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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第二章 復讐の闇を乗り越えて
20/55

19 会わない方がいいのかな

 ふわり達が林間学校から帰ってくる少し前。授業の無かった蓮介はカフェの手伝いをしていた。

 今日は土曜日のため、客足もそれなりに多い。蓮介は母と共にホールで接客をし続け、ついに午後3時になった。少し早いが、土曜日の閉店時間だ。


「蓮介、今日はありがとね」


 母は笑いながらテーブルを拭く。それに頷いて、蓮介はキッチンの片づけを手伝いに向かった。


「父さん、片づけ終わった?」

「おお。こっちは大丈夫だ。蓮介、ちょっと座って一息入れよう。紅茶でも淹れてやる」

「ありがとう」


 蓮介はキッチンの椅子に座り、ふうと息を吐いた。ふわりがいないのもあってか、少し仕事が多かったような気がする。普段、休みの日は家族4人で回すことが多かったため、3人での接客は久々だった。

 しかし、自分が部活の日は両親とふわりの3人で回すこともあったはずだ。その日もその日で大変だっただろう。なら自分も弱音を吐いていられない。


「蓮介、明日はどうするんだ? 部活あるのか?」

「ああ……うん。でも行かないよ」

「え? 何かあったのか?」


 驚く父の、包帯の巻かれた腕を見て、蓮介は目を伏せる。


「父さんの腕……まだ心配だし」

「ああ、これか? 大丈夫だよ。心配せずに部活に行っていいんだぞ」


 父は笑いながらそう言ったが、蓮介の表情は晴れない。


「父さんの怪我が治っても、魔導士協会はまだ近くにいて、俺達をイギリスに連れて行こうとすると思う。だから、俺が部活に出たら、また部員のことを巻き込むかもしれない」


 蓮介の頭に、先日の芽生とのことが蘇る。あの時、芽生が襲われたのは間違いなく自分のせいだ。自分の存在が、芽生達を魔導士協会との問題に巻き込むかもしれない。

 そして、まだ防御魔法が完璧に発動できない今、彼女達を巻き込んでしまった場合に守ることもできない。そんな状態で部活に出る気にはなれなかった。


(本音を言うと、部活のみんなに会えないのは少し寂しいけど)


 蓮介の頭に先日の芽生の笑顔が浮かぶ。彼女の笑顔をもう一度見たい。しかし、彼女を守りたいのも事実だ。彼女を守りたいと思うなら、やはり安易に会いに行くわけにはいかない。

 蓮介の暗い顔を見て、父は沈黙する。どんな言葉を掛けて励ましても、無責任な発言になってしまいそうで何も言えなかった。

 そこへ母がやってきて、2人に声を掛ける。


「ふわり、帰りのバスに乗ったって。あと1時間で学校に着くみたいよ」

「そうか。ふわりが帰ってくるなら、ホットケーキでも焼いてやるか」


 父は取り繕うように笑いながら、蓮介に紅茶を差し出す。


「蓮介も、何はともあれお疲れさん」

「ありがとう」


 蓮介はそれを受け取り、マグカップに口を付けた。

 大好きなダージリンの味がする。蓮介は、昔からダージリンが好きだった。いつから好きなのかは覚えていないが、どういう訳か懐かしい感じがして安心するのだ。

 蓮介はほっと一息つき、表情を緩める。それを見た両親は顔を見合わせて笑った。


* * *


 一方、花妻大学体育館では、バドミントン部が後片付けをしていた。

 芽生もネットを部室に仕舞いながら、一緒にシャトルを片づけに来たショートヘアの女子部員に声を掛ける。


「志帆先輩、今日も蓮介先輩来ませんでしたね」

「そうだね。お店が忙しいって言ってたけど、もう2週間くらい顔見てないな」


 心配そうにそう言う志帆を見て、芽生も表情を曇らせる。

 次に会う時は一緒にバドミントンしようと約束したものの、それ以降蓮介の姿は見ていない。

 あの気配りができる蓮介に限って約束を忘れてるなんて思えないが、どんな理由があれど会えないのは寂しかった。

 芽生の寂しそうな顔を見て、志帆も困り顔になる。


(今のバド部で芽生ちゃんと渡り合えるの、蓮介先輩ぐらいだもんな……)


 なんとか蓮介に来てもらえないだろうかと、志帆は頭を悩ませる。


「……志帆先輩」


 芽生に声を掛けられ、志帆は彼女の方を見た。


「ん?」

「私、蓮介先輩がいないの少し寂しいです。蓮介先輩に憧れてバドミントン始めた部分もあるので、少しでも長く一緒にプレーしたいし……少しでも沢山話したりしたいっていうか」


 芽生の言葉を聞き、志帆は目を丸くする。


(待って、まさか芽生ちゃんって……)

「蓮介先輩のこと、好きなの?」

「えっ!?」


 志帆に問われ、芽生は顔を赤くして俯く。芽生は小さな声で志帆に答えた。


「そ、そうです……。すみません」

「なんで謝るの! 謝んなくていいよ!」


 志帆は目を輝かせながら芽生の手を握り、力強く告げた。


「芽生ちゃんなら絶対大丈夫だよ! 蓮介先輩、芽生ちゃんとバドしてる時めっちゃ楽しそうだったし! てか、芽生ちゃんみたいに真面目で一生懸命な子、絶対蓮介先輩も好きだって!」

