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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第一章 恋と魔法と始まりの日々
13/55

12 認めてもらいたい

 翌日、冬紀は放課後、手芸部の活動で家庭科室に来た。部員達が集まる中、顧問の男性教師が全体に声を掛ける。


「皆さんにお知らせがあります。6月9日開催の初風商店街の創業祭で、商店街主催のファッションショーが催されることになりました。そこで、うちの部からもぜひ参加者を募ってほしいとのことなのですが、参加したい方はいますか?」


 顧問の案内を聞き、冬紀は顎に手を当てる。


(ファッションショーか……これも、活動実績にはなるかもな。服はあんまり作ったことないけど、挑戦する価値はある)


 他の部員が迷って手を上げずにいる中、冬紀は真っ直ぐに挙手した。


「オレ、参加したいです」


 部員達が一斉に冬紀の方を見る。顧問もにこりと笑って頷いた。


「分かりました。他にも参加したい人がいたら、後からでいいので声を掛けて下さいね」


 顧問はそう言うと、部員達に「今日も自由に自分の作品を作って下さいね」と伝え、家庭科室の教壇前に座った。

 部員達も、各々自分の作品作りを始める。ミシンを使う者、手縫いで小物を作る者、裁縫組から離れた席でハンドメイドアクセサリーを作る者など様々だ。

 冬紀も裁縫セットを取り出し、ハンカチに花の刺繍を入れていく。


(……ファッションショーに使う服の布、買いに行かないとな。この前バイト代入ったばっかりだし、予算は余裕を持って考えてもいいかも)


 冬紀はそんなことを考えながら、部活が終わるまでチクチクと針を進めた。


* * *


 放課後、冬紀は大通りのショッピングモールの手芸屋に入り、布を物色した。棚には、淡いピンクの水玉の布や、植物柄の布、チェック柄や大きな花柄の布まで様々ある。


(うーん、どれにしようかな。無難に行くならこのチェックとか水玉なんだけど……こっちの小花柄もいいよな。モデルを選びそうだけど……)


 冬紀は青い小花柄の布を手に取り、考え込む。


(この布でワンピース作ったら、美世に似合いそう……って、美世に着てもらう訳にはいかないでしょ。美世達に認めてもらうために実績作ろうとしてるんだから)


 冬紀はブンブンと首を横に振り、その布を棚に戻そうとした。しかしその時、丁度店員が冬紀に声を掛けてきたのだ。


「お客様、何に使う布をお探しですか?」

「えっ!? あ、ああ……ワンピース作ろうと思ってて……」


 咄嗟に「ワンピース」という言葉を口走ってしまい、冬紀は後悔した。しかし、店員はニコリと笑うと、冬紀の持っている布を手で示す。


「でしたら、今お客様がお持ちの布は、かなり縫いやすい素材ですよ。サラリとした生地で丈夫なので皺にもなりにくいですし」

「そうなんですか……」


 冬紀は自分の持った布をもう一度見る。可愛らしさと華やかさが同居している、大好きな彼女に似合うであろう色と柄。この布でワンピースを作れたら、楽しそうだ……そんな気持ちが沸いてきた。


「じゃあ、これにします」


 冬紀は頷いて、店員と布の長さの相談をし、必要な分を買って店を出た。

 彼の後姿を見ながら、店員は微笑む。


(彼女さんにでもプレゼントするのかしら……)


* * *


 冬紀が手芸屋から出てショッピングモールの玄関に向かおうという時、通り道のレストラン街に見覚えのある人物がこちらの方向に歩いてきた。

 肩まで伸びた茶髪と、スラリと伸びたモデルのような脚の少女。そして、彼女を挟み込むように並んで歩くスタイルの良い男女。


(美世とご両親だ!)


