に振る。


「大丈夫です。……8月に行われる魔道士協会とLODAMの定期会合で、本部に集まる職員全員を消すんですよね」

「ああ。犯罪の痕跡は私の魔法でいくらでも消せる。君は攻撃魔法を身につけておいてくれ」

「はい。……では」


 蓮介は会釈をすると、アパートから出て行こうとドアノブに手を掛けた。しかしその時、反対側からドアが開き、銀杏色の長い髪の少女と目が合った。オルラが学校から帰ってきたのだった。


「あ、すみません」


 オルラは慌てて脇にどける。すると、蓮介は光りのない瞳で彼女に微笑み、「ごめんね」と小さく謝って出て行った。

 オルラは蓮介の背中を見て、僅かに眉をひそめる。


(冷たい笑顔の人だったわね……誰かしら)


 そう思いつつも部屋に入ろうとして、オルラは足元に手帳型カードケースが落ちているのを見つけた。床に落ちたときに出てしまったのか、カードが1枚ケースから飛び出している。


(何かしら……)


 ケースと一緒に、落ちたカード拾って見ると、証明写真の隣に「花妻大学 文学部英語文学科 佐藤蓮介」という文字が3列で記載されていた。どうやら学生証のようだった。


(佐藤蓮介……佐藤? まさか……佐藤さんのお兄さん? )


 証明写真を確認すると、確かに彼はふわりに顔つきが似ていた。カスタード色の髪に、桃色の瞳もふわりと同じだ。先程の冷たい笑顔はふわりの暖かい笑顔と全く似ていなかったが、名前と容姿から推測するにふわりの兄で間違いなさそうだ。


(……どうして、佐藤さんのお兄さんがここに?)


 オルラが首を傾げていると、部屋の奥からグリフィンがやって来た。


「何をしているんだ」

「今出てきたお兄さんが落としていった物が気になって見ていたんです。……佐藤蓮介さんの学生証でした」

「そうか。……私から届けておこう。貸してくれ」


 グリフィンはそう言って手を出す。しかし、オルラは渡せなかった。疑問だったのだ。ふわりの兄がグリフィンとどういう関係だったのか。

 ふわりの兄なのであれば、蓮介も魔導士ということになりグリフィンが魔導士協会としてイギリスに連れて行こうとする可能性はもちろん考えられる。しかし、蓮介とグリフィンが接触したのは先月。蓮介がイギリス行きを承諾したのであれば、もっと早く知らせに来てもいいはずだ。

 違和感は他にもある。まず、ふわりがイギリス行きを拒否したこと。まだ高校生の妹を置いて母と兄がイギリス行きを承諾するとは考えにくい。ふわりが家族を大事に思っているのは蓮介だって知っているはずだ。なのに、家族が日本とイギリスでバラバラになる選択をするだろうか。

 もう一つ、蓮介がまだ学生であることも気になる。学生証を見る限り、蓮介は大学4年生。まだ5月であるから、学期の途中だろう。そんな中でイギリス行きを決められるのだろうか。

 もし、蓮介がイギリスに行くことを承諾したのでなければ……彼は何をしに来たのだろうか。


「……会長、佐藤蓮介さんはどうしてここに来たのですか?」


 オルラに尋ねられ、グリフィンは手を引っ込める。しかし、表情は無感情なもののままだ。


「それが君に関係あるのか?」

「あります。私は魔導士協会役員で、あなたの部下です。上司の考えは知っておかなければいけません」


 オルラはそう言うと、緑色の大きな目でグリフィンを静かに射貫く。その眼差しを受け止めながら、グリフィンはゆっくりと口を開いた。


「……復讐だ」


 グリフィンは冷たい色の瞳をオルラに向けながら、淡々と続ける。


「アリス・スチュワートを殺した……LODAMへの復讐だ」


 復讐──。その言葉を聞き、オルラは目を見開く。


「復讐……?」

「ああ。アリス先生の子孫を説得し、彼女の仇討ちに協力させる。そして、魔導師の平和とアリス先生の命を奪ったLODAMを潰す……それが、私が日本に来た本当の目的だ」

「他の協会役員は知っているのですか?」


 オルラは震える声で尋ねる。すると、グリフィンは首を横に振った。


「大勢に知られたら計画の遂行に支障が出るからな。他の者は何も知らずに、魔導士の国を作るのだと思い込んだまま日本に散らばる魔導士を集めようとしている。建国はカモフラージュのつもりだったが、世界中の魔導士が集まったら、もちろん建国をイギリス政府と交渉する。だが、それはかなり先のことになるだろうな。全て、LODAMへの復讐が終わってからだ」

「復讐なんてした後で、イギリス政府が交渉に応じるとお思いですか!? あなたは……あなたは! 多くの魔導師の運命を握っておいて、それを自分の都合で台無しにするんですか!?」


 オルラはグリフィンに詰め寄り、必死に訴えた。


「魔導士の平和な国を信じて大勢の魔導士があなたについてきているのよ! それを裏切って、あなたは私欲を満たすために復讐をするの!? あろうことか、アリスさんの家族まで巻き込むなんて……それで彼女が喜ぶとでも思っているのですか!? こんなことするなんて、あなたは私の知ってるグリフィン会長じゃない!!」

「君に何が分かる!!」


 グリフィンは大きな声で怒鳴り返した。


「私は……僕は、何も変わってない! アリス先生に拾われてから……彼女を愛してから、何も変わってなんかいない!! 愛する人が殺されて、僕がどれ程絶望したか……オルラ、君には分からないだろう!?」

「……!」

「僕のことを何も知らない癖に……たかだか6年しか一緒にいないのに、知ったような口を聞くな!!」


 グリフィンの激しい言葉を浴びせられ、オルラの瞳から一筋の涙が伝う。


「それが、あなたの本心ですか」


 オルラは小さな声で呟くと、彼に背を向けた。


「私が……あなたがアリスさんにそうしたように、あなたを尊敬し、愛していたことも……あなたには分からなかったのですね。……もういいです」


 オルラは玄関のドアを開けると、グリフィンの顔を振り返ることもなく、静かに外へ立ち去っていった。


「さよなら」


 オルラの潤んだ声が玄関に零れ落ちる。グリフィンはそれを見送った後、大きな手で前髪をくしゃりと抑える。


「僕は、間違ってない……間違ってないないでしょう? アリス先生……」


 グリフィンの震えた声が、誰もいなくなったアパートに響いた。

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