「そ、そうなんですか?」

「聞いたことないけど、乙女の勘!」

「ええ……」


 戸惑う芽生を見て、志帆は我に返って咳ばらいをする。


「とにかく……可愛い後輩の恋だもん。私、応援してるよ」


 志帆ににこりと微笑まれて、芽生は赤面しながら頭を下げた。


「あ、ありがとうございます……」


 芽生が礼を言った瞬間、部室のドアが開いて他の女子部員2人も入ってきた。片方は赤いポニーテール、もう片方は黒いウルフヘアだ。


「志帆先輩、今の聞いちゃったんですけど!」

「芽生ちゃん恋してるんですか!?」


 興奮気味に尋ねる2人を見て、志帆は芽生の肩を抱いてドヤっと笑った。


「可愛い後輩の恋、一番初めに応援したの私だから」

「あっ、自慢してる!」

「良くないですよ、志帆さん。可愛い一年生はみんなのものですよ」

「ふふっ、じゃあ2人も応援してくれる?」


 志帆に尋ねられ、2人も「もちろん!」と親指を立てた。

 先輩達の反応に、芽生は顔を赤くして目を回す。


(な、何? この流れ……)

「とりあえず、蓮介先輩が部活に来てくれるように何か手はないか考えてたんだけど……蓮介先輩も忙しそうだしな……」


 志帆が眉間に皺を寄せるのを見て、赤いポニーテールの女子部員、幸那が手を上げる。


「そもそも、部活じゃなくても話す機会は作れるんじゃないですか? 蓮介先輩、実家のカフェで働いてるなら、お客さんとして行くのもありなんじゃないですかね?」


 幸那の提案に、隣にいた黒いウルフヘアの女子部員、英梨も頷く。


「確かに。この後突撃します?」


 とんとん拍子に話が進んでいく。しかし、芽生は慌てて首を横に振った。


「さすがに大人数で行ったらびっくりしちゃいますよ……行くなら、私1人で行きます」


 芽生の言葉に、3人も「うんうん」と頷く。


「それもそうだね」

「席にも限りがあるだろうしね」

「さすが芽生ちゃんだ。勇気もあるし、真面目だね」


 そう言って微笑む志帆から、芽生は目を逸らして俯く。


(勇気……ほんとは、まだまだ無いんだけどな。でも……)


 芽生の脳裏に、蓮介がおまじないを掛けてくれたことが蘇る。


 ——芽生ちゃんが、なりたい自分になれますように。


(あの思いやりに、報いたい。勇気を出して自分の力で一歩踏み出せるようになりたいんだ)


 芽生はそう心に決めて、志帆から離れて先輩3人に向き直ると、きちっと頭を下げた。


「応援してくれてありがとうございます。私……頑張ります!」


 芽生は力強くそう告げると、部室から飛び出して蓮介の店へ走り出した。


(会ったら何話そう。一緒にバドミントンがしたいこと、会えないのは寂しいってこと、それから……)


 溢れて止まらない恋心を感じながら、芽生は大学の敷地を走り抜けた。


* * *


 紅茶を飲み終え、蓮介が店の看板を仕舞おうと外に出ると、ぽつぽつと雨が降り出した。


(雨だ。ふわりって、傘持ってたっけ……)


 学校に迎えに行った方がいいだろうかと考えながら、立て看板を手に持ち店内に戻ろうとする蓮介に、パタパタと駆け寄ってくる人影があった。


「蓮介先輩!」


 名前を呼んできた人物の顔を見て、蓮介は目を丸くする。


「芽生ちゃん! どうしたの? 部活は?」

「さっき後片付けが終わって……蓮介先輩に会いたくて来たんです」

「俺に? えっと、何か用だった?」

「は、はい! えっと……」


 芽生は何かを話そうとして口を噤む。


(先輩方に乗せられるままにここまで来ちゃったけど、よくよく考えたら知り合ったばっかりの後輩に押しかけられるって迷惑なんじゃ……)


 自分がしでかしたことに気が付き、芽生は顔を赤くして俯いた。


(早急に帰った方がいいかもしれない)


 何も言わない芽生を見て、蓮介は首を傾げる。


「どうかした?」

「あ、いえ……や、やっぱり何でも……」


 「何でもない」と口にしようとしたその時、急に雨脚が強まり、雷が鳴りだした。


「うわっ、降ってきた。芽生ちゃん、とりあえず店に上がって」

「あ、ああ……! はい!」


 蓮介に促され、芽生は慌ててカフェ店内に入った。

 蓮介達が店内に入ってくるなり、母は目を丸くする。


「あら? 蓮介、その子は?」

「部活の一年生の八坂芽生ちゃん。俺に用があって、わざわざ来てくれたみたいで……」


 蓮介の言葉を聞き、母は芽生に優しく微笑む。


「そうなの。ありがとね。雨で濡れちゃったでしょう? 温かい飲み物でも淹れてあげるわ」

「あ、ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる芽生に、キッチンでホットケーキを焼いていた父も笑顔を向ける。