 冬紀は咄嗟に曲がり角まで戻り、姿を隠す。ちらりと3人の方を窺って、彼らが無事にイタリアンレストランに入ったことを確認し、冬紀は胸を撫でおろした。


(美世はともかく、ご両親には見つかったらまずいからな……3人が出てくる前に、早く帰ろ)


 そう思い、冬紀が足早にレストラン街を通り過ぎようとした時だった。

 ピロン! とスマホが音を出したのだ。

 確認すると、母からメッセージが届いていた。


『今日の18時からショッピングモールのスーパーでタイムセールがあるのよ。卵と豚肉と牛乳買ってきて』

「げ、タイムセール? 混みそうで嫌だな……」


 冬紀は顔を顰めた。しかし、八坂家の家計はあまり余裕がない。セールで安く手に入るならその方がいい。

 時間を確認すると、17時45分だった。今からスーパーの方に戻ればギリギリ間に合うだろう。


「しょーがない。行くか」


 冬紀は溜息を吐き、スーパーへと急いだ。


* * *


 一方、美世はレストランでパスタを食べながら両親と雑談していた。


「3人でご飯食べるの久しぶりだね」


 美世の言葉に、彼女の父、安住祐一が笑う。


「ああ、パパもママも忙しかったからね」


 その隣でモデルのキサキ……安住喜咲もクスリと笑いながら美世を見る。


「そうね。美世、高校はどんな感じなの? 」

「勉強もダンス部の練習も、しっかり頑張ってる。ダンス部でね、今度学内公演をするんだけど、そのメンバーに選ばれたんだ」


 美世は笑顔を作ると、パスタを口に運んだ。その様子を見て、喜咲も微笑む。


「そう。なら良かったわ。さすが私達の子ね」


 ——さすが私達の子。


 その言葉が、美世の胸にドスンと大きな音を立てて落ちてきた。緊張と憂鬱さで、口に入れたミートソースパスタの味が分からなくなる。


「……うん」


 美世は小さな声で頷き、再びパスタをフォークで巻き始めた。


「美世、次に学外の人が見られるダンスのステージはいつなんだ?」

「えっと、次は関東予選のコンテスト……だけど、それは先輩方が出るから私は応援だけ。私が出るのは文化祭かな?」

「そっか。文化祭……行けたら行きたいな。なあ、喜咲」

「そうね。美世のダンス、どんなに上手くなったのか、久しぶりに見てみたいわ」


 両親の言葉がプレッシャーに変わる。美世の顔を見ないようにしながら、辛うじて頷いた。


「うん。私、頑張るよ」

(頑張るしかないんだ。凡人な私が、パパとママの期待に応えるには……それしかないんだ)


 美世の両親は、美世の気持ちには気が付くことなく、彼女を見て微笑んでいた。


* * *


 食事を終えて店を出ると、ちょうど父の電話が鳴った。


「ああ、事務所からだ。少し出てくる」


 父はそう言うと、話しながら外へ出ていく。それを見送った母も美世に「ごめんね、少しトイレに行ってくるわ」と声を掛けその場を離れた。

 2人がいなくなり、美世は気が抜けて「ふう」と息を吐いた。


(パパとママと一緒にいられるのは嬉しいけど、ちょっとプレッシャーがあるんだよな。立派な2人みたいになりたいけど、どんなに頑張っても2人の華やかさには敵わないなって思っちゃって……)


 美世が目を伏せてその場に立ち尽くしていると、不意に誰かに腕を掴まれた。


「お嬢さん、一人?」


 見ると、金髪でピアスをした、青い学ランを着崩した男子が、美世のことを見て怪しく微笑んでいた。


「え……?」

「良かったら一緒に遊ばない? 向こうに俺の友達もいるからさ」

「い、いや、両親と一緒に来てるから……」

「家族と一緒にいるより、俺らと一緒にいる方が楽しいって」


 なかなか引き下がらない男子を見て、美世は青ざめる。


(どうしよう。変な場所に連れていかれたりしたら……)


 大きな声を出して助けを呼ぼうとするが、怖くて声も出せない。そうしているうちに、男子が強い力で美世を引っ張っていく。


「いいから来いって」

「っ……や、やだ……」


 必死に抵抗しようとする美世だが、力の差がありなす術もない。周りの通行人も、怯えた顔でこちらを見るだけで助けようともしてくれない。

 しかし、その時。


「おい、やめろよ」


 その男子の腕を、誰かが掴んで振り払った。

 美世が見ると、冬紀が、自分を庇うように立ち塞がっていたのだ。

 唐突にナンパの邪魔をされ、学ランの男子は不機嫌な顔で冬紀を睨む。


「お前、誰だよ?」


 不良っぽい見た目もあって、かなりの迫力がある睨み顔だった。

 よく見るとガタイだっていい。男子にしては華奢な冬紀では力負けすることは目に見えていた。

 しかし、冬紀は全く怯まなかった。


「この子の幼なじみ。……嫌がってる女の子を無理やり連れて行こうとするなんて、人としてどうなの?」


 冬紀に静かに睨まれ、相手の男子は顔を真っ赤にした。


「何だと……!」

「これ以上この子に乱暴しようっていうなら、警察呼ぶよ? スマホで証拠写真もバッチリ撮ってあるし、言い逃れできないけど、どうする?」

「っ……! くそっ!」


 冬紀の言葉を聞き、男子は慌てて逃げだした。冬紀はそれをやれやれと見送る。


「ああいう威勢の良い奴ほど、中身は臆病だったりするんだよね……」


 冬紀は呟き、美世の方を振り返った。


「大丈夫? 何もされてないよね」

「う、うん……」


 まだ震えている美世を見て、冬紀は彼女の肩をポンポンと叩いて微笑む。


「もう大丈夫だよ」


 その笑顔を見て、美世は頬を赤くする。


(冬紀は、昔からいつだって私を助けてくれる。でも、私は冬紀の気持ちに何一つ応えられてない。……このままで、いいのかな)


 何も言えずに目を伏せる美世を見て、冬紀は首を傾げた。


「美世?」

「ああ、ごめん……ありがと」


 美世は冬紀と目を合わせないまま呟くように言った。それを見て、冬紀は頭をかく。


(……まだ、オレと一緒にいたくないって感じかな)


 胸がズキリと痛んだのに気が付かないフリをして、冬紀は明るい声を美世に掛ける。


「買った豚肉が傷む前に帰んなきゃ。じゃあね」


 冬紀は美世に向かって笑顔を作り、足早に玄関に向かった。

 美世はその後ろ姿を見つめて、唇を噛みしめる。


(……このままじゃダメだ。私も、勇気をださなきゃ)


 美世は冬紀の後を追いかけようとして、足元に青い小花色の布が落ちているのに気が付いた。


「これ……もしかして冬紀の?」


 美世は布を拾い、急いで冬紀の後を追いかけようとした。

 しかしその時、ちょうど母がトイレから戻って来たのだ。


「美世、おまたせ」

「あっ、ママ……」


 母は美世が持ってる布を見るなり首を傾げる。


「あら、その布どうしたの? 落とし物?」

「う、うん。友達が落としていったみたいで……」

「そう。なら、届けなくちゃ。その子の家、分かる? 帰りに車で寄りましょうか?」


 母の申し出に、美世は咄嗟に首を横に振った。


「大丈夫! この街の中だし、明日は休みだから私が届けに行くよ。友達にも連絡しておく」

「そう? まあ、あなたがいいならいいけど……」


 2人が話をしているうちに、父も帰ってきた。


「お待たせ。さあ、帰ろうか」

「あ、うん。ママ、行こう」


 美世は母を促して、父と共に駐車場へと向かった。


(いきなり、ママ達を冬紀に会わせる訳にはいかない。ちゃんとした理由が無いと、2人はきっと冬紀と一緒にいることを認めてくれないと思う。どうしたらいいか、ちゃんと考えなきゃ)


 歩く最中、美世はずっと、冬紀の布を大事に抱きしめていた。

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