「今ホットケーキ焼いてるんだけど、君も食べるか?」

「い、いえ。さすがにそれは……今度、お客さんとして来た時に頼みます」

「そうか。なら、客として来てくれるのを楽しみにしてるよ」


 父はにこりと頷き、ホットケーキをひっくり返す。


「芽生ちゃん、とりあえず座ろう」


 蓮介に促され、芽生はカフェの二人掛けの席に座った。蓮介も向かい側に座り、芽生に優しく尋ねる。


「それで、今日はどうして来てくれたの?」

「あ……えと……大したことじゃないんです。すみません」


 申し訳なさそうに呟く芽生を見て、蓮介は穏やかに笑った。


「謝らなくて大丈夫。大したことなくてもいいから、どんな用だったのか教えてくれると嬉しいな」


 蓮介の優しい言葉を聞き、芽生は意を決して口を開く。


「蓮介先輩に、会えないのが寂しかったんです」

「え?」

「お店が忙しいのにこんなこと言われても困るだろうなって分かってます。でも……やっぱり私は、蓮介先輩とバドミントンがしたくて」


 芽生はそこまで言うと目を伏せる。

 蓮介とバドミントンがしたい。その言葉に嘘偽りはない。

 しかし、下心が無いと言えば嘘になる。芽生は蓮介が好きで、仲良くなりたいと思っている。そして、その方法としてバドミントンを使おうとしていた。もし、このことを蓮介が知ったらどう思うだろう。大好きなバドミントンを自分に近づく道具にしていると思われるのは嫌だ。まるで、自分の好きなバドミントンに不誠実なようで胸が苦しい。


(バドミントンで近づきたいって思ってたけど……やっぱり、こんなことしちゃいけない気がする)


「……すみません、やっぱり今のナシで」


 芽生は小さな声でそう呟いた。しかし、蓮介は気を悪くする様子もなく、優しい声色で彼女に告げた。


「芽生ちゃん、謝ることないよ」


 蓮介はそう言って微笑む。


「俺とバドミントンしたくてここまで来てくれたんでしょ。勇気、出してくれたんだよね。それだけで嬉しかったよ」

「あ……違うんです。そんな純粋な気持ちだけじゃなくて、私はただ、蓮介先輩がいなくて寂しかったから……」

「俺に会えなくて寂しいって思って貰えたのも、ちょっと嬉しかった」


 蓮介は頬をかきながら照れ笑いすると、彼女に優しく告げる。


「俺も芽生ちゃんに会いたかったから」

「へ……」


 芽生は顔を赤くして固まる。


(ど、どういう意味の言葉……? もしかして、脈ありだったりする……?)


 芽生が混乱していると、蓮介の母がティーカップをお盆に乗せてやってきた。


「レモンティー持って来たんだけど、飲む?」

「あ、ああ……はい! ありがとうございます!」


 母はレモンティーをテーブルに置くと、蓮介に向かってにこりと微笑んだ。


「蓮介、明日は部活に顔出したら? 可愛い後輩が部活に誘ってくれてるのに、行かないなんてもったいないわよ」


 母の言葉に、蓮介は「でも……」と口ごもる。そんな彼に、母は続けた。


「本当は行きたいんでしょ」

「う……母さん、心読んだ?」

「顔を見れば分かるわ。色々心配なことがあるのは分かるけど、家に籠ってじっとしてても何も解決しないわよ。未来の心配なんてしても仕方ないんだから」


 母の言葉を蓮介はゆっくりと受け止め、頷いた。


「……そう、だね」


 たしかに母の言う通りだ。家で手をこまねいているだけでは魔導士協会とのことも解決なんてしない。彼らに接触しなくては始まらないのだ。


「うん、明日は部活に行くよ」

「ほ、ほんとですか!?」


 芽生の目が輝く。その心から嬉しそうな顔を見て、蓮介は顔を綻ばせた。


「うん。行くから、一緒にバドミントンしよう」

「はい!」


 芽生は勢いよく頷いて、満面の笑みを浮かべた。蓮介とまたバドミントンができる。それだけで嬉しくてどうしようもなかった。

 バドミントンは好きだ。ただ、蓮介と仲良くなりたいと思うのは事実だし、純粋にバドミントンのことだけを考えているわけではない。しかし、それでも……大好きな人と大好きなバドミントンができるのは、何の後ろめたさもなく心の底から嬉しかった。

 一方の蓮介も、芽生の笑顔を見て心が満たされていくのを感じていた。

 やはり、芽生が笑ってくれると嬉しい。先日、彼女の弱さを見たからだろうか。彼女がなりたい自分になれるよう応援したからだろうか。蓮介は、芽生のことを守っていきたいと思っていた。

 芽生の幸せそうな笑顔を守りたい。

 確かに、魔導士協会のことは不安が残る。先日の男がもう一度来た時、自分の魔術では太刀打ちできない可能性も高い。しかし、もう迷ってはいられない。

 守れるか? ではなく、守るのだ。絶対に。

 蓮介は、心の中でそう誓った。

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